スター・トレック

新宿ミラノ2 ★★☆

■最強物質電送機

(スタートレックに詳しい人は読まない方がいいかも)

CGの技術が日進月歩だから、というのも理由になるのではないかと思うが、エンタメ系SF人気作のリメイクや続編が装いも新たにといった形で登場(ビギンズやエボリューションとして)している。この作品は題名もシンプルに『スター・トレック』のみ。つまり今までの作品は清算して、ここからまたはじめるつもりなんだろう。

そういうわけで、ジェームズ・T・カークやその他の乗組員たちが、ロミュラン人のネロが引き起こした事件に平行して、揃っていくという物語になっている。ただ、特にファンでもない私など(映画も二、三本しか観ていないはす)、スポックの変わったイメージくらいしか頭に残っていないから、これはおいおいでもよかったのだが……。

カークとスポックに関しては少年時代から始めている。まずカークだが、これがなんとも危ない少年なのだ。度胸試しだけならまだ自己責任と見逃すこともできるが、自分のものでもないビンテージカーを谷底に落としてしまうのはやりすぎ。数年後もその性格はあんまり変わっていなくて、でもそんなカークに目を付けたのが、父の最期の場に居合わした新型艦U.S.S.エンタープライズの初代船長パイクで、12分間だけだったがU.S.S.ケルヴィンの船長で、それでも800人を救った父を超えてみろ(この経緯が巻頭の場面で、カークは父と入れ違うかのように生を受けたのだった)、とカークに言う。

パイクは、無鉄砲な性格が今の艦隊には欠けていると常々感じていたらしいのだが、でもこんなカークが士官になってさらに船を持ったらどうなるのさと思ってしまう(司官昇任試験で不正行為というのも見過ごせない)。まあ、だから直情的なカークと論理的なスポックというなかなか得難いコンビの誕生になるのだろうけど。でもねぇ。

このあとU.S.S.エンタープライズに乗り込むことになるのも緊急事態に乗じてだし(ボーンズの機転による)、何ともいい加減なものなのだ。で、最期には正式な船長になってしまうのだけど、なんだかえらく軽いノリなんだよね。さすがに見かねて(としか思えないのだ。自分は感情に負けて船長の座を降りたのに、こいつときたら……、だからね。って、この文章は感情的だが)、スポックがサブリーダーに立候補するのだけど、スポックの補佐がないのだったらカークには辞めてもらう他ないんだもの。ただの戦闘機乗りならともかく、U.S.S.エンタープライズの船長となるとねぇ。

スポックの生い立ちについては、直情的なカーク篇に比べるとよく出来た話になっている。論理的なスポックではあるが、これはそもそもバルカン人の特性で、彼の場合は母が地球人という特殊な状況があり、実は彼にも感情を抑制できない時期があった(実際にはまだ過去形にはなっていなかったのだが)というのが興味深い。逆にいうと、そういう部分を持ちながら常に冷静でいられるようになったのだとしたら……。そして、混血のスポックには、ウフーラとの恋まで用意されているのだ。

このことと関連して気になるのがスポックの父の発言で、地球人と結婚したのは観察のため、とせっかく言わせておきながら、結局は愛していたから、と前言を取り消してしまう。これは非情でも、というかそれがバルカン人なのだから(バルカン人には恋という概念もなさそうなんで)、母の愛情だけでもよかったのではないか。あくまで父親はバルカン人としてふるまってくれないと、スポックが混血でなくてはならない理由がなくなってしまう。ただでさえ流れとしては、論理を捨て正しいと思ったことをせよ、なんだから。で、これには大いに反論したいのだが、映画とは関係なくなりそうなのでやめておく。

