雨音にきみを想う

新宿武蔵野館3 ★☆

■チョッカンはそんなにいいヤツだろうか

ウィンイン(フィオナ・シッ)は、同居の兄フェン(チャン・コッキョン)が全身麻痺で、彼の介護だけでなく姪のシウヤウ(チャン・チンユー)の世話をしながら縫製の仕事をしている。その仕事もミスを咎められ(美人なんだから外で働けばと嫌味まで言われ)賃金を下げられてしまう。そして自身も兄と同じ遺伝性の病気(動脈炎。体温低下で血管が収縮してしまう)にいつならないとも限らないという、まさに悲劇のヒロイン。眉間の皺が痛々しい。

チョッカン(ディラン・クォ)は路地で迷子になったシウヤウと出会い、少女を家に送り届けたことで、そんなウィンインと知り合うことになる。フェンはチョッカンに何かを感じたのか、彼が帰ったあとウィンインに「明日お茶を買ってこい」と言う。そしてチョッカンは数日後、フェンに職場にあったからと電動車椅子を持ってやってくる。

実はチョッカンの家は金持ちなのだが、家族の愛情を知らずに育ち、今では絶縁状態らしい。ウィンインたちの家族愛、もっといえばシウヤウに対するウィンインに、母親の愛をみて惹かれたのかも知れない。

そんなチョッカンだが、一匹狼と言えば聞こえはいいが、ヤクザのフー兄貴(サミュエル・パン)から目を付けられるほど腕のいい泥棒でしかない。当然ウィンインに身を明かすことなどできるわけもなく(表向きはバイクショップを経営)、しかしあっけなくバレてしまうと、こうやって生きてきたのだから今さら無理と、平然としたものなのだ。

しかもそのバレ方からして、ウィンインがちょっと見ていたクマのぬいぐるみを盗んできてしまうような、罪悪感のかけらもない程度の低いものなのだ。このあと少しして、ふたりのキスシーンになるのだが、ウィンインの「頼っていいのか迷う」理由が、チョッカンが真っ当でないことではなくて、「もしあなたに何かあったら」と、すでにチョッカンを好きになってしまっているのでは、恋の当事者にとっては障害でも何でもないのかもしれないが、観ている方としてはついていけなくなる。

チョッカンは盗みが生業ながら優しい男という位置づけなのだろうが、それにしては夜中に物音を立てる(ウィンインの家の2階を借りて倉庫にする)し、電気はつけっぱなしで、ウィンインの評価だってそう高くはなかったはずなのだ……。いや、これは違うか。もうこの時点ではウィンインはチョッカンのことが気になって仕方がなかったのだろう。

物語は、逃げた妻にもどる気持ちがないことを知ったフェンの自殺(これはちょっとあんまりだ)という、さらに悲劇的な状況をはさんだあと、チョッカンとヤクザの対決へと進む。ウィンインもそれに巻き込まれ、冷たい雨にも打たれてしまう。が、彼女には最後になってある贈り物が……。でもこれだってね、最初のクマのぬいぐるみと本質的には何も変わっていないではないかと。ま、彼女の涙はそのことを含めてなのかもしれないのだけどさ。

【メモ】

動脈炎という言葉もあったが、体温低下で血管が収縮してしまうという設定だ。

舞台は香港だが、ウィンインたちは広州出で、チョッカンは台湾出身という設定。ウィンインはフェン(発病前はバイオリニストだった)に広州に帰ろうと言うが、逃げた女房から金を取り戻してからでないと帰れないとフェンは答えていた。

原題:摯愛
英題:Embrace Your Shadow

2005年 102分 ビスタサイズ 香港 日本語字幕:鈴木真理子

監督・脚本:ジョー・マ
 
出演:ディラン・クォ(チョッカン)、フィオナ・シッ(ウィンイン)、チャン・コッキョン[張國強](フェン)、チャン・チンユー[張清宇](シウヤウ)、サミュエル・パン(フー)

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