恋極星

新宿武蔵野館2 ★

武蔵野館に掲示してあった戸田恵梨香と加藤和樹のサイン入りポスター(部分)

■思い出なんかいらないって言ってるのに

戸田恵梨香と加藤和樹のファン以外はパスでいいかも。

菜月を男で一つで育ててくれた父も今は亡く、残された弟の大輝は精神障害があり施設で暮らしているが、何かある度に施設を抜け出しては父の経営していたプラネタリウムへ行ってしまう。菜月は、大輝のことで気の抜けない毎日を繰り返していた。そんなある日、菜月は幼なじみの颯太と再会するが、彼も難病を抱えていて……。

こんな設定ではうんざりするしかないのだが、それは我慢するにしても颯太の行動はかなり一人よがりで(カナダから日本に4年前に帰っていて、このことは菜月もけっこうこだわっていたが、そりゃそうだよね)、病気ということを差し引いても文句が言いたくなってくる。

デートで菜月を待ちぼうけにさせてしまったのは病気が悪化してのことだからともかく、問題はそのあと態度だ。こうなることは早晩わかっていたはずではないか。いや、颯太の気持ちはわからなくはないんだけどね。私だってこんな状況にいたら自分の我が儘を通してしまいそうだから。でも映画の中ではもっとカッコよく決めてほしいじゃないのさ。

「私は思い出なんかいらない。もう置いてきぼりはいや」と菜月は言っていたのに。颯太はその時「もう1回この町に来たかった」と自分の都合を優先させていたけれど、菜月の言葉もそれっきり忘れてしまったのだろうか。

颯太の甘え体質(並びに思いやりのなさ)は母親譲りのようだ。颯太の死後、菜月に遺品を渡すのだが(「つらいだけかなぁ」と言いながら、でも「やっぱりもらってほしい」と)、それは菜月が望んだらでいいのではないか。菜月には思い出を押しつけるのではなく、嘘でも颯太のことは忘れて、新しい人生を生きてほしいと言うべきだった。

で、恋人の死んでしまった菜月だが、父親のプラネタリウムを再開して(取り壊すんじゃなかったの)健気に生きてます、だとぉ。生活していけるんかい。

菜月が流星群を見るために、町の人たちに必死で掛け合って実現した暗闇も、ちょっとだけど明かりを消してくれる人もいたんだ、というくらいにしておけば納得できたのにね(だって、ふんっていうような対応をされる場面を挟んでいるんだもの)。こういう映画にイチャモンをつけても仕方がないのかもしれないが、もう少しどうにかならんもんかいな。

2009年 103分 ビスタサイズ 配給:日活

監督:AMIY MORI プロデューサー:佐藤丈 企画・プロデュース:木村元子 原案:ミツヤオミ『君に光を』 脚本:横田理恵 音楽:小西香葉、近藤由紀夫 主題歌:青山テルマ『好きです。』

出演:戸田恵梨香(柏木菜月)、加藤和樹(舟曳颯太)、若葉竜也(柏木大輝/菜月の弟)、キムラ緑子、吹越満(柏木浩一/菜月の父)、熊谷真実(舟曳弥生/颯太の母)、鏡リュウジ

昴 スバル

新宿ミラノ3 ★★

■主役(だけじゃないが)ありき、でないと

群れを離れた狼とか野良猫と呼ばれてきたという宮本すばるが「私が私でいられる」バレエの世界で生きていく決心をする……。それはいいんだが、話の展開がやたら強引。だから物語だけという印象だし、多分マンガだと効果的なセリフも上滑りだ。

双子の弟とバレエ教室をのぞいてはその世界に憧れていた幼い日も入れているのは、弟の死(脳腫瘍から記憶障害になる)を引きずってきたすばるを位置づけるためなのだろうが、弟しか見ていない父(とすばるは感じていた。母はもっと早くに亡くなっている)も含めてこのあたりはもう少しあっさりでもよかった。特に弟絡みの部分は。映画で思い出を映像化すると重たくなるんだもの。

ストリップ小屋(この設定はイメージしにくいが)のおばちゃんとそこのダンサーたちとの出会いから(おばちゃんが最初のすばるの先生となる)、バレエ教室の先生の娘呉羽真奈との「白鳥の湖」のオーディションでの競争、コーヘイという恋人のような存在もでき、彼に誘われたストリートダンスで、オーディションでみんなと呼吸を合わせることが出来ずにいたのを解消? さらにはアメリカン・バレエ・シアターのリズ・パークがすばるをライバルと認め、だからか度々すばるの前に現れる(でもなぁ)。そして真奈とリズも出る上海でのバレエ・コンクールに挑戦することに。そのための新たな指導者天野は、実はバレエ教室の先生の元夫(真奈の父親)という因縁めいた展開。それ以前に、準ライバルにしかなれない真奈は、母子共々複雑な立場だ。コンクールの直前には、おばちゃんの死の知らせがすばるを苦しめる……。

すっ飛ばして書いてもこんな感じ。運命の黒猫が要所に配置されてるから、それがうまい具合に交通整理してくれればいいのだけど、あれは絵としての効果しかないみたいで、だからやっぱり強引な展開にしかみえない。

なかでも不可解なのがリズ・パークで、場末にあるおばちゃんの小屋でボレロを踊るすばるに一目惚れしてしまうのだが、何でこんなところにいるのさ。世界的ダンサーが、いくらすばるに才能を感じたからといって、こんなふうにいろいろちょっかいを出してくるっていうのがねぇ。ま、それだけリズにすごさが伝わってしまったということなのだろう。ライバルに対する正しい接し方、というか、同じ価値観を持つ者同士がこんなふうに挑発したり一緒に買い物したくなる気持ち、ってわかるような気がするもの。

リズは韓国系のアメリカ人という設定らしいので、日本語がたどたどしいのは今回はいいにしても、Araは日本だとこれが限界と思われても仕方ないかな。私はちょいファンなんで(ってよくは知らない)残念なのだが。

黒木メイサは決して悪くないと思う。全身をなめ回すようにカメラが追っても、私のようにダンスのわかってない人間には十分鑑賞に耐える踊りだったから。

とはいえ、だからって天才的バレリーナとなるとどうなんだろう。正式な修行は積んでいなくてもその才能は横溢して、なのだからうまいとかうまくないというのとは違うレベルの話のような気もするのだが。

だいたいこの手の映画で、こういう疑問が少しでも出てしまうようならその企画は諦めた方が無難と思うのだが。そしてそれは、黒木メイサ一人の問題ではないだろう。彼女の場合は、まだ挑みかかるような目つきがあったから……。

2008年 105分 日本、中国、シンガポール、韓国 ビスタサイズ 配給:ワーナー

監督・脚本:リー・チーガイ 製作:三木裕明 製作総指揮:ビル・コン、松浦勝人、千葉龍平、リー・スーマン 原作:曽田正人 撮影:石坂拓郎 美術監督:種田陽平 衣装デザイン:黒澤和子 編集:深沢佳文 振付:上島雪夫 音楽プロデューサー:志田博英 テーマ曲:冨田ラボ『Corps de ballet』 主題歌:倖田來未『faraway』 メインテーマ:東方神起『Bolero』 照明:舘野秀樹 装飾:伊藤ゆう子 録音:前田一穂

出演:黒木メイサ(宮本すばる)、桃井かおり(日比野五十鈴)、Ara(リズ・パーク)、平岡祐太(コーヘイ)、佐野光来(呉羽真奈)、前田健(サダ)、筧利夫(天野)