ナチョ・リブレ 覆面の神様

銀座テアトルシネマ ★

■脚本がダメ。コメディにもなってない

修道院で孤児として育てられたデブダメ男のナチョ(ジャック・ブラック)は、今は料理番になっている。お金のない修道院では子供たちに満足なものが食べさせられない。ま、それはそうなんだが、ナチョには料理の才覚はなさそうだし、しかも配膳からしてだらしなくて、とても食料を大切にしているようには見えない。食べ物を粗末にする笑いは嫌いなのだが、このナチョは他の点でも愛すべきダメ男などではなく、ただのいい加減な迷惑男にしかみえないのである。

いや、もちろんそんなふうには作ってはいないのだけどね。でもまあ生きている人を死人に見立ててしまうし、教会のチップスは奪われてしまうしで、まともにできることが何もないときてる。コメディに目くじらたてるなと言われそうだが、それ以前の問題ではないか。ナチョもさすがにそれは自覚(!?)して、運命は自分で切り開くと言って修道院をあとにする。

ナチョはまずチップスを撒き餌にして、チップス泥棒のヤセ(エクトル・ヒメネス)を捕まえる。すばしっこい彼を相棒にして、あこがれのメキシカンプロレス(ルチャ・リブレ。メキシコではプロレスが盛んらしい)の選手になろうというのだ。町でルチャドール(レスラー)募集の張り紙を見ていたナチョには、賞金200ペソという目算があったのだ。で、特訓がはじまるのだが、これが蜂の巣を投げたり牛を相手にしたりの、しかも予告篇で全部公開済みのくだらないもの。もう他に見せるべきものがないというのがねー。

プロレスラーになったとはいえ、即席の2人組が通用するはずもなく、でも負けたのにギャラだけはもらえて大満足。で、なんでかわからないのだが、ナチョは修道院に戻っていてサラダを出したりしているのだ。子供思いというのを強調したのだろうが、出て行った意味がないではないか。プロレスは修道院からは目の敵にされているので、こんな2重生活は許されっこないというのに。3人がかりの脚本で、このユルさはなんなのだ。

新任のシスター・エンカルナシオン(アナ・デ・ラ・レゲラ)との恋物語をはさむ必要があったのだろうけどね。ナチョの最初のシスターの口説き文句は「今夜一緒にトーストをかじりませんか」というもので、この少し後にふたりがそうしてる場面があって、ま、この映画ではこれが1番笑える場面だった。

人気はでるが負けているばかりでは仕方がないと、ナチョとヤセはそれなりにいろいろ考える。ヤセの紹介でナチョはヘンな男の言うままに、崖の上にある鷲の卵を飲むのだが、しかしヤセは科学しか信じない男のはずだったのに。この脚本のいい加減さにはあきれるばかりで、もうこうなると、これはからかわれているとしか思えない。

勝つにはプロに学ぶしかないと、人気レスラーのラムセスのいるパーティ開場へもぐりこむ。ところが憧れていたラムセスは、子供たちのためのサインすらしないようなひどいヤツで、このことでナチョは、勝者がラムセスと対戦できるバトルロイヤルに挑戦することを決意する。

バトルロイヤルだから運もあるのだが、ナチョは所詮2位どまり。が、これも2位のミレンシオの悪さにヤセが車で彼の足を轢いて出場できなくさせてしまうという幸運?があって、ついにラムセスとの対戦することになる。

筋肉もりもりのラムセスに、ぶよぶよのナチョだから、勝ち目はないのだが、感動?のプランチャ(ロープから場外の相手に向かって体を預けていく飛び技)まで飛び出して何故か勝利。賞金の1万ペソを手にしたナチョはその金でバスを買い、子供たちを遠足に連れていく。シスターともいい感じで、はいおしまい。

実話をヒントにしたというのは、それはおそらく暴風神父と呼ばれたフライ・トルメンタのことのようで、彼の話はそのまま映画にした方がずっと面白そうだが、しかしそれはすでに映画になっているらしいのだ。だからこれはコメディなのか。それにしてもなー。

ジャック・ブラックは『スクール・オブ・ロック』と『キング・コング』で感心していたから、余計がっかりだった。歌の場面では彼らしさが出ていたし、プロレス場面でも最後までぶよぶよではあったが、体当たりの演技を見せてくれたんだけどさ。

【メモ】

ヤセは科学だけを信じていて、洗礼も受けていない。これはナチョが洗面器に水を入れて洗礼?させてしまうのだが。

「ぜひ彼女にこの逞しい体を見せたい」「これが俺の勝負服」

シスターも、虚栄心のための戦いだからプロレスはいけないと言っていたのに、いつ「俺たちが独身主義でないなら結婚しよう」というナチョの手紙をそっと枕の下に置くような心境になったのだ。荒野の修行?で?

シスターもサンチョと一緒に、ラムセス戦を観に来る。

原題:Nacho Libre

2006年 92分 アメリカ 日本語字幕:■

監督:ジャレッド・ヘス 製作:ジャック・ブラック、デヴィッド・クローワンズ、ジュリア・ピスター、マイク・ホワイト 脚本:ジャレッド・ヘス、ジェルーシャ・ヘス、マイク・ホワイト 撮影:ハビエル・ペレス・グロベット 衣装デザイン:グラシエラ・マゾン 編集:ビリー・ウェバー
 
出演:ジャック・ブラック(イグナシオ/ナチョ)、エクトル・ヒメネス(スティーブン/ヤセ)、アナ・デ・ラ・レゲラ(シスター・エンカルナシオン)、リチャード・モントーヤ(ギレルモ)、ピーター・ストーメア(ジプシー・エンペラー)、セサール・ゴンサレス(ラムセス)、ダリウス・ロセ(チャンチョ)、モイセス・アリアス(フラン・パブロ)

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