デジャヴ

109シネマズ木場シアター7 ★★★☆

■トンデモ装置で覗き見した女性に恋をする

冒頭のフェリー爆破テロ事件にまず度肝を抜かれる。海兵隊員たちにその家族が乗り込んでマルディグラ(ニューオーリンズのカーニバル)のお祭り気分の中、少女が人形を海に落としてしまう場面がある。ナンバープレートのはずされた車と繋がっては、事件を予感せずにはいられないが、このあと突然起きる爆破で、丸焦げになった人々が次々に海に落下していく描写が凄まじい。細切れの、しかし生々しい救助や事後処理の場面に続いて、男が1人、現場のあちこちで証拠集めをしている場面へと次第にかわっていく。

この流れは、カット割りは映画術を駆使しながら、イメージとしては手を加えていないドキュメンタリーに近いものを感じさせる。すでに爆音は遠いものになっているのに、気持ちの収まりがついてくれない感じがよく表現されていた。

男はATF(アルコールタバコ火器局)のダグ・カーリン(デンゼル・ワシントン)で、この捜査の手際のよさがFBIの目に止まり、彼らに力を貸すように頼まれる。

ここからの展開は、内容があまりに奇抜で、そのSF的仕掛けにはついていけない人も多そうだが、そこさえ割り切れれば実によくできた話になっている。SF大好き人間ではあるが、タイムマシンものには抵抗がある私としては微妙なのだが、でも楽しんじゃったのね。このアイディアと力業を簡単にけなしてしまうのは、あまりにもったいないんだもの。

543名の犠牲者を出したフェリー爆破事件はテロと断定され、カーリンは「タイム・ウィンドウ」と呼ばれる極秘装置を使って、その捜査に当たるように言われるのだが、この装置というのがトンデモものなのだ。

仕様を書くと、センサと4つの偵察衛星から送られたデータで、場所の制限はあるものの、好きな場所のかなり鮮明な映像を映し出すことができ、建物の中の映像もOKという(えー!)。ただ、復元のための情報処理に膨大な時間がかかるため、常に処理時間後の、つまり映像としては4日と6時間前のものしか見ることが出来ない。しかも1つの映像を見るチャンスは1度で巻き戻しもできない。

しかしこの説明は少しおかしくて、一旦モニタに映し出されたものを別の装置で録画するのはたやすいはずで、何度も見ることくらいわけないだろう。それに4日と6時間前なら瞬時に見えるのではなく、場所を特定してから4日と6時間後のはずだと思うのだが、まあこの際野暮なことは言うまい。

トンデモ装置はあっても、4日前の何を探ればよいのかがわからなければ意味がないわけで、そのために土地勘もあり的確な判断のできるカーリンが選ばれたのだった(ハイテク装置も使う人次第ってことね)。彼は捜査の段階で発見した若い女性の遺体が事件の鍵を握っていると考え、彼女の家を監視装置で追うよう指示を出す。そして、モニタにはクレア・クチヴァー(ポーラ・パットン)の、「まだ生きている」映像が映し出される。

覗き見という悪趣味に晒された上、クレアには死が待っている。何ともたまらなく厭な場面なのだが、モニタに映る彼女は美しいだけでなく、食事に祈りを欠かさないたたずまいの美しい人でもあった。映画だからといってはそれまでなのだが、そういうクレアを覗き見して、カーリンは彼女を好きなってしまったのだろう。とはいえやっぱり悪趣味なのだが。

監視をつづけるうち、クレアがこちらの装置が出す光に反応するのをカーリンは見る(その前にクレア自身も誰かに見られているようで気持ちが悪いと言っていた)。ここからもう1つトンデモ話が加わることになる。

要するにこの現象は時空を折り曲げているのであって、まだ実験段階ながら映像の向こうに物質を送ることも可能なのだという。これを知ったカーリンが、まだこのあとに現在と4日前の映像を左右の目で見分けながらのカーチェイスというびっくり仰天場面なども入ってくるのだが、クレアをみすみす死なせることなどできないと、4日前に自分自身を送り込むのだ。

