新宿ミラノ1 ★★★☆
■問題を複雑にしすぎた5年
びっくりなのは、この映画が昔の4作の続編だということで、厳密には『スーパーマン』(1978)と『スーパーマン II 冒険篇』(1981)の最初の2作品の続きという位置づけになるらしい。最初の作品しか観ていないので、何故3、4作を無視するのかはわからないが、そうまでして25年後に続篇にすることはないだろうというのが正直な気持ち。
ま、いいんだけどね。ただ『冒険篇』の5年後ということは、舞台は今から20年前ってことになってしまうんだけどなー。
何故5年もの間不在にしていたかというあたりの説明が手抜きでわかりにくい(居場所探しって?)のだが、とにかくスーパーマン(ブランドン・ラウス)は地球に戻ってくる。
が、スーパーマンはどうでも、クラーク・ケントの5年ぶりの職場復帰は難しそうだ。でも、これは不可欠の要素だし、ロイス・レイン(ケイト・ボスワース)との絡みもなくすわけにはいかず、で、同僚のジミー・オルセン(サム・ハンティントン)がうまい具合に取りはからってくれて、とここは主要人物紹介も兼ねているからスムーズなのな。
その肝心のロイスだが、旦那になる予定のリチャード・ホワイト(ジェームズ・マースデン)という相手(編集長の甥なのだと)がいるだけでなく、子供までが……。ロイス念願のピューリッツァ賞は、スーパーマン不要論で授賞というあてつけがましさ(内容はスーパーマンに頼ってないで自立せよってなものらしいが)。
茫然としているクラークに、ロイスが取材で乗り込んでいる飛行機で、取り付けられたスペースシャトルが切り離せないまま着火(飛行機から発射されるようになっている)してしまうというニュースが飛び込んでくる。
この空中シーンは圧巻だ。事故機内部の描写(ロイスは痛い役)もふくめて、演出、編集ともに冴えわたったもので、スーパーマンの復活を十分すぎるほど印象付けてくれる。満員の観客が試合観戦中の野球場に、事故機を無事着陸させるという華々しいおまけまであって、野球場の観客ならずともこれには拍手せずにはいられない。
ただ全体としてみると、この場面が素晴らしすぎることが、皮肉にも後半の見せ場を霞ませてしまったことは否めない。ジョー=エル(昔の映像を編集したマーロン・ブランド)が息子に残したクリスタルの遺産を、レックス・ルーサー(ケヴィン・スペイシー)が利用して大西洋に新大陸をつくる(アメリカ大陸は沈没する)という、奇想天外で、だから現実味のないこけおどし的イメージが、恐怖感を生まないまま見せ物観戦的感覚で終わってしまうことになる。
第1作ではスーパーマンが地球を回転させて時間を戻すという禁じ手を使ってしまっていて、これは続篇を拒否しているようなもので、だから続篇でなく新シリーズにしてほしかったのだが、まあ、それは置いておくにしても、スーパーマンがスーパーすぎるからといって対抗策をエスカレートさせると、話が子供じみてしまうという見本だろうか。でもそうではなくって、最初の飛行機事故のような単純なものでも、見せ方次第では十分面白くなるはずなのだ。
もっとも今回は、ケヴィン・スペイシーには悪いが(存在感もあってよかったけどね)、1番の興味はロイスとの関係だ。5年も不在では(一言もなしに去ったというではないか)、新しい恋人ができてもロイスに罪はない(アメリカ社会ではよけい普通だろうから)。そうはいってもそれをそのままにスーパーマンと空を散歩するシーンをもってこられても、あまりに複雑な気分で、1作目の時のような空を飛ぶ楽しさは味わえないままだった。
リチャード・ホワイトがいいヤツだけに、これはロイスというよりはスーパーマンにもっとしっかりしてほしいところだ。なのに透視力や聴力を使ったストーカーまがいのことまでしているのではね。ロイスがこれを知って、まだ好きでいられるかしら。
私の妻は、ロイスは男を見る目があるという。なるほどリチャードの立派さは際だってるものな。が、ロイスはクラークを見ても何も感じないのだから、そうともいえない(私としては、できれば1作目で、ロイスにはスーパーマンではなくクラークに恋してほしかったのだが)。子供まで作っておいてそれはないような。これについてはスーパーマンにも一言いっておきたい。そんな関係になっていながら、まだクラークの正体を明かしていないなんて。ストーカー行為とともにこれは重大な裏切りだ、と。
ロイスの子供がスーパーマンとの間に出来た子だということがあとで判明して、なんだ、それを教えてくれていたら空の散歩ももっと楽しめたのに、とやっと胸をなでおろす。が、観客には説明できたかもしれないが、ロイスやリチャードに対しては?
