ある公爵夫人の生涯

テアトルタイムズスクエア ★★☆

■世継ぎが出来りゃいいのか

いやはや、途中で何度もため息をついてしまったがな。だって、世継ぎを産む道具だった女の半生、でしょう。こういうのだって一種のトンデモ映画だよね。まあ、映画じゃなくて時代(十八世紀後半の英国)がそうだったのだろうけど。

多分スペンサー家に更なる名声が欲しかった母親の引導のもと、デヴォンジャー公爵に嫁がされたジョージアナだが、男の子(世継ぎ)さえ産んでくれればいいと思っている公爵の願いは叶えられず、産まれてきたのは二人とも女の子だった(男の子は二度流産してしまう)。

ジョージアナが嫁いだときにはすでに公爵には隠し子のシャーロット(家政婦の子のようだ)がいて、お腹の大きい時に「練習にもなるから」(うはは)と、その子の世話も押しつけられてしまう。けれど、シャーロットを我が子として可愛がっても、彼女や産まれてきた子供たち、そしてジョージアナに公爵が関心を寄せることはなかった。

「犬以外には無関心」とジョージアナは言っていたが、むろんそんなことはなく、あろうことか(じゃなくて家政婦に手当たり次第手をつけていたのと同じ感覚で)親友になったエリザベス・フォスターとも寝てしまう。映画だと公爵は政治にも興味がなさそうにしていたから、犬と女、だけらしい。

そして、ことが発覚しても三人の同居生活を崩そうとはしないのだ。ジョージアナとは性的に合わなかったのだろう。だから世継ぎが産まれても結局二人の関係は修復しない(注)。それならば(かどうか)と、自分もかつて心をときめかせたことのあるチャールズ・グレイ(ケンブリッジを出て議員になっていた)と密会し、こちらもエスカレートしていくのだから世話はない(物語としては、彼との間に娘ができたり、子供を取るか愛人を取るかのような話にもなる)。

よくわからないのは、私生児を世継ぎには出来ないと公爵が言っていることで、これは世間体とかではなく公爵自身がそう思っているようなのだ。妻の不倫も、もしや男の子でも宿ってしまったら、と思っての怒り爆発なのだろうか。好きとか嫌いではなく、血統がよければ、だから本当に女は子供を産む道具と考えていたのだろうが(ということはやはり当時の常識=世間体なのか)、映画がジョージアナ目線で描かれているため、公爵の真意は現代人には謎である(当時の人には、ジョージアナの考え方の方が謎だったかも)。

とにかく呆れるような話ばかりなのだが、私も人の子、スキャンダルには耳を欹ててしまうのだな(だからってジョージアナがダイアナ妃の直系の祖先みたいな売りは関心しないし、それには興味もないが。そして映画でもそんなことには触れていない)。で、まあ退屈することはなかったのだけど。

当時の公爵は、その夫人も含めて、庶民にとっては現在のスター並なのが興味深い。ジョージアナは社交的で、政治の場にも顔を出す(利用されたという面もありそうだ)し、ふるまいやファッションも取り沙汰される。たしかにあんな広大な邸宅に住んでいたら、情報や娯楽が少ない時代だから、それだけでスターになってしまうのだろう。母親がジョージアナより公爵の意見を優先するのもむべなるかな、なのだった。

ところでジョージアナの相手のグレイは彼女の幼なじみみたいなものなのだが、最後の説明で、後に首相になったそうな。うーむ。むろんスキャンダラスな部分と政治的手腕とは別物だし、とやかく言うようなことではないんだが……。

注:男の子は、公爵のレイプまがいの行為の末に授かる。産まれると小切手がジョージアナに渡されるのには驚くが、これを見ても本当に結婚は単に男子を産むという契約にすぎなかったんだ、と妙なところで感心してしまった。

原題:The Duchess

2008年 110分 イギリス、フランス、イタリア シネスコサイズ 配給:パラマウント・ ピクチャーズ・ジャパン 日本語字幕:古田由紀子

監督:ソウル・ディブ 製作:ガブリエル・ターナ、マイケル・クーン 製作総指揮:フランソワ・イヴェルネル、キャメロン・マクラッケン、クリスティーン・ランガン、デヴィッド・M・トンプソン、キャロリン・マークス=ブラックウッド、アマンダ・フォアマン 原作:アマンダ・フォアマン『Gergiana:Duchess of Devonshire』 脚本:ソウル・ディブ、ジェフリー・ハッチャー、アナス・トーマス・イェンセン 撮影:ギュラ・パドス プロダクションデザイン:マイケル・カーリン 衣装デザイン:マイケル・オコナー 編集:マサヒロ・ヒラクボ 音楽:レイチェル・ポートマン

出演:キーラ・ナイトレイ(ジョージアナ)、レイフ・ファインズ(デヴォンジャー公爵)、ドミニク・クーパー(チャールズ・グレイ/野党ホイッグ党政治家、ジョージアナの恋人)、ヘイリー・アトウェル(レディ・エリザベス・フォスター/ジョージアナの親友、公爵の愛人)、シャーロット・ランプリング(レディ・スペンサー/ジョージアナの母)、サイモン・マクバーニー(チャールズ・ジェームズ・フォックス/野党ホイッグ党党首)、エイダン・マクアードル(リチャード・シェリダン)、ジョン・シュラプネル、アリスター・ペトリ、パトリック・ゴッドフリー、マイケル・メドウィン、ジャスティン・エドワーズ、リチャード・マッケーブ