よくやるよ、とチャチを入れたくなるが、この2つのトンデモ前提さえ目をつぶれば、話の巧妙さには喝采を送りたくなること請け合いだ。全部を書いている余裕などないが、ここから試行錯誤しながらも、カーリンの相棒の死や、自分の残した「U CAN SAVE her」というメッセージなどが、パズルのように解明されていくのである。

カーリンは犯人を倒し、つまりフェリーの爆破を防ぎ、残虐な死からクレアを救うのだが、彼は死んでしまう。しかし彼の死は、タイムマシンものについてまわる大きな矛盾を回避してしまうことになる。なにしろカーリンが消えてくれないと、もともと4日前にいたカーリンとで2人のカーリンが存在することになってしまうから。

ラストではクレアのことを知らないカーリンが彼女と会って、タイトルのデジャヴを口にする。なるほどね。馬鹿馬鹿しいのに感心してしまった私。

【メモ】

カーリンが4日前に自分自身を送り込んだ先は病院。胸に蘇生処置をしてくれと書いたメモを貼って、タイムトラベルをする。

原題:Deja Vu

2006年 127分 シネスコサイズ アメリカ 日本語字幕:戸田奈津子

監督:トニー・スコット 製作:ジェリー・ブラッカイマー 製作総指揮:テッド・エリオット、チャド・オマン、テリー・ロッシオ、マイク・ステンソン、バリー・ウォルドマン 脚本:テリー・ロッシオ、ビル・マーシリイ 撮影:ポール・キャメロン プロダクションデザイン:クリス・シーガーズ 衣装デザイン:エレン・マイロニック 編集:クリス・レベンゾン 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
 
出演:デンゼル・ワシントン(ダグ・カーリン)、ポーラ・パットン(クレア・クチヴァー)、 ヴァル・キルマー(プライズワーラ)、ジム・カヴィーゼル(オースタッド)、アダム・ゴールドバーグ、エルデン・ヘンソン、エリカ・アレクサンダー、ブルース・グリーンウッド、エル・ファニング、マット・クレイヴン、ションドレラ・エイヴリー

ハッピー フィート(日本語吹替版)

109シネマズ木場シアター6 ★☆

■タップで環境問題が解決するなら世話はない

皇帝ペンギンに1番必要な「心の歌」が歌えない音痴のマンブルだが、タップダンスなら生まれた時から天才的(卵も嘴でなく足で割って出てくる)。でも、この個性が災いして、学校も卒業させてもらえない。皇帝ペンギン界には、心の歌を歌えなければ大人になった時に最愛の人を見つけられないという常識があるのだ。

ママは理解してくれるし、幼なじみのグローリアも気にかけてはくれるのだが、なにしろ成長したのに外見も産毛のかたまり(ペンギンは見分けがつかないのと、小さい時の可愛さとのギャップでこのキャラクターなんだろか)で、あまりに皇帝ペンギンらしからぬマンブルには居場所がない。

ところが失意の中で知り合ったアデリー・ペンギンの5匹、アミーゴスの面々からは、「お前のすげーダンスを見たら女どもは寄ってくるぜ」とベタ褒めされる。イワトビペンギンのライブレイスという怪しげな愛の伝道師にも会って、マンブルはいろいろな世界を知り、自分にも次第に自信が持てるようになる。

しかし何故ヨチヨチ歩きのペンギンにタップダンスなんだろう。雰囲気は出ているが、ペンギンは足の動きがわかりずらいからね。タップはやはり不向きと思うのだが。

とはいえアニメの出来は素晴らしいもので、ここまでくると逆に細部までの描き込みすぎが心配になってくるほどだ。それに、普通は手を抜けるところなのにね。特にすごいのが、画面を埋め尽くしたペンギンの群れが歌って踊る場面だ。アニメのことはよくわからないが、この集団アニメは画期的なのではないか(一体何羽のペンギンがあの画面にはいたんだろう!)。

