Sad Movie サッド・ムービー

中野サンプラザホール(試写会) ★★☆

■ビデオの遺書という泣き狙いで、すべてが台無し

4組の男女の別れ(1組は母親と小学生の息子)を描いた作品。

消防士のジヌ(チョン・ウソン)は今日こそスジョン(イム・スジョン)にプロポーズをしようと思いながらも、その機会を逸している。テレビ局でニュースの手話通訳として活躍するスジョンだが、ジヌの職業が危険なことに心を痛めていて、ある日の火災ニュースから、ついにジヌにあたってしまう。

スジョンの妹のスウン(シン・ミナ)は昔の火事で顔に大きな火傷の跡が残り、耳が聞こえない(彼女を助けたのがジヌなのだ)。白雪姫の着ぐるみを着て遊園地でバイトをしている彼女が興味を持ったのが、園内で似顔絵を描いているハンサムな青年サンギュ(イ・ギウ)。着ぐるみを脱いで彼と対面する勇気がでないでいる彼女に、仲間(7人の小人)たちはデートをセッティングする。

ボクシングのスパーリング役のバイトでその日暮らしのようなハソク(チャ・テヒョン)は、付き合って3年になるスッキョン(ソン・テヨン)がいるが、彼女もスーパーのレジ打ちで、こんなことをしていても先が見えないと別れ話を切り出されてしまう。チャンスをくれと食い下がるハソクだが、見通しなど何もない。が、ひょんなことからネットで「別れの代行」業という珍商売をやることを思い立つと、これが意外にも繁盛しだす。

ジュヨン(ヨム・ジョンア)は仕事に追われ、小学2年生の一人息子フィチャン(ヨ・ジング)の相手がなかなか出来ずにいた。車の運転中に具合の悪くなった彼女は、事故を起こして入院するが、そこで癌に冒されていることを知る。息子は入院したママが小言を言わなくなるし、会いたいときにいつでも会えるからと病気を歓迎していたが……。

洒落た画面構成だし、話の組み立ても手慣れたものだ。4組の話が交錯して進むものの、混乱することはまったくない。が、4組の別れを用意した意図が見えることはなく、かえってひとつひとつの「別れ」を散漫にしてしまっている。

4つの話に関連性がないわけではない。姉妹つながりの他に、フィチャンがママの癌を知って、ハソクの別れの代行業に別れたくないという依頼をするというつながりもあるが(小学生だからちょっと無理はあるけどね)、全体をまとめるものが何か欲しい。

でもそんなことより、ジヌの残したビデオテープが、映画全体を台無しにしてしまっているのだ。ジヌは、結局火災に巻き込まれて死んでしまうのだが、現場にスジョン宛の遺書を入れたビデオテープを残していた。これは内容もだが、それ以前に、こんなことをしている時間があるなら逃げる手段を考えろと言いたくなる。脱出不可能で火災は免れても有毒ガスで死ぬしかないというのなら、その説明を入れるくらいわけないと思うのだが。火災がひどけりゃビデオだって焼けちゃうでしょう。わかってたから撮影したって。あ、そう。でもわざわざマスクを外すことはないよね。それにカメラが途中で引いていたような(ありえねー)。

泣き狙いのこの場面で一気に駄作の仲間入り。せっかく洒落た感じでまとめていたのにねー。もちろん他にも気になることがないわけではなく、例えば、フィチャンの描いたママの絵はいかにもというもので、ここはセリフまでがつまらない(「今までママの顔をうまく描けなかったのはママが綺麗すぎたから」)。別れの代行の依頼がスッキョンからきてしまうというのも読めてしまっていたが、でもビデオ場面ほどの失点ではない。

それに、スウンの恋物語は、唯一出会いからはじまるせいもあってとっても可愛らしいものだ。「お姉さんは愛してるって言えるじゃないの」と声を絞り出して泣いたこともあった彼女だが、ついに着ぐるみを脱ぐ時がやってくる。はじめこそメイクと照明でごまかしていた彼女だが、素顔でもう1度描いてとサンギュに言う場面には、結構グッときてしまった。でもこの恋は、サンギュの留学でおしまいらしい。

ジュヨンとフィチャンの話だけは恋物語ではないし、病死という安直な設定なのだが、フィチャンがママの日記を見つけて、その内容に喜んだりがっかりしたりする場面は楽しめる。望まない子というパパが悪者になるのは当然(この前にも「押し倒した」「悪い人」という記述がある)で、「私より賢い子に」と願うママの株は上がるが、すぐあとに「女の子でありますように」と書いてあるのでガックシとなる。

ママに「僕が代わりに病気になってあげたい」と言って叱られてしまうフィチャンだが、「赤ちゃんに同じことを言っていたのに」と不服そうになるのが(なにしろ日記を読んじゃってるからね)、可愛くて悲しい。

こんな感じの挿話をもっと用意できれば、印象もずいぶん変わったはずだ。別れや悲しさにこだわってそればかり強調したら、かえってダメになってしまうことくらいわかりそうなものだが。

    

原題:Sad Movie

2005年 109分 シネマスコープ 韓国 日本語字幕:根本理恵

監督:クォン・ジョングァン 原案:オム・ジュヨン 脚本:ファン・ソング 製作:パク・ソンフン 編集:キム・サンボム 音楽:ジョ・ドンイク 

出演:チョン・ウソン(ジヌ)、イム・スジョン(スジョン)、シン・ミナ(スウン)、チャ・テヒョン(ハソク)、ヨム・ジョンア(ジュヨン)、ソン・テヨン(スッキョン)、イ・ギウ(サンギュ)、ヨ・ジング(フィチャン)