ラッキーナンバー7

シネパトス3 ★★☆

■見事に騙されるが、後味は悪い

豪華キャストながらヒットした感じがないままシネパトスで上映されていては、ハズシ映画と誰もが思うだろう。が、映画は意外にも練り込まれた脚本で、娯楽作として十分楽しめるデキだ(R-15はちょっともったいなかったのではないか)。とはいえ全貌がわかってしまうと、手放しで喝采を送るわけにはいかなくなってしまう。

失業、家にシロアリ、彼女の浮気、と不運続きのスレヴン(ジョシュ・ハートネット)は、友達のニックを訪ねてニューヨークにやってくる。隣に住むリンジー(ルーシー・リュー)と知り合って互いに惹かれあうものの、失踪中のニックと間違われてギャングの親玉ボス(モーガン・フリーマン)に拉致されてしまう。

話の展開は不穏(そういえば巻頭に殺人もあったっけ)なのに、リンジーとのやりとりなどはコメディタッチだから気楽なものだ。ボスの前に連れて来られるまでずっとタオル1枚のままのスレヴンだから間抜けもいいところで、これは観客を油断させる企みか。巻き込まれ型は『北北西に進路を取れ』(中に出てくる)そのものだし、会話に『007』を絡めたりと、映画ファンへの配慮も忘れない。けど、こうやって洒落たつくりを装っているのは、ほいほいと人が殺されていくからなのかしらん。

ボスからは借金が返せないなら敵対するギャングの親玉ラビ(ベン・キングズレー)の息子を殺せ(息子が殺されたことの復讐)と脅かされ、スレヴンは承諾せざるを得ない。ところがニックはラビにも借金があったらしく、スレヴンは、今度はラビに拉致されてしまうのである。

不幸が不幸を呼ぶような展開は、実はスレヴンと、狂言回しのようにここに至るまでちらちら登場していた殺し屋グッドキャット(ブルース・ウィリス)とで仕組んだものだった。20年前にスレヴンの両親を殺したボスとラビに対する復讐だったのである(しかしここまで手の込んだことをするかしらね)。

この流れはもしかしたら大筋では読めてしまう人もいるだろう。が、それがわかっても楽しめるだけの工夫が随所にある。語り口もスマートだし、いったんは謎解きを兼ねてもう1度観たい気分になる。が、席を立つ頃には、この結末の後味の悪さにげんなりしてしまうのだからややこしい。

グッドキャットは何故殺すはずだったヘンリーを助け、育てたのだろうか。それも復讐をするための殺し屋として。これもかなりの疑問ではあるが、それはおいておくとしても、復讐のために20年を生きてきたヘンリーのことを考えずにこの映画を観ろといわれてもそれは無理だろう。何故20年待つ必要があったかということもあるし、どんでん返しの説明より、映画はこのことの方を説明すべきだったのだ。

それにこれはもう蛇足のようなものだが、ヘンリーの父親が八百長競馬の情報に踊らされたのだって、ただ欲をかいただけだったわけで……。

いつもつかみどころのないジョシュ・ハートネットが、今回はいい感じだったし、ルーシー・リューもイメチェンで可愛い女になっていて、だから2人のことは偶然とはいえ必然のようでもあって、最後は恋愛映画のような終わり方になる。なにしろこれは想定外なわけだから。グッドキャットもヘンリーに父親の時計を渡していたから、これで父親役はお終いにするつもりなのだろう。このラストで少しは救われるといいたいところだが、なにしろ無神経に人を殺しすぎてしまってるのよね(リンジーのような死なないからくりがあるわけでなし)。

原題:Lucky Number slevin

2006年 111分 シネスコサイズ R-15 日本語版字幕:岡田壮平

監督:ポール・マクギガン 製作:クリストファー・エバーツ、アンディ・グロッシュ、キア・ジャム、ロバート・S・クラヴィス、タイラー・ミッチェル、アンソニー・ルーレン、クリス・ロバーツ 製作総指揮:ジェーンバークレイ、ドン・カーモディ、A・J・ディックス、シャロン・ハレル、エリ・クライン、アンドレアス・シュミット、ビル・シヴリー 脚本:ジェイソン・スマイロヴィック 撮影:ピーター・ソーヴァ 編集:アンドリュー・ヒューム 音楽:J・ラルフ

出演:ジョシュ・ハートネット(スレヴン、ヘンリー)、ブルース・ウィリス(グッドキャット)、ルーシー・リュー(リンジー)、モーガン・フリーマン(ボス)、ベン・キングズレー(ラビ)、スタンリー・トゥッチ(ブリコウスキー)、ピーター・アウターブリッジ、マイケル・ルーベンフェルド、ケヴィン・チャンバーリン、ドリアン・ミシック、ミケルティ・ウィリアムソン、サム・ジェーガー、ダニー・アイエロ、ロバート・フォスター

輝く夜明けに向かって

シャンテシネ3 ★★

■平凡な男をテロリストにしたアパルトヘイト

どこにでもいそうな主人公がテロリストの疑いをかけられ、釈放されるが、このことで逆に反政府組織のANC(アフリカ民族会議)に身を投じることになったという実話をもとに作られた映画。

