ウィンター・ソング

新宿武蔵野館2 ★★

■錯覚関係ミュージカル

予告篇は観ていたが、まさかミュージカル(劇中劇がミュージカル映画)とはね……まあ、そんなことはどうでもいいのだが。香港製ミュージカルということがわかって危惧しなかったといえばウソになるが、その部分では堂々たる仕上がりになっている。ダンスシーンのカットが細切れなのが気になったが、ここは状況をかえた場面の繋ぎでなんとか逃げている。

物語は劇中劇に重ねるように、俳優であるリン・ジェントン(金城武)とスン・ナー(ジョウ・シュン)に、彼女の現在の恋人である映画監督ニエ・ウェン(ジャッキー・チュン)を交えた愛憎劇という趣向だ。

そこにリンとスンの10年前の過去の映像が入り込んでくるのだが、筋立てが単純なのでそうは混乱しない。劇中劇はサーカス団と設定こそ違うが、そこで踊り歌われる歌などはそっくりそのまま3人の心境に置き換えればいいという寸法だ。が、気になるところがいくつもあって、すんなり感情移入するには至らなかった。

まず、チ・ジニ演じるところの案内役(天使と書いてあるよ)の位置づけがよくわからない。「私はカットされたシーンを集めている。それが必要になった時、戻してあげるために。今もあるシーンを戻すためにここに来た」というのだが、彼はリンにとっては天使なのだが、スンやニエにとっては混乱の元でしかない。だから天使、と言われてもねぇ。結末の悲劇も当然と考えているのだろうか。

こんな案内役もいるし、流れからしても主役は金城武のリンであるはずなのに、タイトルや劇中歌の歌詞(お前は俺を愛してる。たぶん愛してるはず)を聴いていると、本当の主役はジャッキー・チュンのニエではないかと思えてくるのだが、これはまずいだろう。

もっともそのニエは、途中までスンが女優としてあるのは自分あってこそと思っているような男だし、最後は「男は自分を裏切った女は許さないものだが、復讐はしない。愛とはそういうものだ」と勝手に自己完結してしまう。そんなだから、ラストでは自分の死までも演出してしまうのだろう。

スンは、過去のある時点はともかく、野心に生きる道を選んだ女だ。偽装結婚もしてきたし、ニエ監督専門というレッテルを貼られようとも、トップ女優でいたいのだ。引き返す気などないのである。「過去は思い出さないためにある」から、回顧録はいやと言っていたのだ。なのに、ラストではそれは出版しちゃってるし。まあこれはリンとのことがあって考えがかわったということなのだろうけどさ。そして、ここを評価できればいいのだが、どうにもしっくりこないのだな。

それに比べると愛に生きてきたリンは、確かに一途ではあるが(これを「たぶん愛」と呼ぶのは簡単だが、となると何でもかんでも「たぶん愛」ということになってしまう)、それ故にやることがどうにも怪しいのだ。俳優として成功してからは、昔の思い出の場所を買い取り、そこに行く度にカセットに心情を吹き込んでいたなんて、度がすぎているとしか言いようがないではないか。

こんなに3人がバラバラなのに、愛といわれてもねー。「たぶん愛」じゃないよ、これ。錯覚だもん。

度々挿入されるプールのイメージもよくわからないままだった(ついでながら青島の塩水湖の話も不明)。

 

【メモ】

リンは10年前に、香港から北京へ映画監督になるためにやって来るが果たせず、香港で大スターになる。

スンは歯ぎしり女。

プロデューサーが難色を示すにもかかわらず、ニエ監督は団長役を自分で演じることにする。
原題:如果・愛 
英題:Perhaps Love

2005年 109分 ビスタサイズ 香港 日本語字幕:水野衛子

監督:ピーター・チャン 製作:アンドレ・モーガン、ピーター・チャン 撮影:ピーター・パウ 編集:ヴェンダース・リー、コン・チールン 音楽:ピーター・カム、レオン・コー
 
