もしも昨日が選べたら

新宿武蔵野館2 ★★

■「万能リモコン」の性能をとっくりとご覧くだされたく

建築士のマイケル・ニューマン(アダム・サンドラー)は、妻ドナ(ケイト・ベッキンセイル)に7歳の息子ベン(ジョゼフ・キャスタノン)と5歳の娘サマンサ(テイタム・マッキャン)の4人家族。仕事優先主義が高じて家にあるリモコンの見分けもつかなくなっていた彼は、寝具&入浴用品専門店(の売場の奧にある部屋)にいたモーティ(クリストファー・ウォーケン)という男から新製品だという「万能リモコン」をもらう。

まるで『ドラえもん』の実写版のような映画。テーマは4人家族という設定時点でわかる通り家族愛で、「万能リモコン」のアイディアがすべてだから、話の内容はいたって単純。なのに下ネタ満載というのは? ファミリー映画というわけでもないのね。

その「万能リモコン」の性能だが、「人生の」一時停止や早送り、巻き戻しまで出来てしまうというもの。ただギャグとしては、吠える犬を「音量調整」するような、簡単な機能が笑える。色調整や音声切り替えなどももちろんあって、マイケルは自分の顔を緑色にして「超人ハルク!」などとふざけたりも。

巻き戻しは過去の場面を客観的に見られるというもので、決して過去に戻ってやり直しが出来るわけではないのがミソ。だから邦題の『もしも昨日が選べたら』というのはあくまでも願望と後悔であって、原題のリモコンのスイッチを入れるという意味の『Click』の方が、誤解は少なかったと思われる。両親のマイケル生産現場にも行っていたから、つまり自分が存在していない時空にも飛べるのだが、仕事人間のマイケルは歴史家になる気などないので、これはあまり使い道がなかったようだ。

問題は早送り。早送りにすると、その間はマイケルのダミーが煩わしいことを代行してくれるのだという。ドナとの口論にはじまって、夫婦生活や交通渋滞、食事やシャワーと早送りを使い放題のマイケル。チャプター機能で、行きたい場所と場面が選べるときては、もうこのリモコンが手放せない。

ところがリモコンには学習機能があって、マイケルがその弊害に気付いて少し使用を控えようとしても、勝手に早送りにしてしまうのだった。しかもこのリモコンは返品不可で、それどころか体にくっついて離れてもくれないのだ! モーティは自らを「死の天使」(なんじゃ?)と呼んでいたが(途中でも何度が登場する)、マイケルには学習機能のことは黙っていたし、まあ悪魔なのかも。

というわけで、あっという間にマイケルは年をとっていく。子供たちは大きくなり、社長の椅子は手に入れたものの、不摂生が祟ってひどい肥満に。さらに時間が進んだ時には、彼には理由はわからないのだがドナとは別れているし、癌でもう死期が迫っているのだった。

望み通りになったとはいえ、あまりにも空虚な結末に、本当に大切だったのは家族だったと気付く。マイケルのダミーが父親のテッド(ヘンリー・ウィンクラー)を冷たくあしらうが、それでもテッドは「愛している」と言う。この場面を何度も巻き戻しては食い入るように見るマイケル、という場面など泣かせどころなのだろうが、そのつもりでやられてもねー。

最悪なのは、ここまでやっておいての夢オチ。そういえば「寝具」&入浴用品専門店だったっけ。しかしなー。「善人は報いられるべきだ」というモーティの言葉が〆だけど、ということはやっぱり彼は天使なのか? クリストファー・ウォーケンが天使なんて、私ゃ認めんぞ。それにどう「善人」って判断したのさ。あの結末で悔やめば救われるのか。甘い甘い。ってだから天使だったって? へーい。

くだらない映画なんだけど、細部はよくできていて、年寄りマイケルやドナのメイクは見ものだし、マイケルのデブぶりにはギョッとさせられた。肥満が治ったあとの皮膚あまり状態もよくできていた。未来の病院や車などにも神経が行き届いていて、だから下ネタ夢オチコメディにしてしまってはもったいないではないか。

【メモ】

ダスティン・ホフマンの息子とジャック・ニコルソンの娘がマイケルの息子と娘、ってホントか?(あとで聞いたんだが、もう顔が思い出せないのだな)

原題:Click

2006年 107分 サイズ:■ アメリカ 日本語字幕:藤沢睦美 翻訳協力:パックン

監督:フランク・コラチ 脚本:スティーヴ・コーレン、マーク・オキーフ 撮影:ディーン・セムラー 特殊メイク:リック・ベイカー 編集:ジェフ・ガーソン 音楽:ルパート・グレグソン=ウィリアムズ
 
