めがね

テアトルタイムズスクエア ★★☆

■「たそがれ教」にようこそ

主人公のタエコ(小林聡美)はとある南の島に降り立ちハマダという人気のない宿にたどり着くが、たそがれ教の一味であるユージ(光石研)とサクラ(もたいまさこ)に洗脳されそうになる。それに気付いたタエコは島にあるマリンハウスというもう1軒の宿へ逃げ出すが、そこは労働と学習というコンセプトのもとに取り仕切られた収容所で、しかも実体はたそがれ教に帰依させるための出先機関であった。

このカラクリにまんまとはまってしまったタエコは1日中島をさまよい歩いたあげく、夕方にはサクラの運転する三輪車に乗ってハマダへと回収されるしかなかった……。

というのは大嘘で、実は何も起こらない映画というのが1番正しいだろうか。とはいえ上記のような陰謀説が成立しないかというと、そう簡単でもない。

登場人物はそのほとんどが謎。春の閑散期に島へやって来たタエコは年下のヨモギ(加瀬亮)が彼女を追ってくるからワケありなのだろうか。けれど2人の仲はとてもベタついては見えない。ヨモギがタエコを「先生」と呼んでいるので、ふーんそうなのかと思うが、それ以上のことは何もわからない。というより明かしてくれないのだ。

宿の主人のユージや、常連客だというサクラ、地元の生物学教師で授業をさぼってばかりのハルナ(市川実日子)も似たようなもので、謎ではあっても余計な詮索はしないということか。といって他人に対して、まったく無関心かというとそんなことはないのだが、訊かれても曖昧に答えておいて、それでおしまいなのだから始末に悪い(俗人としては生計がどうやって成り立っているのかだって知りたいのだ)。ここらへんは『かもめ食堂』と同じスタンスなのだが、印象は微妙に違う。

んで、結論はというと、とてもここにはいられないと思っていたタエコが、次の年にはサクラよりも島に先に来ていて、すっかりたそがれ教の信者になってしまっているのであった。

しかし、こんな休暇を取る余裕があるということ自体が何とも腹立たしいのだな。「飽きるまで」いる、っていうんだから。もっとも教祖のサクラにしてもずっといるわけではないってことは、永住するには飽きてしまうのかもしれない。それともお金を取らないかき氷屋を開くためには、別な場所ではちゃーんと稼がなければならないことを仄めかしているのだろうか。

説明を極力排して、実時間にそったかのようなゆったり感は、確かに心地よいものがあるが、唐突なヨモギのドイツ語の詩の朗読や教祖様(或いは宇宙人か)サクラの言動は、映画でなく現実であったなら、薄気味悪いだけだろう。タエコが心変わりしてしまったのは、あのかき氷の小豆あたりに洗脳薬が仕込まれていたからではないか。

仕事とは無関係ののんびりとした自然の中で、その自然の恵みであるおいしいものを心ゆくまで食べるということだけでも都会人にはもてはやされるのか。休日のタイムズスクエアは見事に満席だったが、でもこれってただただ貧相なことの証みたいなものなんだけどねー。

ところでエンドロールを眺めていたら、マリンハウスのオーナー役の薬師丸ひろ子を「めがね」の友人とクレジットしていた。これはどういう意味なのだ。タエコ、ユージ、サクラ、ハルナ、ヨモギの5人全員がメガネをかけているから『めがね』というタイトルなのはあんまりだとは思っていたけれど、でもこう書かれたらもっとわからなくなる。こんなところまで気を引いておいて、答えを明かしてくれないんじゃ、私はたそがれ教には入信しないよ。

 

2007年 106分 ビスタサイズ 配給:日活監督・脚本:荻上直子 プロデューサー:小室秀一、前川えんま エグゼクティブプロデューサー:奥田誠治、木幡久美 アソシエイトプロデューサー:オオタメグミ 企画:霞澤花子 撮影:谷峰登 美術:富田麻友美 編集:普嶋信一 音楽:金子隆博 音楽プロデューサー:丹俊樹 エンディングテーマ:大貫妙子『めがね』 スクリプター:天池芳美 スタイリスト:堀越絹衣、澤いずみ フードスタイリスト:飯島奈美 ヘアメイク:宮崎智子 写真:高橋ヨーコ 照明:武藤要一 録音:林大輔 メルシー体操:伊藤千枝(珍しいキノコ舞踊団)

出演:小林聡美(タエコ)、光石研(ユージ)、もたいまさこ(サクラ)、市川実日子(ハルナ)、加瀬亮(ヨモギ)、薬師丸ひろ子(森下/「めがね」の友だち)

ストレンヂア -無皇刃譚-

テアトル新宿 ★★☆

■殺陣、殺陣、殺陣

アニメで殺陣を描くことを追求した作品といってしまっていいくらい斬り合いの場面が詰め込まれている。見せ方にも工夫があって、そうとう殺陣にこだわりがあるのだなと思わせるが、背景部分は大風呂敷を広げた割には雑。

不老不死の仙薬を抽出するために是が非でも必要だという少年(ここがやはり説得力に欠けるのだな)仔太郎とかかわりをもつことになる浪人の名無しが、戦国時代のとある国を滅ぼすことになる戦いに巻き込まれていく。

日本にまで仔太郎を追ってきたのは明国の王命を受けた者たちで、その中には青い目の羅狼という者までがいて、クライマックスではこの名うての剣の使い手と抜刀を封じていた(抜刀できないようにしている)名無しとの対決がある。

彼らが赤池ノ国の領主にどうやって取り入ったかは不明ながら、領主の庇護の元、大掛かりな装置(薬の抽出のためらしいが、大げさなだけでさ)をある時期に合わせて作りあげる(これまた薬に関係があるらしい)。もっとも、領主の方もただ明の人間たちにいいようにやられているような人間ではないから、最後には両者の熾烈な争いになる。

明からの武装集団は不老不死の仙薬を抽出しようとするだけあって、自分たちにも薬を使った強化をしている。ドーピングは拷問にも耐えられるすごいものなのだが、領主側もそんなことに少しもひるまない。

なにしろ戦いにからんだ人間(名無しと仔太郎の他)は、すべて死んでしまうことになるのだから凄まじい。姫を我が物にしたい若者を出してきて、普通なら美談めいた扱いにするところだが、若者は明の捕虜となった城主を自らすすんで殺してみせる。そしてこの若者も適当なところで画面から抹殺されてしまうのだ。

描写もPG-12ですんでいるのはアニメだからであって、このままそっくり実写にしたら目をそむけずにはいられないほどの残酷さなのである。

救いは名無しと仔太郎とが一緒に行動することになって、何とか生き延び、馬に乗りながら将来を語るところだ。この流れや名無しの過去の扱いなどは使い古されたものなのだが、全体が殺伐とした雰囲気にある中で、生きることの楽しさがうまく演出されていた。

  

2006年 102分 ビスタサイズ PG-12 配給:松竹

監督:安藤真裕 アニメーション制作:ボンズ プロデューサー:南雅彦 原作:BONES 脚本:高山文彦 撮影監督:宮原洋平 美術監督:森川篤 美術設計:竹内志保 音楽:佐藤直紀 音響監督:若林和弘 作画監督:伊藤嘉之 色彩設計:中山しほ子 人物設計:斎藤恒徳

声の出演:長瀬智也(名無し)、知念侑李(仔太郎)、竹中直人(祥庵)、山寺宏一(羅狼)、石塚運昇(領主)、宮野真守(戌重太郎)、坂本真綾(萩姫)、大塚明夫(虎杖将監)、筈見純(絶界)、野島裕史(風午)、伊井篤史(白鸞)