ターミネーター4

新宿ミラノ2 ★★★

写真:六月七日に先行上映された時のミラノ座の入口のタイムテーブル。六時十五分の回に来た強者は何人いたのかしら。

■未来の話なのに新鮮味に乏しい

シリーズものの映画感想文を書く度、記憶力のなさという弁解から始めなくてはならないのは気が引けるが、事実なのでどうしようもない。真面目な映画ファンならDVDで過去の作品をおさらいしておくのだろうが、そういうマメさを持ち合わせていないので、かなりアバウトな鑑賞になっていることをまず断っておく。

しかしながらこの作品、過去のしがらみから切り離してみると(記憶力の乏しさ故そういう観方しかできないのではあるが)なかなかよく出来ていることに気づく。

なんとも不気味なコロムビア映画のタイトルから、「審判の日」を迎えてしまった二千十八年の世界を覆い尽くしている暗さが、尋常でないことを物語る。次々と登場する人間狩りマシーンによってもたらされる殺伐とした世界の描写にはお手上げで、とてもこんなヤツらの目をかすめてなど生きていけそうもない気分になる。巨大ロボットやモトターミネーターに水中ターミネーターの出来映えが素晴らしく、つまり恐ろしいことこの上ないのだ。

が、圧倒的な機械軍(スカイネット)に対し、抵抗軍がかなりの戦力をもって組織されていることには、とりあえず安堵もできる。また対機械という戦いの、ぬぐいきれない暗澹たる気分の前で、ジョン・コナーの戦いぶりがかすかな希望となっているのもよくわかる導入部になっている。

いままでの作品が、未来から使命をおびてやってきたターミネーターといういささか荒唐無稽な設定であったのに比べ、その未来に飛んだこの作品ではそのあたりの無理矢理さがなくなり、すっきりとしたわかりやすい話になっている(むろんカイル・リースの確保が重要であったり、ジョンの母親が残した予言テープみたいなものが絡んきだりと、従来作から引き継がれたタイムスリップ的要素が出てくるのは言うまでもない)。

スカイネットのロボットを混乱させるシグナルを手に入れた総司令部が、結局は、まるで
原子力潜水艦で逃げ回ってばかりの頼りない連中だからという烙印を押されるかのように、そのシグナルは司令部の場所を探知するためのスカイネットが仕組んだ罠だったため、あっさり葬り去られてしまうのだが、総攻撃時にもジョンのような信頼感を得ているわけではないから、司令部連中の面子は丸潰れで、味方の人間がやられたというのに、あーそりゃ残念でしたと茶化し気分になってしまう。

実際、このあたりから失速しだしてしまうのだが、単純な私など、これは本当に大傑作かもと、巻頭からわくわくしながら観ていたのである。

抵抗軍の女性兵士ブレア・ウィリアムズがマーカスという男を連れて帰るのだが、実はマーカスがサイバーダイン社の謀略から生まれた機械人間で、本人も自分が人間であることを疑っていないというのが、この作品での鍵になっている。

マーカスの力を借りて捕虜になったカイル(殺しちゃえばすむのにね)を助けにスカイネットの基地に侵入するのだが、マーカスはスカイネットにとっては仲間で、だから簡単に入場許可されて(機械と認識されてしまったわけだ)、少なからず落胆したようなマーカスという図が面白い。

もっともこのマーカスの存在自体が、いくら人間の中に入り込むために作られたにしても、こうはっきり人間性を取り戻して?しまったのでは、スカイネットとしては手落ちもいいところで、ちょっと白けるところだ。マーカス自身も元はといえば死刑囚だったわけで、復活した途端善人になっていたというのでは書き込み不足だろう。

だからブレアとの恋のようなものが挟まれているのだろうが、これがブレアの一方的とも思われる積極さで、マーカスを逃がす伏線にはなってはいるが、マーカス自身の心のありようにまでは踏み込んでいないのが惜しまれる。『ターミネーター2』では、T-800のチップをいじって人間の味方としていたが、身体は機械ながら心はまだ人間のマーカスとの面白い対比となったはずである(けど、どう違うのかは難しい問題だ)。

マーカスをロボット化する医師のセレナ・コーガンが、スカイネットの反乱(これは別の技術者が絡んでいたはずだ)と重なってしまうようで気になるのだが(マーカスの前にセレナの映像を出したのはスカイネットの単なるサービスなのか)、そこらへんはもう一度観て確認したいところだ。

セレナの映像はサービスにしても、スカイネットの中枢と対峙した時の造型など、これまでにもよく出てきたものと大差がないから、まったく面白味がない。T-800の量産工場そのものがスカイネットなのだ、というような解釈でもできるような新しい発想があってもよかったのではないか。

繰り返しになるが、マーカスの苦悩が、そもそもの機械人間として誕生したところの部分がうまくないので、せっかくの設定がちっとも生きてこないのだ。マシーンの動きや世界観などがよくできているのに平凡な作品にしかみえないのは、こういうところの独創性のなさに尽きそうである。

