群青 愛が沈んだ海の色

新宿武蔵野館3 ★☆

長澤まさみ、佐々木蔵之介、良知真次、田中美里、中川陽介監督のサイン入りポスター。

■呪いのサンゴが沈んだ海の色

じじい係数が上がって、ゆったり映画の方が受け入れやすくなっているのだが、でもこの作品ように大した内容ではないのに長いのは困りものである。

第一章は、病気で南風原島に帰ってきたピアニストの由紀子と漁師(ウミンチュ)の恋。漁師の仲村龍二は由紀子のピアノの演奏を聞いて夢中になってしまう。「芸術というのはいいものだ」などとぬかしちゃったりしてさ。すさんだ由紀子の演奏に乱れがなかったかどうか気になるところではあるが、私と同じく龍二にそこまで聞き分ける耳があったとも思えない、じゃ話にならないから、そんなことはわざわざ言ってなかったが。

それはともかく、自棄になっていた由起子だが、龍二の想いが次第に彼女を癒していく。龍二は由起子のために、女のお守りであるサンゴを二日がかりで採ってくる。「身につけていれば病気が治る」はずであったが、そして二人は結ばれはするのだが、由紀子は赤ん坊の娘を残して死んでしまう。

その娘涼子が育って、同年代が他に上原一也と比嘉大介の男二人だけの、兄弟のように育った三人の複雑な恋物語になるのかと思っていると、仲良しと好きは違って、で、あっさり決着。失恋した大介は島を去って行く。が、涼子の心を掴んだ一也も、十九歳にもなっていないのは若すぎると、結婚の許しを龍二からもらえない。龍二のようにサンゴを探してくれば一人前の漁師として認めてもらえるのではないかと懸命になる一也だったが、十日目に命を落としてしまう。これが第二章。

第三章は、一也の死のショックで精神に異常をきたしてしまった涼子のもとに、一年ぶりで大介が戻ってくる(巻頭の場面にもなっていた)。島で昔作られていた焼き物を復元したいという理由はともかく(そういや大介は那覇の芸術大学へ行ったのだった)、龍二の家に居候っていうのがねぇ。龍二には大介の力を借りてでも涼子を何とかしたいという思いがあったのだろうが……。

どの話も中途半端で深味がないかわりに(事故という大袈裟な設定はあるが)、誰にでも思い当たる部分はありそうで、だから共感が出来ないというのではないのだが(って無理に褒めることもないのだけど)、各章の要となる部分が恐ろしく嘘っぽいため、せっかく積み上げてきた挿話が実を結ぶには至らない。

なにより酷いのが死を安易に使いすぎていることで、特に一也の無駄死には、経験は少なくても彼が一応漁師の端くれであることを考えるとあんまりだろう。素潜りが得意と言っていたから過信があったのかもしれないが。そして、他にも説明がうまくいっていない部分が沢山あるのだ。

龍二は涼子に、サンゴを採ったからって一人前の漁師になれるわけではないし、家族を守るためにはまず自分を守らなければいけないと言う(これは、事故が起きる直前の会話)のだが、考えてみれば龍二のサンゴ採りも嵐の中、二日も連絡なしでやっていたのだから褒められたものではないのだが、まあ、若さというのはそんなものか。

大介の事故に至っては、その行為が唐突で、何で龍二が大介を見つけられたのかもわからないし(島のみんなが総出で探してたのにね)、涼子には母の由紀子が、そして大介には一也が来て(現れて)助かった、って、何だこれってオカルト映画だったのか、とも。

大介の行為を唐突と書いてしまったが、大介は涼子の精神が破綻しているのをいいことに彼女を抱こうとした自分への嫌悪感があった(これはわかる)。このことの少し前に、大介の焼き物作りが涼子の心を少し開いたかと思わせる場面(涼子も花瓶を作り、大介と一緒に一也の家に届ける)があるのだが、「涼子のためだったら何でもする」と大介が言った時の涼子の答えは「一也を連れてきて」だった。

けれど、だからといって大介までもがサンゴ探しとなるのは飛躍しすぎで、これではやはり呪いのサンゴ説としかいいようがなくなってしまう。

映画が茫洋としていてつかみどころがないのは涼子の精神荒廃そのもののようでもあるが、もしかしたら誰に焦点を当てているのかがはっきりしないからではないか。語り手を大介にしたのなら第一章はなくてもすみそうだし、でもだったら主人公は涼子なのか、龍二なのか。そもそもこの映画の言いたいことは何なのか。もっとしゃんとして映画を作ってほしいものだ。

あとこれはどうでもいいことなのだが、私の観たフィルムでは、題名は原作と同じ『群青』のみで、副題はどこにも表示されていなかった。

 

2009年 119分 シネスコサイズ 配給:20世紀フォックス

監督:中川陽介 プロデューサー:山田英久、山下暉人、橋本直樹 アソシエイトプロデューサー:三輪由美子 原作:宮木あや子『群青』 脚本:中川陽介、板倉真琴、渋谷悠 撮影:柳田裕男 美術:花谷秀文 衣裳:沢柳陽子 編集:森下博昭 音楽:沢田穣治 主題歌:畠山美由紀『星が咲いたよ』 スタイリスト:安野ともこ ヘアメイク:小林博美 ラインプロデューサー:森太郎 音響効果:勝俣まさとし 照明:宮尾康史 装飾:谷田祥紀 録音:岡本立洋 助監督:橋本光二郎

出演:長澤まさみ(仲村凉子)、佐々木蔵之介(仲村龍二/凉子の父)、福士誠治(比嘉大介)、良知真次(上原一也)、田中美里(仲村由起子/凉子の母)、洞口依子、玉城満、今井清隆、宮地雅子

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