キンキーブーツ

シャンテシネ1 ★★★

■食傷気味の再生話ながらデキはいい

チャーリー・プライス(ジョエル・エドガートン)はノーサンプトンにある伝統ある靴工場の跡取り息子。靴を愛する父親に幼少時から靴に関する教えを叩き込まれたというのに、心そこにあらずで、婚約者ニコラ(ジャミマ・ルーパー)の転勤が決まったロンドンで、一緒に新居を物色するつもりでいた。が、ロンドンに着いたばかりの彼に届いたのは父親の訃報だった。従業員たちは当然のように彼をプライス社の4代目とみなし、めでたくというよりは仕方なく社長に就任する。そんな彼が発見したのは大量の在庫。父親が従業員を解雇するに忍びず、倒産寸前にもかかわらず靴を作り続けていたらしいのだ。

優柔不断で頼りない(はずの)チャーリーが出来ることは、とりあえず15人を解雇することだった(すげー優柔不断)。解雇対象のローレン(サラ=ジェーン・ポッツ)の捨てぜりふ(他の会社は乗馬靴や登山靴などでニッチ市場を開発している)で、彼はロンドンの問屋を回った時に出会ったクラブのカリスマスターでドラッグクイーンのローラ(キウェテル・イジョフォー)のことを思い出す。

食傷気味の再生話だが、組み立てがうまいので楽しめる。よく練られた脚本なのは、あらすじにしないでそのまま書いていきたくなるほど。まあ、お約束ということもあるからだが、冒頭からの一連の流れもスムーズでわかりやすい。そこに、田舎と都会、保守的な住民(従業員)と過激なローラ、ついでにニコラとローレン(割り切り型とこだわり型というよりは、チャーリーにとっては自分をどう評価してくれているかということもある)という対比までが、巧みに織り込まれているというわけだ。

チャーリーが思いついた打開策は、女性用のブーツを履くしかないドラッグクイーンたちのためのセクシーブーツを新商品として開発し、ミラノの国際見本市へ打って出るというもの。が、技術力はあってもブーツとなると……。待ちきれずノーサンプトンに乗り込んできたローラだが、試作品では物足りず、「チャーリー坊や、あんたが作るのはブーツではなく、2本の長い筒状のSEXなの!」と叫ぶ(このセリフはよくわからん)。これでヒールの高いキンキーブーツ(kinkyは変態の意)が誕生する道が開けるのだが、ここからは従業員とのやり取りが見ものとなる。

専属デザイナーになったローラのトイレ立てこもり事件に、従業員ドン(ニック・フロスト)との腕相撲試合(ローラは元ボクサー)などを挟んで、ローラの父親との確執や、世間とのギャップが語ってしまう手際の良さ。ドラッグクイーンの実態に踏み込むと別な映画になってしまうからあくまで表面的なものだが、チャーリーが父と対比されてきたことにもからめて自然にみせる。

やりすぎなのは見本市を直前に控えてのチャーリーとローラの喧嘩で、成り行きとはいえ、派手なドラッグクイーン姿のローラを差別するのはどうか。レストランという人目がある場所だからというのは、ここまで来てだから、言い訳にならないよ。最後にもう一山という演出なのだろうが、チャーリーだけでなく、従業員たちとの信頼も勝ち得たローラという積み重ねをパーにしてしまうことになるから、これは減点だ。チャーリーがキンキーブーツを履いて舞台に上がるというおちゃらけた演出は許せるんだけどね。

キンキーブーツでの一発逆転劇は、嘘臭いが実話に基づく。だからというわけではないと思うが、巻頭の靴の生産ラインを追う場面だけでなく、随所に靴の製造工程が出てきてリアルだ。これが話の突飛さとのバランスを保っているといってもいい。靴工場を眺めているだけでも楽しめるのだ。2階の社長室からは工場が見渡せるようになっていて、指示を出すためのマイクがあるのだが、これが2回も活躍してました。もちろん実話でなくデッチ上げでしょうが。

 

【メモ】

靴工場のモデルは、靴メーカーのブルックス [W.J. Brookes]。

経営の悪化は、近年の安い輸入品(ポーランドの名前が出ていた)攻勢による。

腕相撲試合で、ドンはローラの心遣いを知り偏見を捨てる。

父親も実は工場の売却を考えていたという話をニコラ(不動産業)から聞かされショックを受けるチャーリー。が、これで吹っ切れたのか、今までの生産ラインをストップしてキンキーブーツ1本でいく腹を決める。

従業員のメル(リンダ・バセット)はチャーリーの方針が理解できず、やっつけ仕事を指摘されたこともあって定時に帰ってしまう。が、チャーリーが工場や財産を抵当に入れて見本市に賭けていることがわかって、チャーリーはみんなが黙々と働いている姿を目にすることになる。

原題:Kinky Boots

2005年 107分 アメリカ/イギリス サイズ:■ 日本語字幕:森本務

監督:ジュリアン・ジャロルド 脚本:ジェフ・ディーン、ティム・ファース 撮影:エイジル・ブリルド 編集:エマ・E・ヒコックス 音楽:エイドリアン・ジョンストン
 
出演:ジョエル・エドガートン(チャーリー・プライス)、キウェテル・イジョフォー(ローラ)、サラ=ジェーン・ポッツ(ローレン)、ジャミマ・ルーパー(ニコラ)、リンダ・バセット(メル)、ニック・フロスト(ドン)、ユアン・フーパー(ジョージ)、ロバート・パフ(ハロルド・プライス)