それにしても5年の不在は問題を複雑にしすぎたとしかいいようがない。ルーサーの仮釈放もスーパーマンが証言に立たなかったからだっていうし。
子供にもスーパーマン的能力があることがわかって(ピアノを動かして悪人をやっつけたのは正当防衛だが、殺人をおかしたとなると)、しかしクリプトンナイトには平気……。こりゃ、スーパーマンの敵は、数作後は自分の子かぁ。むろん妄想。映画は父親から子供に静かに語りかけるという終わり方だったものね。あ、問題は山積みのままですよ。
今回、スーパーマンはクリプトンナイトをルーサーにいいように使われて、かなり痛めつけられる。リンチ状態。この演出はブライアン・シンガー好み? で、無敵なはずのスーパーマンが人間(ロイスとリチャード)に助けられるというわけだ。ロイスの「あなたを必要としている人がいる」(あれ、自分の著書を否定しちゃったぞ)という言葉にも勇気づけられて……。
でも途中でもふれたが、何しろ最後のスーパーマンの活躍は、岩盤を持ち上げて宇宙に持って行ってしまうというとんでもないものなのだが、もうハラハラもドキドキもないのよね。
【メモ】
クラークが投げたボールがあまりに遠くへ飛んでいってしまったため、犬が悲しそうな声を出すといういい場面がある。
ジョー=エルはすでに死んでいるとはいえ、息子以外の者に秘密を教えるのか。というか、あのクリスタルはそんなぼろいシステムなんだ。
ロイスは電力事故の調査にこだわってルーサーの船(老女を騙して遺産相続したもの)にたどり着くのだが、子供と一緒に軟禁されてしまう。
ロイスの子供の能力についてはピアノを動かしただけで、まだ謎。普段は気弱そうな男の子に見えるし。クリプトンナイトに平気なのは人間とのハーフだから?
注射針を受け付けないスーパーマンには医師団も困惑。入院にかけつけた人々の中にはマーサ・ケントの姿も。
エンドロールに「クリストファー・リーヴ夫妻に捧ぐ」と出る。
おまけ映像は、燃料切れで無人島に着陸したルーサーと愛人。「何も食べ物がない」というセリフのあとの視線は、愛人が抱きかかえている犬にむけられる。
原題:Superman Returns
2006年 154分 アメリカ サイズ:■ 日本語字幕:■
監督:ブライアン・シンガー 原案:ブライアン・シンガー、マイケル・ドハティ、ダン・ハリス 脚本:マイケル・ドハティ、ダン・ハリス 撮影:ニュートン・トーマス・サイジェル キャラクター原案:ジェリー・シーゲル、ジョー・シャスター 音楽:ジョン・オットマン テーマ音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:ブランドン・ラウス(スーパーマン/クラーク・ケント/カル=エル)、ケイト・ボスワース(ロイス・レイン)、ケヴィン・スペイシー(レックス・ルーサー)、ジェームズ・マースデン(リチャード・ホワイト/ロイスの婚約者)、フランク・ランジェラ(ペリー・ホワイト/「デイリー・プラネット」編集長)、サム・ハンティントン(ジミー・オルセン/ケントの同僚)、エヴァ・マリー・セイント(マーサ・ケント)、パーカー・ポージー(キティ・コワルスキー/ルーサーの愛人)、カル・ペン(スタン・フォード)、ステファン・ベンダー、マーロン・ブランド(ジョー、エル:アーカイヴ映像)