不撓不屈

上野東急 ★★☆

■もやもやの残る飯塚事件

高杉良の同名の原作の映画化。この手の作品は、時間があるのなら原作を読んだ方がずっと面白そうだ。森川時久の名前は私には懐かしいものだったが、演出も古色蒼然としたもの。もっともこの映画の場合には、あながち間違った選択とは言い切れないだろう。それが、内容的にも昭和30年代という時代にも合致したものに見えたからだ。

ここで描かれる「飯塚事件」というのは、って何も知らなかったのだが映画によれば、税理士の飯塚毅(滝田栄)が経営基盤の脆弱な顧客の中小企業に勧めていた「別段賞与」や日当について、国税局との見解の相違があり、行き過ぎた国税局の嫌がらせの末、7年にもわたる裁判(税理士法違反で事務所の職員が4人も逮捕起訴される)闘争となった事件を指す。

国税局のふるまいにはあきれるばかりだが、中小企業が大企業に伍していくためには合法的節税に精励すべきという飯塚の主張にも、手放しで賛同できなかった。身近に脱税して当然と言って憚らない人間を何人も見てきた(あくどい税理士もいた)からだが、飯塚のすべきことはそういう言いがかりを付けられそうなことを推奨するよりは(合法ならどんな節税でもいいのだろうか)、税理士としてまぎらわしい税制を正すことではなかったかと思うのだ(専門外なので難しいつっこみはご勘弁。訊いてみたいことはいくつもあるが)。

映画にも飯塚の顧客が内緒で不正していたことが明るみ出てしまう話があり、飯塚は取引を中止するという「正しい」選択をするのだが、私にはどこまでももやもやが残った。が、映画からはそれることなので、これ以上は深く触れないでおく。

衆議院大蔵委員会税制小委員会であれだけ追求されながら、国税局に対してはどのようなお咎めがあった(なかった?)のかがはっきりしないので、映画としての爽快感には欠ける。自分の正しさが裁判で証明されただけで十分という飯塚の姿勢もこの展開も、事実を踏まえる必要があったにしても歯痒いばかりだ。

社会党の岡本代議士(田山涼成)はあれだけ怒ってたのに、矛先をおさめちゃったんでしょうか。いかにも政治家(おさめてしまったことも含めて)という感じの熱演だったのにね。永田議員の偽メール事件の轍を踏まないよう(って逆だけど)飯塚の妻(松坂慶子)が持ってきた情報の信憑性は確かめると、ちゃんと言ってましたがな。

滝田栄がさえないのは、愚直な人間を演じることの難しさか。助言されたこととはいえホテルに身を隠してしまうというのもねー。堂々としてないじゃん。この映画でよかったのは、顧客の1人であるエド山口や「良識ある」国税庁職員の中村梅雀でしょうか。

気になったのは、国会を映した映像に高層ビルがあったことで、セットやバスにいくらこだわっても、こういうことをするとせっかくの雰囲気が台無しになってしまう。CGには抵抗があるのかもしれないが、どちらがいいかは明白だ。

監督が森川時久で、国税庁告発というこの内容。けれどエンドロールには協賛企業の名前も連なっているのは、やはり時代かしらね。

 

【メモ】

一円の取りすぎた税金もなく、一円の取り足らざる税金もなからしむべし」(飯塚の事務所に掛かっていた言葉)

2006年 119分 角川ヘラルド映画

監督:森川時久 製作・企画:綾部昌徳 原作:高杉良『不撓不屈』 脚本:竹山洋 撮影:長沼六男 美術:金田克美 音楽:服部克久

出演:滝田栄(飯塚毅)、松坂慶子(飯塚るな子)、夏八木勲(法学博士・各務)、三田村邦彦(関東信越国税局直税部長・竹内)、中村梅雀(国税庁職員・重田)、田山涼成(岡本代議士)、北村和夫(植木住職)

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