ところで、今回の敵のネロだが、これは採掘船ごと未来からやってきたという設定。だからとんでもない科学力も持っていて、惑星を巨大ドリルで穴を開け、赤色物質で惑星ごと消してしまうてんだからイヤになる(これでバルカン星は六十億の民が犠牲になってしまう)。なんでこうまでして派手にするかねぇ(巨大ドリル、よくできてるんだけどね)。さらには老人スポックまで未来からきて、こう都合よく時間移動されちゃうと、緊張感も何もあったもんじゃないんだけれど。

で、さらに調子が狂ってしまったのが、エンジニアのモンゴメリィ・スコットによる物質電送で、これがワープしている船にも転送できちゃったり、最期には「二ヶ所から三人の転送ははじめて」と、もうはしゃぎまくりの使いまくりなんだもの。絶体絶命で転送、って、ある意味最強じゃん! 観客の中にこれが受けて大声で喜んでいた人がいたが、そのくらいの気持ちで観ないと楽しめないかなぁ、と反省。だって、そもそもそういう話なんだろうから。

じいさんにはめまぐるしい作品だったが、宇宙空間の美しさにはひきこまれた。いや、わかってますって、CGなのは。

 

原題:Star Trek

2009年 129分 アメリカ シネスコサイズ 配給:パラマウント 日本語字幕:松崎広幸

監督:J・J・エイブラムス 製作:レナード・ニモイ、J・J・エイブラムス、デイモン・リンデロフ 製作総指揮:ブライアン・バーク、ジェフリー・チャーノフ、ロベルト・オーチー、アレックス・カーツマン 原作:ジーン・ロッデンベリー 脚本:ロベルト・オーチー、アレックス・カーツマン 撮影:ダン・ミンデル 視覚効果スーパーバイザー:ロジャー・ガイエット プロダクションデザイン:スコット・チャンブリス 衣装デザイン:マイケル・カプラン 編集:メリアン・ブランドン、メアリー・ジョー・マーキー 音楽:マイケル・ジアッキノ

出演:クリス・パイン(ジェームズ・T・カーク)、ザカリー・クイント(スポック)、エリック・バナ(ネロ)、ウィノナ・ライダー(アマンダ・グレイソン/スポックの母)、ゾーイ・サルダナ(ウフーラ)、カール・アーバン(レナード・“ボーンズ”・マッコイ/医師)、ブルース・グリーンウッド(クリストファー・パイク)、ジョン・チョー(スールー)、サイモン・ペッグ(スコッティ)、アントン・イェルチン(パーヴェル・チェコフ)、ベン・クロス(サレク/スポックの父)、レナード・ニモイ(未来のスポック)、クリス・ヘムズワース(ジョージ・カーク)、ジェニファー・モリソン(ウィノナ・カーク)、ジミー・ベネット(少年期のジェームズ・T・カーク)、ヤコブ・コーガン(少年期のスポック)、ファラン・タヒール、レイチェル・ニコルズ、クリフトン・コリンズ・Jr、グレッグ・エリス、ケルヴィン・ユー、アマンダ・フォアマン

幸せのセラピー

新宿武蔵野館2 ★★

■メタボマスオをセラピーすると

『幸せのセラピー』という邦題に、甘い恋愛映画を思い浮かべていたからだけど、あからさまな内容には驚いてしまった(なのにチケット売り場では『幸せのレシピ』と言ってしまった私。それはもう観たじゃないのねぇ)。

銀行頭取の娘ジェスと結婚したビルは、一族で固められた銀行の主要ポストにはいるものの、すべてのことは義父や義弟に従う習慣にどっぷり漬かっていて、嫌いな鴨狩りにも行きたくないとは言えず、行けば行ったで犬の代わりに獲物を拾いに行くのが関の山。ストレスでチョコバーが手放せず、鏡を見ればそこには冴えない顔があるだけだ。メタボだし、老いを感じずにはいられない。

追い打ちをかけるように発覚したジェスの浮気だが、ビルはジェスが浮気するのも無理からぬと自分でも思ったのか(ある意味偉い?)、浮気現場を撮影したビデオを証拠にジェスに詰め寄るが、何故か怒りの対象は浮気相手のテレビレポーターに向かう(は?)。