今度の日曜日に

新宿武蔵野館2 ★★★

大麻所持で逮捕されちゃったのでポスターからも消されちゃった中村俊太

■興味を持つと見えてくる

ソウルからの留学生ソラと、中年の、まあ冴えない男との交流を描くほのぼの系映画。

ソラが実習授業で与えられた課題「興味の行方」の興味は、ヒョンジュン先輩をおいて他にないはずだったが、事情はともあれ、彼とは悲しい失恋のようなことになって、変な人物に行き当たる。それが学校の用務員の松元で、他にピザ配達と新聞配達をしているのは、彼が借金まみれだからなのだった。

交差しそうもない二人が自然と繋がりができていく過程はうまく説明されているし(でも松元のドジ加減や卑屈さは強調しすぎ。もっと普通でいい)、この組み合わせだと危ない話になってしまいそうなのだが、ユンナと市川染五郎のキャラクターがそれを救っていた。あと、松元の小学生になる息子が訪ねて来るんでね。本当に(ソラが)ただの学生だとお母さんに誓って言える、と指切りまでしちゃったら、悪いことは出来ないよな。

ソラが何故日本で映像の勉強をしているかというと(注)、母親の再婚話への反発がちょっぴりと、でも一番は、ビデオレターの交換相手で、想いを寄せる先輩と同じことをしたかったからなのだが、はるばる日本へやってくると、先輩は実家の火事で父親が亡くなり、行き違いで韓国へ戻ってしまっていたのだった。

ヒョンジュンを巡る話は、彼がソラに会うのがつらくて逃げていたという事情はあるにせよ、行き違いの部分も含めて少々無理がある。だから、最初は削ってしまった方がすっきりすると思ったのだが、でもソラの心の微妙なゆれは、留学を決めたときから最後のヒョンジュンの事故死(彼の役回りは気の毒すぎて悲しい)を聞くところまでずっと続いているわけで、そう簡単には外せない。

ヒョンジュンが死んだことを聞いて、ソラは、松元が集め心のよりどころにしていたガラス瓶を積んでいる自転車を倒してしまう。落ち込むソラを松元がアパートのドアの外から執拗に語りかける場面は、ここだけ見ると、おせっかいで迷惑にも思えるが、もうこの時にはお互いに踏み込んでいい領域はわかっていたのだろう。

それに二人で松元の子供を駅に見送るあたりから、松元はソラさんは強いから大丈夫などと言っていたから、ソラがどこかに寂しさを抱えていることを見抜いていたのだろう。ソラが松元に自分の気持ちを打ち明けているような場面はなかったはずだが。興味の行方を自分のような中年男にしたことで、松元は何かを感じていたのだろうか。

やっとドアを開けたソラから瓶を割ってしまったことを聞いた松元は、ソラがなんとか修復しようとしていた瓶を「人が悲しむくらいならない方がいい」と言って全部外に持ち出して割ってしまう。「瓶なんか割れたっていいんだ。大切なのはソラさんなんだ」とも言って。

ただ、ここと、クリスマス会(瓶で音楽の演奏する練習もしていたのに)にも来ないで、ありがとうという紙切れを残していなくなってしまう松元、という結末は説明不足だし唐突だ。ソラの「興味の行方」の映像も、これでは未完成のままだろうに。

映画のテーマは何だろうか。普段見過ごしているようなこと(人)も興味を持つと見えてくる、そんなところか。あまりにも普通すぎることだけど、多分みんな見過ごしているとが沢山あるはずだと思うから……。

そういえば「興味の行方」の課題が出た授業で、せっかく韓国から来たのだからと言う級友に、ソラは「あたし、韓国代表じゃありません」と言っていた。そして映画もことさらそういうことにはこだわらず、だから別段留学生でなくてもいい話なのだが、でも隣国の韓国ともこんなふうにごく自然に付き合っていけるようになってきたのなら、それはとてもいいことだ(と書いてるくらいだからまだまだなんだろうけど)。

注:留学先は信州の信濃大学という設定である。ロケは信州大学でやったようだ(http://www.shinshu-u.ac.jp/topics/2008/03/post-138.html)。

2009年 105分 ビスタサイズ 配給:ディーライツ

監督・脚本:けんもち聡 プロデューサー:小澤俊晴、恒吉竹成、植村真紀、齋藤寛朗 撮影:猪本雅三 美術:野口隆二 音楽:渡辺善太郎 主題歌:ユンナ『虹の向こう側』 企画協力:武藤起一 照明:赤津淳一 録音:浦田和治

出演:ユンナ(チェ・ソラ/留学生)、市川染五郎(松元茂/用務員)、ヤン・ジヌ(イ・ヒョンジュン/ソラの先輩)、チョン・ミソン(ハ・スジョン/ソラの母)、大和田美帆(伊坂美奈子/ソラの同級生)、中村俊太(大村敦史/ヒョンジュンのバイト仲間)、峯村リエ、樋口浩二、谷川昭一朗、上田耕一、竹中直人(神藤光司/教授)