パトリック(デレク・ルーク)は南アフリカ北部のセクンダ精油所で監督という立場にある勤勉な労働者だった。妻プレシャス(ボニー・ヘナ)と2人の娘たちにかこまれ、黒人にしては比較的裕福な暮らしを送っていたが、精油所がテロの標的となり、犯人の一味に仕立て上げられてしまう。

1980年の南アフリカはまだアパルトヘイトが公然と行われていた時代で、テロは日常的に起きるべくして起きていたらしいが、パトリックはよそ者なのだから目立たないように、家族のために、という父の教えを守り、政治には無関心で、母親が聞いているANCのラジオのボリュームさえ下げてしまうような男だった。

テロのあった晩、彼は偽の診断書で休暇を取り、自分がコーチをしている少年たちのサッカーの決勝戦の場にいたのだが、滞在日を1日延ばし真夜中に秘かに出かけていた。実は彼の愛人ミリアム(テリー・フェト)とその息子に会いに行っていたのだった。

この愛人宅で面白いやりとりがあった。パトリックはミリアムに「あなたが父親だと(息子に)うち明けて」と迫られるだが、彼の答えは「僕の父は蒸発。それ以来会っていない、無理言うな」というもの。なにより返答になっていないが、後年「自由の闘士」として民衆の英雄となった人間にしては自分勝手で底が浅いものだ。そういうところも含めて、彼はごく普通の人間だったということだろう。

治安部でテロ対策に当たるニック・フォス大佐(ティム・ロビンス)の尋問は執拗を極め、無期限拘束されたパトリックは言いたくなかった真実を語るが、信じてもらえない。フォスは自分では直接拷問はせず、日曜日には自分の家の食事に連れて行ったり、アパルトヘイトは長くは続かないなどとパトリックに漏らすなど、どこまでが本音なのかと思うような油断のならない人物として描かれる。

拷問はプレシャスにまで及び、そのことでパトリックは自白を選ぶのだが、供述が合わないことで、無罪放免となる。フォスは、正しい仕事をしている人間でもあったのだ(最近、続けざまに自分の点数稼ぎのために自白を強要するような映画を観たので、私には新鮮に映ったのね)。

無実の罪に問われ、友人の死、妻への拷問を目の当たりにしたことが、パトリックをモザンビークの首都マプトにあるANC本部に走らせることになる。家族にも内緒で(もっとも今度は母親のラジオの音を大きくしていた)。

ただ、厳しい訓練の中、解放軍を装った部隊に急襲されたり、内部に精通しているパトリックが自ら先導するように精油所の爆破計画にかかわったり、という展開は、見せ場がちゃんとあるのに演出が手ぬるくて散漫な印象だ。プレシャスの嫉妬心はおさまることなく、これは当然ともえいるが、とはいえフォスに通報とはね、となってパトリックはロッベン島に島流しとなる。

ここからはさらに駆け足となって、5年後にプレシャスから再婚したという手紙をもらってやっと許す気持ちになり、1991年にはアフリカに戻ることができたというナレーションになっていて、画面には出迎えにきたプレシャスと許しを請い合う姿が映し出される。

このあと、まったく予想していなかったのだが、パトリックがフォスを見かけるとある日の場面になる。今度こそ復讐してやるとフォスに近づくパトリックだが、何故か彼を生かしておこうか、という気持ちになり、その瞬間解放されたというのだ。実は緩慢な流れにすでにうんざりしかけていたのだが、この付け足しのような何でもない場面が、この映画の1番の収穫のように思えてきたのである。自分がそんな気持ちになれるかどうかはまったくの別問題ではあるのだが。

もうひとつ。フォスは自分の2人の娘に、不測の事態に備えて射撃を教えていて、それが役立つ日がくるのだが、皮肉にも拳銃嫌いの長女の手によって犯人に銃は発砲されることになる。正当防衛とはいえこの行為は認められるのだろうか、と考えた時点でこの挿話が白人側に配慮されたものにもみえてしまうのだが、詰まるところアパルトヘイトが過去のものとなった余裕といったら、叱られてしまうだろうか。

原題:Catch a Fire

2006年 101分 シネスコサイズ フランス、イギリス、南アフリカ、アメリカ 日本語字幕:古田由紀子

監督:フィリップ・ノイス 製作:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、アンソニー・ミンゲラ、ロビン・スロヴォ 製作総指揮:ライザ・チェイシン デブラ・ヘイワード、シドニー・ポラック 脚本:ショーン・スロヴォ 撮影:ロン・フォーチュナト、ゲイリー・フィリップス プロダクションデザイン:ジョニー・ブリート 衣装デザイン:リーザ・レヴィ 編集:ジル・ビルコック 音楽:フィリップ・ミラー
 
出演:ティム・ロビンス(ニック・フォス)、デレク・ルーク(パトリック・チャムーソ)、ボニー・ヘナ(プレシャス・チャムーソ )、ムンセディシ・シャバング(ズーコ・セプテンバー)、テリー・フェト(ミリアム)、ミシェル・バージャース(アンナ・ヴォス)