まず、これがわからない。ジェスを怒れないのは長年のマスオさん生活よるものにしても、ジェスに「捨てられたらどうしよう」はないだろう。まあ、そういう自分を、メンター制度(OBのところで社会体験をする制度)で知り合ったマセガキ学生と、彼の年上の恋人未満のルーシーの協力で変えていくという話なので、どうしてもビルが情けない人物像になってしまうのは致し方ないのだが、そうではなく、ビルの思考回路が私にはよく理解出来ないのだった。

もしかしたらそれは、彼が負けず嫌いだからなのだろうか。銀行の業務に逆らうようにドーナツ屋のフランチャイズオーナーになろうと努力を重ねていたのも、分散投資の見本を示したかっただけなのか(ちょいスケールがねぇ)、最後の方ではジェスも反省して、このフランチャイズに乗り気になってくれたというのに、ビルはやりたいことではなかったと言ってしまう。単に脱メタボ指向になったのでそう言っただけのようにも見えるが、彼にとっては一人でやり遂げることに意味があったのかもしれない。

執拗に挟まれるプールでのトレーニング映像が、彼の負けず嫌いを語っているのだが、この彼の性格は、彼のことをねじ曲げているように思えてならないのだ。だからって、ビルの選んだ新しい人生を、別に邪魔しようというのではないのだけれど。この際、リセットすべきなのかもしれない。出来る人は大いにやった方がいいと思う。

ただしマセガキ学生との友情関係については、私のようなじじいにとっては、彼がとんでもないヤツにしか見えない。金もふんだんに使える恵まれたお坊ちゃんで、って、もういいか、どうでも。

宣伝ポスターからだと、ジェシカ・アルバはまるでアーロン・エッカートの相手役のような印象を受けるが、マセガキ学生にナンパされるただのランジェリーショップ店員にすぎない。マセガキ学生を諭すようなことも言っていたが、ジェスの嫉妬心を煽る役を買って出たり、なんだか面白くもない役所だった。

そういえば脱メタボに取り組み始めたビルが、カッコよく見せるためなのだろう、体毛を剃る場面があった。胸毛に、あとの方では腕や足の毛まで。アジア圏ならそんな気もするが、アメリカやヨーロッパでは男の体毛はセックスシンボル的役割を果たしていると思っていたが、昨今ではそうでもないのかしら。けどこの場面まで、こう丁寧に見せられちゃってはねぇ。

まとまりのないヘタクソな話なのだが、至る所に本音やら本性は出ていたか。まあ、薦めないけど。

原題: Meet Bill

2007年 97分 アメリカ ビスタサイズ 配給:アートポート 日本語字幕:高内朝子 PG-12

監督メリッサ・ウォーラック、バーニー・ゴールドマン 製作:ジョン・ペノッティ、フィッシャー・スティーヴンス、マシュー・ローランド 製作総指揮:ティム・ウィリアムズ、アーロン・エッカート 脚本:メリッサ・ウォーラック 撮影:ピーター・ライオンズ・コリスター  プロダクションデザイン:ブルース・カーティス 衣装デザイン:マリ=アン・セオ 編集:グレッグ・ヘイデン、ニック・ムーア 音楽:エド・シェアマー 音楽監修:デイヴ・ジョーダン、ジョジョ・ヴィラヌエヴァ

出演:アーロン・エッカート(ビル)、ローガン・ラーマン(生徒)、エリザベス・バンクス(ジェス/ビルの妻)、ジェシカ・アルバ(ルーシー/ランジェリーショップ店員)、ティモシー・オリファント(チップ・ジョンソン/テレビレポーター、ジェスの浮気相手)、ホームズ・オズボーン(ジョン・ジャコビー/ジェスの父、銀行頭取)、リード・ダイアモンド、トッド・ルイーソ、クリステン・ウィグ、ジェイソン・サダイキス