少年メリケンサック

楽天地シネマズ錦糸町-2 ★★★★

■『デトロイト・メタル・シティ 序章』(なわけないが)

メイプルレコード契約社員の栗田かんなは、ネットの動画で「少年メリケンサック」という生きのいいバンドを見つける。かんな自身はパンクなど嫌いだったが、彼らのまき散らす怪しい魅力に血が騒ぎ、何故だか成功を確信する。

83年生まれだから25歳、なんとかギリギリ新人セーフ、と勝手に判断して社長に掛け合い、契約交渉に乗り出すが、ネットにあった83年という文字は、誕生年などではなく、解散コンサートの年だった、つまりメンバーはもう50も過ぎたオヤジたちだったのだ。

筋はくだらなくかつ強引、メンバーがバラバラになっているだけでなく、腕は錆び付いているし(もともとうまくなさそうだ)、兄弟で反目し合っているアキオとハルオが何かにつけ意地の張り合いをするし(これには深ーいわけがあった)、とりあえず結束するだけでも大変な状況。が、ネットのアクセス数は鰻登り。パンクへの肩入れのある社長が全国ツアーまで組んでしまい、かんなは後に引けなくなってしまう、ってことでコメディのお膳立ては揃いまして……ちゅーか、結末で再結成の舞台が成功すればいいだけだから、あとはどうにでもなれ状態で、いいようにやってるだけのような気もしなくはないのだけど、まあ、それが楽しいというか……。

とはいえ、マトモに考えていくと無理なところはいっぱいあって、そもそも契約社員が新人発掘のような仕事を任せられるのかとも思うし、ボーカルのジミーのよれよれ度ぶりを見てしまったら、再結成など考えられっこないはずなのだ(いや、かんなもそう思ったんだったっけ)。ジミーのよれよれぶりは、どうやら昔の「少年メリケンサック」時代の大乱闘に起因しているらしく、でも、実は歩けなかったり呂律が回らないのは嘘だった(?)というような場面も入っていて、何が何だかわからなかったりする(障害者手当のちょろまかしか)。

作り手としては「農薬飲ませろ」が「ニューヨークマラソン」に聞こえてくれればしめたもので、この強引さが妙なテンションとなって映画を引っぱっていくのだが、その合間に昔のグループサウンズの映像(ちゃんとしたエピソードでもある)をぬけぬけと入れて、平気で水を差したりもする。かんな同様パンクなど特に好きじゃない私だが、こんなグループサウンズ映像を観せられると、グループサウンズのキモさが際立って(あーそうだった、って感じなんだもの)、パンクがマトモに、は見えないが、まだマシかも、とは思ってしまう。

さらに、かんなの恋人マー君(歌手志望なんである)の、グループサウンズに通じる綺麗なだけの虫酸の走る歌も、大いに水を差す。マー君の正体にかんなも気づいて(中年オヤジたちに気づかされて)、そいでマー君も浮気なんかしちゃうから、悪い人じゃないって書いてやろうと思っていたけど、やっぱりダメ人間だったのね。

で、最後にそのマー君は「少年メリケンサック」に引きずり込まれちゃう、って、えー何だぁ! もしかしてマー君って『デトロイト・メタル・シティ』の崇一(松山ケンイチ)だったとか。じゃあ何だ『少年メリケンサック』の実体は『デトロイト・メタル・シティ 序章』なのか、ってなわけはないのだけど。

馬鹿げた連想はともかく、マー君を引き込んでしまうのは、兄弟二人が腕を折っての代役ってこともあるのだけれど、だからアキオがのたまわっていた「嘘を上回る奇跡を起こ」したのかどうかはわからないのだが、でも無理矢理の二人羽織ギターまで飛び出して、「結末で再結成の舞台が成功すればいいだけだから」と安直な感動オチを予想をしてしまった私は、降参するしかないのだった。うん、降参(でも奇跡はないよ)。

それにしても宮崎あおいはすごかった。泣けるし、笑えるのは知ってたけど、啖呵も切れるのね。こんなハイテンションな芝居をして無理がないんだから。佐藤浩市もよかった。歳をとったらこうなるんだって卑猥なセリフをまき散らしては見事に居直ってた。前は苦手だったが、この人のことがだんだん好きになってきた気がする(ちょいやば)。

  

2008年 125分 ビスタサイズ 配給:東映

監督・脚本:宮藤官九郎 アニメーション監督:西見祥示郎 プロデューサー:岡田真、服部紹男 エグゼクティブプロデューサー:黒澤満 アソシエイトプロデューサー:長坂まき子 撮影:田中一成 美術:小泉博康 衣裳:伊賀大介 編集:掛須秀一 音楽:向井秀徳 音楽プロデューサー:津島玄一 スクリプター:長坂由起子 スタイリスト:伊賀大介 プロデューサー補:植竹良 メインテーマ:銀杏BOYZ『ニューヨーク・マラソン』 ラインプロデューサー:望月政雄 擬斗:二家本辰巳 照明:吉角荘介 装飾:肥沼和男 録音:林大輔 助監督:高橋正弥

出演:宮崎あおい(栗田かんな)、佐藤浩市(アキオ/少年メリケンサックBa.)、木村祐一(ハルオ/Gt.)、勝地涼(マサル/かんなの恋人)、ユースケ・サンタマリア
(時田/メイプルレコード社長)、田口トモロヲ(ジミー/Vo.)三宅弘城(ヤング/Dr.)、ピエール瀧(金子欣二)、峯田和伸[銀杏BOYZ](青春時代のジミー)、佐藤智仁(青春時代のアキオ)、波岡一喜(青春時代のハルオ)、石田法嗣(青春時代のヤング)、田辺誠一(TELYA)、哀川翔(かんなの父)、烏丸せつこ(美保)、犬塚弘(作並厳)、中村敦夫(TV局の司会者)、広岡由里子、池津祥子、児玉絹世、水崎綾女、細川徹、銀杏BOYZ[我孫子真哉、チン中村、村井守](少年アラモード)、SAKEROCK[星野源、田中馨、伊藤大地、浜野謙太]