そう思ってみると、T-800との戦いでもまた溶鉱炉が使われていて、その断末魔の動きなども、これはわざと前の作品をなぞっているのだろうが、新鮮味がないのだ。

次回作が、カイルが千九百八十四年に行く物語で(しかしこれだとまたタイムスリップものになっちゃうか)、これはその前置きというのならわからなくもないが、何だか惜しい結果となってしまった。

  

原題:Terminator Sslvation

2009年 114分 アメリカ シネスコサイズ 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 日本語字幕:菊池浩司

監督:マックG 製作:モリッツ・ボーマン、デレク・アンダーソン、ヴィクター・クビチェク、ジェフリー・シルヴァー 製作総指揮:ピーター・D・グレイヴス、ダン・リン、ジーン・オールグッド、ジョエル・B・マイケルズ、マリオ・F ・カサール、アンドリュー・G・ヴァイナ キャラクター創造:ジェームズ・キャメロン、ゲイル・アン・ハード 脚本:ジョン・ブランカトー、マイケル・フェリス 撮影:シェーン・ハールバット 視覚効果スーパーバイザー:チャールズ・ギブソン プロダクションデザイン:マーティン・ラング 衣装デザイン:マイケル・ウィルキンソン 編集:コンラッド・バフ 音楽:ダニー・エルフマン

出演:クリスチャン・ベイル(ジョン・コナー)、サム・ワーシントン(マーカス・ライト/元死刑囚の機械人間)、アントン・イェルチン(カイル・リース/ジョン・コナーの将来の?父)、ムーン・ブラッドグッド(ブレア・ウィリアムズ/抵抗軍の女性兵士)、コモン(バーンズ)、ブライス・ダラス・ハワード(ケイト・コナー/ジョン・コナーの妻)、ジェーン・アレクサンダー(ヴァージニア)、ジェイダグレイス(スター/不思議な力を持つ少女)、ヘレナ・ボナム=カーター(セレナ・コーガン/医師)、マイケル・アイアンサイド、イヴァン・グヴェラ、クリス・ブラウニング、ドリアン・ヌコノ、ベス・ベイリー、ヴィクター・ホー、バスター・リーヴス、ケヴィン・ウィギンズ、グレッグ・セラーノ、ブルース・マッキントッシュ、トレヴァ・エチエンヌ、ディラン・ケニン、マイケル・パパジョン、クリス・アシュワース、テリー・クルーズ、ローランド・キッキンジャー(T-800)

宮本武蔵 双剣に馳せる夢

2009/6/28 テアトル新宿 ★★★

■押井守流宮本武蔵論

アニメを使った宮本武蔵に関する文化映画みたいなものか。予告篇では「押井流“歴史ドキュメンタリー”登場」と紹介されていた。

アニメをベースにしたのは、作り手にとってそれが手慣れた手法ということもあるのだろうが、こういう文化映画でのアニメは、観るとわかるのだが、解説との調和が抜群で、映画を非常にわかりやすいものにしている。だからアニメがベースなのは、そういう利点を取り入れた結果でもあるのだろう。

事実、この作品にはアニメの他、実写もあれば、単純に写真も使い、ギャグキャラ押井守似宮本武蔵研究家(+役に立たない助手)の研究成果=蘊蓄(これが実にわかりやすくて面白かった)でほとんどを語っているものの、関ヶ原の合戦などでは浪曲を取り入れたりと、形にとらわれずに解説しまくっていた。まあ、こうすれば理解しやすくなるのはわかったが、構成や美的な趣味を考えると、私なら躊躇ってしまいそうだ。

内容も、いきなり有名な巌流島の決闘から始め、これについて武蔵が終生語ろうとしなかったのは何故か、という疑問で引っぱり、飽きさせない。知っているようで知らない宮本武蔵像に迫っていく。私も吉川英治の小説と、多分それを元にした映画くらいしか知らなかったからねぇ。「武蔵を巡る虚構を排し、その背後に存在するであろう真実の姿を描きだすこと、それこそが、私の研究テーマであり、そしてこの映画の主題です」と、武蔵研究家がズバリ言っていたが、ここでの論に自信があるのだろう。

武蔵の剣法が合戦をイメージしたものと結論づけるのだが、そこに至るまでの道筋を武士の成り立ちから考えるなど、奥の深い整然としたものだ。西洋、東洋、日本の武士の違いから、西洋の騎士はエリート特科部隊としての騎兵であって、彼らが付けていた紋章は身代金を払うためのサインだったという、びっくり論にまで及んでいて、これを聞いただけでも観る価値があった。

他にも、明治まで武士道など存在しなかったなどという、これまた言われてみると、なるほどと思うような話があったが、だけど、何で今、武蔵なんだろね?

2009年 72分 シネスコサイズ 配給:ポニーキャニオン

監督:西久保瑞穂 原作:Production I.G 原案・脚本:押井守 撮影:江面久美術監督:平田秀一 編集:植松淳一 主題歌:泉谷しげる『生まれ落ちた者へ』 CGIアニメーション:遠藤誠 キャラクターデザイン:中澤一登 音響:鶴岡陽太 作画監督:黄瀬和哉 美術監督:平田秀一 色彩設計:遊佐久美子 制作:Production I.G 浪曲:国本武春