16ブロック

新宿ミラノ1 ★★☆

■ヨレヨレ男の大奮戦記

ニューヨーク市警のジャック・モーズリー刑事(ブルース・ウィリス)は、夜勤明けというのにエディ・バンカー(モス・デフ)という黒人青年の証人を護送する任務を押し付けられる。裁判所までは16ブロックで、車なら15分もあれば終わるという仕事ではあったのだが。

まずブルース・ウィリスの老けっぷりに驚かされる。夜勤明けで体調がすぐれない設定もあるのだろうが、なんでも捜査中の事故で足を悪くし、捜査の一線を退いてからは酒浸りの日々らしい。「人生長すぎると思う」というセリフが当然と思えるメイクで、腹までたるんで見えるではないか。

この日も渋滞にまきこまれると、もう我慢できずに酒を買いに行く始末(向こうでは飲酒運転の規制はどうなってんだ?)。で、その隙をついたかのようにエディが襲われる。ジャックは間一髪でエディを救い、仲間に援護を要請するが、駆けつけてきたフランク刑事(デヴィッド・モース)からは、刑事たち(6人が関与しているらしい)にとって不利な証言をしようとしているエディを引き渡すように言われる。「お前もこれで主役組に復活できる」という餌までちらつかされて。

はじまったばかりで、警察内部に巣くった悪(しかもフランクは20年もジャックの相棒だったという)を相手にしなければならないことがわかってしまうのだが(ただし最後まで事件の真相は明かされない)、この警察を敵にまわして10時までに裁判所へたどり着けるのか、という話の絞り方は正解だろう。時間設定がほぼリアルタイムという工夫もあるが、こちらは意外と活かしきれていない。

16ブロックというのは東京なら、港区の愛宕警察署から霞ヶ関の裁判所という距離感だろうか。ただし、映し出される街並みはもっとごちゃごちゃしていて、実際の場所を知っていればさらに楽しめたと思われる。途中で裁判所に連絡して「あと7ブロックだ」と言うし、人出も多く迷路のような古いビルに逃げ込んだりする場面もあるが、裁判所にどのくらい近づいたのかということまでは残念ながら伝わってこない。ケータイを探知していた時ならモニターに地図を表示することもできるが、それ以外は所轄区域のことだからわざとらしくなってしまうのだろう。

エディは武器の不法所持でムショにいたような軽薄なヤツで、しかもうるさいくらいに喋りっぱなし(これを底抜けの明るさと取れるならいいのだが)。これに寡黙なジャックの組み合わせは表面的にも定番だが、今度こそ改心してケーキ屋になるという、ジャックならずとも信じられないような夢を本当に大事にしていることがわかって、というあたりも定番だ。命を賭けてお互いに相手を守ろうとするし、ジャックも最後にはこのことが契機となって自分自身を清算しようとする。

定番ながらそこにいくまでのアイディアはよく、なかでも車を捨てジャックが妹のダイアン(ジェナ・スターン)のアパートに忍び込んで武器を調達する場面ではニヤリとさせられた。エディと同じように、誰しも妹ではなくジャックの妻と勘違いしてしまうからだ。便座の位置で男がいるとわかる場面では、まんまと余計な同情までさせられてしまうというわけだ。

このあともバスに立てこもったり、人質解放に紛らわせてエディを逃がしたり(これは彼が戻ってきてしまう)、テープレコーダーを手に入れたり、と伏線をばらまきながら単調になることを巧みに避けている。

ただし、バスからの脱出と救急車はもう1台あったというすり替えは、基本的に同じ種類の騙しだから感心できない。それに比べたら罪は軽いが、バスから解放された人質から情報収集しようとしない警察(結果としては情報は入るが)というのもおかしい。

人は変われるというのがテーマとしてあって、このことが最後にジャックはエディを解放し(エディの犯罪記録も抹消させる)、今度は自分が証人になる道(2年の刑期が待っていた)を選ぶのだけど、個人的な趣味からいうと、ここら辺の演出はやり過ぎという感じがしなくもない。

【メモ】

乗っ取ったバスは、タイヤを撃たれて止まってしまう。ジャックは乗員に窓を新聞紙でふさがせ、人質の数は31人を約40人と水増しして報告する。

「毎日が誕生日が俺のモットー」(エディ)。今日が誕生日と言ったのは、バスの中の子供を怖がらせないようにしてのことで、あとで里親を転々としていて誕生日は知らないとジャックに言う。

ケーキのレシピを貼ったノートをもっているエディ。

「バリーホワイト(エンドロールに彼の音楽が使われている)もチャックベリーも強盗をしたけど改心した」(エディ)。

タイヤを壊されたままバスを発車させる。狭い路地に突っ込んで立ち往生となる。

最後にジャックを殺さないフランクというのはどう考えれば。悪党もさすがに元同僚は自分の手で始末したくなかったのか?

「オレも一味だったが、6年前は勇気がなかった」(ジャック)。

原題:16 Blocks

2006年 101分 シネスコサイズ アメリカ 日本語字幕:小寺陽子

監督:リチャード・ドナー 脚本:リチャード・ウェンク 撮影:グレン・マクファーソン 編集:スティーヴ・ミルコヴィッチ 音楽:クラウス・バデルト
 
出演:ブルース・ウィリス(ジャック・モーズリー)、モス・デフ(エディ・バンカー)、デヴィッド・モース(フランク・ニュージェント)、ジェナ・スターン(ダイアン・モーズリー)、ケイシー・サンダー、シルク・コザート、デヴィッド・ザヤス

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