100,000年後の安全

ヒューマントラストシネマ有楽町シアター1 ★★★

■10万年という単位

今回の原発事故で、秋の公開予定が繰り上げられたとあるが、NHKのBSではすでに放映されたもののようだ(テレビはほとんど見ないし、そもそもというか、だから、BSも契約していないので何も知らないのだが)。

原発が安心かどうかという議論は、議論にならないと思っている(注1)ので、食指は動かなかったが(なら観るな、ってね。はは)、映画はそこのところは、安全など論外と素通りしていて(なんと正しいことか!)、危険極まりない放射性廃棄物が安全になるまでの10万年間、人類はそれを管理できるのかということを、フィンランドの地下最終処分場に関わった人たちにあれこれ語らせている。

興味深いのは、10万年の保存が可能かどうかではなく(固い岩盤がそれを可能にしていると、建設を始めたのだから信じているわけだが、ここは疑わなくてもいいのだろうか)、その間に未来の人類がそれを掘り起こしはしないか、あるいはそれが危険なものだということが伝わるだろうかという問い掛けだ。

とにかく10万年である。何も考えず未来の人類と書いてしまうのであるが、果たして10万年後に人類は存在しているのか。いたとしても言語や思考回路、そして外見だって違っていると考えるべきなのだろうが、10万年という単位に思いをめぐらしたことなどないから、皆目検討がつかない。

SFの世界では何世代もかけて星間移動するという話がよくでてきて、当初の目的が忘れ去られていたり、自分たちが巨大宇宙船にいるということすら分からなくなっていたりするが、10万年というのはそれどころではない単位、らしい。もちろんそういったSFも沢山あって、私も少しは読んでいるはずだが、自分たちが出した廃棄物をどう保管するかと考え出すと妙に現実を引きずってしまって、お気楽に(大好きなSFを卑下してるようで心が痛むが)SFを読んでいるようなわけにはいかなくなる(だからって、100年後なら責任を感じるかといわれると、それでも答えに窮してしまうのだが)。

原子力の厄介さは、今回の事故で嫌というほど思い知らされたが、この映画を観ると、厄介とかいうレベルの話ではなく、10万年という物差しを持っていない今の人類が扱ってはいけないものだということがよーくわかるのである。

映画の評価からは離れてしまったが、まあドキュメンタリーなんで、いいとしよう。問い掛けの部分では目を開かれたし、無機質で洗練された映像も楽しめた。もっともこの映像美は、地下施設のデザインに負うところが大きいだろうか。

http://www.uplink.co.jp/100000/
↑オフィシャルサイトだが、ここにある予告篇だと10万年後にあまり触れていないのだが。


Into Eternity – Trailer 予告篇も作り方でいろいろになる。

http://www.youtube.com/watch?v=BN25RTYjjIg&feature=related
ONKALO
施設のことだけならこの映像でもかなりのことがわかる。

http://www.jsce.or.jp/committee/rm/News/news8/Onkalo.pdf
映画とは別に、こんな文書もネットにあった。関係者にはフィンランドの処分場ことはよく知られているのだろう。

http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=jXNyEiw28D0#at=18
The €/Helsinki underground Master plan [Watch it to Believe it]
上の映像は、ヘルシンキの地下都市の様子。

放射性廃棄物には近寄ってはいけない=掘り起こしてはいけない、と映画の中でも言っていたが、フィンランドの地下利用は半端じゃないので(映画でこのことに触れてないのは、フィンランドの人たちには自明のことだからだろう)、10万年もの間にはニアミス?だって起きるのではないかと心配になる(処分場は、ヘルシンキからだと240kmも離れた島らしいが……)。

注1:作ったもので壊れないものはないのだから、安全などということを言うこと自体がおかしいのだ。何であれリスクはあるのだからこれはむろん極論ではあるが。とはいえ「安全」とか「事故はおきない」という姿勢や説明がまかり通ってきたのは驚きといほかない(それを見過ごしてきた我々の責任も大きい)。で、事故はおきるものという前提に立ったとしても、原子力発電の場合、他の事故と違って簡単に修復作業に入れないという問題がある(アシモ君が人間と同程度の働きができるようになれば、少しは違ってくるだろうが、それにしても放射能の拡散という問題はなくならない)。

5/27追記:今日、知人に見せてもらった資源エネルギー庁のパンフレットにも地下貯蔵所の記述があった。が、その場所は「公募中」になっている。要するに、決まらないし、どころか決められないということなんだろう。固い岩盤があるにもかかわらず10万年後の心配をしているフィンランドに比べ、地震国日本の原子力政策には、根本的な視点がまったくないようである。

原題:Into Eternity

2009年 79分 デンマーク/フィンランド/スウェーデン/イタリア ビスタサイズ 配給:アップリンク

監督・脚本:マイケル・マドセン 脚本:イェスパー・バーグマン 撮影:ヘイキ・ファーム 編集:ダニエル・デンシック

出演:T・アイカス、C・R・ブロケンハイム、M・イェンセン、B・ルンドクヴィスト、W・パイレ、E・ロウコラ、S・サヴォリンネ、T・セッパラ、P・ヴィキベリ

2010年パリ国際環境映画祭グランプリ
2010年アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭 最優秀グリーン・ドキュメンタリー賞受賞
2010年コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭 有望監督賞受賞

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