マンブルは皇帝ペンギンたちにも自分の特技を披露して、新しい楽しさをわかってもらいかける。が、頑固な長老たちはタップダンスを若者どもの反乱と受け入れようとしない。それどころか、秩序を乱すマンブルこそが最近の魚不足の原因と決めつけられて、誰も逆らえなくなってしまう。

ダンスと歌が満載の動物アニメには、個性の排除に立ち向かっての自分探しの旅は、無難なとこではあるのだが、それでは物足りないと考えたのだろうか、映画は思わぬ方向に突き進む。

魚が減った原因を調べると言って仲間の元を去ったマンブルは、エイリアン(人間)が魚を捕っていることを突きとめるが、結局人間に捕まって動物園に入れられてしまう。3日後に言葉を失ない3ヶ月後には心を失ったマンブルだったが、ある日タップを踊ったことが話題になって(「ショーに出したら金になる」という発言もあった)、生態調査のため発信器を付けられて南極へ戻ってくる。そして最後は何やら会議での議論の末「それでは禁漁区にする」宣言が飛び出す。

この流れはいい加減で、しかもあれよあれよという間だから、後になったら理屈がわからなくなっていた。人間だけでなく、皇帝ペンギンたちの反応もひどいんだもの。マンブルに魚を捕った犯人がわかったと報告されているのに、ヘリコプターでやってくる人間と一緒になって踊ってしまうのだから。しかも長老たちまで。誰か私にわかりやすく説明してくれないものか。

保守的だったパパが「(マンブルの個性は)もとは俺が卵を落としたせいだし、マンブルには1日だってパパらしいことをしてあげられなかった」と反省するくだりはいいのにね。「もう音楽がなってない」という表現には、さみしさがにじみ出ていた。

こういう部分をみると、ありきたりであってもはじめの路線でまとめておくべきだったと思わずにはいられない。人間と共存なんてことを言い出すから、食べられる魚の立場や、見せ場だったシャチやアザラシに襲われるシーンを、どう解釈すればいいのかわからなくなってしまうのである。

ところで人間たちは実写なのだろうか。それとも……。

 

【メモ】

第79回米アカデミー賞 長編アニメ映画賞受賞

仕方ないのかもしれないが、出だしはドキュメンタリーの『皇帝ペンギン』そっくり。

ブラザー・トムの2役は、ロビン・ウイリアムスがそうしてることに合わせている(だから?)。

挿入歌は吹き替えされずそのまま流れていて(だからここは字幕)、最後にNEWSの『星をめざして』がイメージソングとしてついていた(これは字幕版も?)。

原題:Happy Feet

2006年 109分 シネスコサイズ アメリカ 

監督:ジョージ・ミラー 共同監督:ジュディ・モリス、ウォーレン・コールマン 製作: ジョージ・ミラー、ダグ・ミッチェル、ビル・ミラー 製作総指揮:ザレー・ナルバンディアン、グレアム・バーク、デイナ・ゴールドバーグ、ブルース・バーマン 脚本:ジョージ・ミラー、ジョン・コリー、ジュディ・モリス、ウォーレン・コールマン 振付:セイヴィオン・グローヴァー(マンブル)、ケリー・アビー 音楽:ジョン・パウエル アニメーションディレクター:ダニエル・ジャネット
 
声の出演(日本語吹替版):手越祐也(マンブル)、ブラザー・トム(ラモン、ラブレイスの2役)、 園崎未恵(グローリア)、てらそままさき(メンフィス/パパ)、冬馬由美(ノーマ・ジーン/ママ)、水野龍司(長老ノア)、石井隆夫(アルファ・スクーア/トウゾクカモメ)、真山亜子(ミセス・アストラカン)、 さとうあい(ミス・バイオラ)、稲葉実(ネスター)、多田野曜平(ロンバルド)、小森創介 (リナルド)、高木渉(ラウル)、加藤清史郎(ベイビー・マンブル)