出演:アダム・サンドラー(マイケル・ニューマン)、ケイト・ベッキンセイル(ドナ・ニューマン/妻)、クリストファー・ウォーケン(モーティ/死の天使)、デヴィッド・ハッセルホフ(エイマー/建築事務所社長)、ヘンリー・ウィンクラー(テッド・ニューマン/マイケルの父)、ジュリー・カヴナー(トゥルーディ・ニューマン/マイケルの母)、ショーン・アスティン(ビル)、ジョセフ・キャスタノン(ベン・ニューマン)、テイタム・マッキャン(サマンサ・ニューマン)、キャメロン・モナハン(ジェニファー・クーリッジ)、ロブ・シュナイダー(クレジットなし)

森のリトル・ギャング

新宿ミラノ3 ★★

■人間って可愛くない

動物たちが冬眠から目覚めると、森の大部分は人間によってニュータウンになっていた。食料が少なくなって困っている動物たちの前に、流れ者のアライグマRJが現れ、人間の町にはおいしいものが沢山あると誘惑する。彼らのリーダーである亀のヴァーンは、慎重な性格もあって、なかなか乗り気になれない。が、世間知らずでお人好しな仲間たちは、RJに教えられたスナック菓子の味覚が忘れられず、ヴァーンよりRJの甘言に夢中になってしまう。

こうしてRJの指揮のもと、人間からの食料横取り作戦が開始されることになるのだが、実はRJは、横暴な熊のヴィンセントが貯め込んでいたスナック菓子に手をつけたことでそのすべてを台無しにしてしまい、ヴィンセントに1週間で食料を取り戻すという無茶な約束をさせられていたのだ。つまり、横取り作戦成功のあかつきには、それをRJが横取りしてヴィンセントに献上するという筋書きが隠されていたのだった。

このあとは、あの手この手を使った動物対人間の攻防がテンポよく展開されるので、あれよあれよという間に幕となるのだが、話の大筋に意外性がない。子供向けのアニメだし、「家族(この場合は仲間という意味だが)こそがグッドライフの1歩」というわかりやすいテーマでまとめるほかないのだろうが、攻防戦と動物のキャラクターが見所というのではつまらない。

唯一面白かったのは、人間をあくまで醜悪に描いていたことだ。害獣駆除会社の男や町の役員のヒステリックな女グラディスは最初から悪役扱いと決めていたのだろうが、子供やクッキー販売員の女の子までが可愛くないのは、あくまで動物目線の故か。そして、RJによる人間寸評が鋭い。曰く「人間は足が弱っている」「もっと食うために運動している」。が、これもそこまでだ。

ただ、動物たちのやっていることも、人間たちに生活圏を奪われたという大義名分はあるにしても、ようするに盗みでしかないわけで、子供向けアニメとしてはこのままでは手落ちではないか。

柵に囲まれて生活圏を大幅に制限させられている様は、意図したことではないにしても、イスラエルが築いたパレスチナ人居住区との分離壁を連想させる。が、とてもそんな大それた問題には踏み込むつもりはないのだろう。なにしろ、恰好のテーマとなるはずの環境破壊にさえ、ほとんど触れようとさえしないのだから。

 

【メモ】

炭酸飲料でメチャ元気になるリスのハミー。死んだふりが得意なオポッサムのオジーに娘のヘザー。強力な武器を持ち、人間の飼い猫に、猫になりすまして色仕掛けにでるスカンクのステラ。3つ子がやんちゃなベニーとルーのハリネズミ夫婦。

原題:Over the Hedge

2006年 84分 アメリカ サイズ:■ 日本語字幕:■

監督:ティム・ジョンソン、キャリー・カークパトリック 脚本:レン・ブラム、ローン・キャメロン、デヴィッド・ホセルトン、キャリー・カークパトリック 原作:マイケル・フライ、T・ルイス 音楽:ルパート・グレグソン=ウィリアムズ

声の出演:ブルース・ウィリス(RJ)、ギャリー・シャンドリング(ヴァーン)、スティーヴ・カレル(ハミー)、ワンダ・サイクス(ステラ)、アヴリル・ラヴィーン(ヘザー)、ウィリアム・シャトナー(オジー)、ユージン・レヴィ(ルー)、キャサリン・オハラ(ペニー)、ニック・ノルティ(ヴィンセント)、トーマス・ヘイデン・チャーチ(ドウェイン)、アリソン・ジャネイ(グラディス)