出演:金城武(リン・ジェントン[林見東])、ジョウ・シュン[周迅](スン・ナー[孫納]、ジャッキー・チュン[張學友](ニエ・ウェン[聶文])、チ・ジニ[池珍熙](天使)

雨音にきみを想う

新宿武蔵野館3 ★☆

■チョッカンはそんなにいいヤツだろうか

ウィンイン(フィオナ・シッ)は、同居の兄フェン(チャン・コッキョン)が全身麻痺で、彼の介護だけでなく姪のシウヤウ(チャン・チンユー)の世話をしながら縫製の仕事をしている。その仕事もミスを咎められ(美人なんだから外で働けばと嫌味まで言われ)賃金を下げられてしまう。そして自身も兄と同じ遺伝性の病気(動脈炎。体温低下で血管が収縮してしまう)にいつならないとも限らないという、まさに悲劇のヒロイン。眉間の皺が痛々しい。

チョッカン(ディラン・クォ)は路地で迷子になったシウヤウと出会い、少女を家に送り届けたことで、そんなウィンインと知り合うことになる。フェンはチョッカンに何かを感じたのか、彼が帰ったあとウィンインに「明日お茶を買ってこい」と言う。そしてチョッカンは数日後、フェンに職場にあったからと電動車椅子を持ってやってくる。

実はチョッカンの家は金持ちなのだが、家族の愛情を知らずに育ち、今では絶縁状態らしい。ウィンインたちの家族愛、もっといえばシウヤウに対するウィンインに、母親の愛をみて惹かれたのかも知れない。

そんなチョッカンだが、一匹狼と言えば聞こえはいいが、ヤクザのフー兄貴(サミュエル・パン)から目を付けられるほど腕のいい泥棒でしかない。当然ウィンインに身を明かすことなどできるわけもなく(表向きはバイクショップを経営)、しかしあっけなくバレてしまうと、こうやって生きてきたのだから今さら無理と、平然としたものなのだ。

しかもそのバレ方からして、ウィンインがちょっと見ていたクマのぬいぐるみを盗んできてしまうような、罪悪感のかけらもない程度の低いものなのだ。このあと少しして、ふたりのキスシーンになるのだが、ウィンインの「頼っていいのか迷う」理由が、チョッカンが真っ当でないことではなくて、「もしあなたに何かあったら」と、すでにチョッカンを好きになってしまっているのでは、恋の当事者にとっては障害でも何でもないのかもしれないが、観ている方としてはついていけなくなる。

チョッカンは盗みが生業ながら優しい男という位置づけなのだろうが、それにしては夜中に物音を立てる(ウィンインの家の2階を借りて倉庫にする)し、電気はつけっぱなしで、ウィンインの評価だってそう高くはなかったはずなのだ……。いや、これは違うか。もうこの時点ではウィンインはチョッカンのことが気になって仕方がなかったのだろう。

物語は、逃げた妻にもどる気持ちがないことを知ったフェンの自殺(これはちょっとあんまりだ)という、さらに悲劇的な状況をはさんだあと、チョッカンとヤクザの対決へと進む。ウィンインもそれに巻き込まれ、冷たい雨にも打たれてしまう。が、彼女には最後になってある贈り物が……。でもこれだってね、最初のクマのぬいぐるみと本質的には何も変わっていないではないかと。ま、彼女の涙はそのことを含めてなのかもしれないのだけどさ。

【メモ】

動脈炎という言葉もあったが、体温低下で血管が収縮してしまうという設定だ。

舞台は香港だが、ウィンインたちは広州出で、チョッカンは台湾出身という設定。ウィンインはフェン(発病前はバイオリニストだった)に広州に帰ろうと言うが、逃げた女房から金を取り戻してからでないと帰れないとフェンは答えていた。

原題:摯愛
英題:Embrace Your Shadow

2005年 102分 ビスタサイズ 香港 日本語字幕:鈴木真理子

監督・脚本:ジョー・マ
 
出演:ディラン・クォ(チョッカン)、フィオナ・シッ(ウィンイン)、チャン・コッキョン[張國強](フェン)、チャン・チンユー[張清宇](シウヤウ)、サミュエル・パン(フー)