旭山動物園物語 ペンギンが空を飛ぶ

楽天地シネマズ錦糸町-1 ★★★

■形にすると見えてくる

今だったら日本一有名かもしれない旭山動物園も、存続の危機が論議されたことがあったらしい。ありふれた地方動物園のひとつだったことは想像が付くが(といったら関係者は怒るだろうが)、毎年赤字を垂れ流す旭川市のお荷物で、エキノコックス症による閉園騒ぎや、ジェットコースターに頼ろうとした時期まであったという(最後の方で、動物園衰退の象徴だったジェットコースターは解体されてしまったと短く紹介されていた。賑わっている場面が入っていたから「衰退の象徴」というのはあんまりな気がするが)。

限られた予算でできることはあまりなく、冬期開園や夜間開園に、飼育係が解説者になるなどの地道な努力を続けるしかなかったようだ。新市長の誕生をチャンスと捉えた園長が新市長の説得に成功し、億という予算を回してもらったことで旭山動物園は変貌を遂げるのだが、予算獲得に比べたら見過ごしてしまいそうな、園長と飼育係たちが夜を徹して夢を語り合った日エピソードは、それに優るものがある。

たまたま飼育係の中に絵を描くのがうまい男(のちに絵本作家となる)がいたこともあって、みんなの語る夢をそれぞれ絵にし、それが職場に貼られるのだが、こんなふうに夢を、むろん絵に限らないが、具体的な形にしていくのは、とても大切なことだと気づかされるのである。形にしてみると、見えてくることって沢山あるものね。夢を夢のままにしておいても、なかなか実を結んでくれないんじゃないか。

動物の生態を間近に見せる動物園や体験型の動物園の試みは、旭山動物園の前にもいくつかあって、園長は日本各地を回ってそれをビデオに収め新市長に提言するのだが、これも形にして見せるということにつながる。最初は低い金額で釣っておいて、新市長がその気になったのをみて本当のことを言ったり(「でないと話を聞いてくれないでしょ」と)、園長はちゃっかりしたところをみせるのだが、立派なプレゼン術と言い換えるべきか。ま、結局は予算を獲得できるかどうかだったという、いじましい話にもなりかねないのだけど、対象が動物園ともなればいたしかたのない話で……。

映画は、現在の旭山動物園の紹介は最小限にとどめ(これは来園してもらった方がいいしね)、成功物語に焦点を当てている。ただし、数々あるエピソードは、実話がもとでも時間軸などは大幅にいじって適当に都合よくまとめてしまっているようだ。まあ、そのくらいしないと映画にはならなかったのかもしれないのだが。

とはいえ、人以外みんな好きという新入りの、過去のいじめの場面まで入れておいて、でも途中ではほぼ忘れたかのようで、最後になって園長が母親の手紙に触れるという演出だけは、あまり好きになれなかった。

もっとも彼の話から始めてはいても、主人公は彼だけではなく、飼育係の面々に園長だから、一人の人間に関わってもいられなかったのだろうが。飼育係同士の意地の張り合いもあれば、ゴリラの衰弱死(これもある飼育係が担当をはずれたことが原因だったようだ)やチンパンジーの妊娠中毒など、動物園をとりまく外的な問題以外にも、目の前の問題は当然いくつもあって、その配置はいい案配になっていたように思う。

マキノ雅彦は『次郎長三国志』は×だったが、『寝ずの番』とこれはまずまず。監督業も板に付いてきたのでこんな作品にも手をだしたのかもしれないが、わざわざ監督になったのだから、もっと自分の嗜好や主張のはっきりした作品に挑んでもらいたい。それと何にでも長門裕之を引っ張り出すのはやめてほしい。今回の飼育係は年寄りすぎだよね。

  

2009年 112分 ビスタサイズ 配給:角川映画

監督:マキノ雅彦 製作:井上泰一 プロデューサー:坂本忠久 プロデュース:鍋島壽夫 エグゼクティブプロデューサー:土川勉 製作総指揮:角川歴彦 原案:小菅正夫 脚本:輿水泰弘 撮影監督:加藤雄大 撮影:今津秀邦(動物撮影) 美術:小澤秀高 編集:田中愼二 音楽:宇崎竜童、中西長谷雄 音楽プロデューサー:長崎行男 主題歌:谷村新司『夢になりたい』 照明:山川英明 製作統括:小畑良治、阿佐美弘恭 録音:阿部茂 監督補:石川久

出演:西田敏行(滝沢寛治/園長)、中村靖日(吉田強/獣医、飼育係)、前田愛(小川真琴/獣医、飼育係)、岸部一徳(柳原清之輔/飼育係)、柄本明(臼井逸郎/飼育係のち絵本作家)、長門裕之(韮崎啓介/飼育係)、六平直政(三谷照男/飼育係)、塩見三省(砥部源太/飼育係)、堀内敬子(池内早苗/動物園管理係)、平泉成(上杉甚兵衛/市長)、笹野高史(磯貝三郎/商工部長)、梶原善(三田村篤哉/市議会議員)、吹越満(動物愛護団体のリーダー)、萬田久子(平賀鳩子/新市長)、麿赤兒、春田純一、木下ほうか、でんでん、石田太郎、とよた真帆、天海祐希