記憶の棘

新宿武蔵野館3 ★★★★☆

■転生なんてどうでもいい。アナと少年が愛し合っていたのなら

アナ(ニコール・キッドマン)が最愛の夫ショーンをジョギング中の心臓発作で亡くしたのは10年前。夫への想いを断ち切れずにいたアナだが、自分の心が開くのを待ち続けてくれたジョセフ(ダニー・ヒューストン)の愛を受け入れ、その婚約発表パーティがアナの豪華なアパートで開かれようとしていた。ショーンの友人だったクリフォード(ピーター・ストーメア)とその妻クララ(アン・ヘッシュ)もやって来るが、クララはプレゼントのリボンを忘れたといって外に飛び出していく。公園の林にプレゼントを埋めるクララ。それを見ている少年(キャメロン・ブライト)。クララは別のプレゼントを買う……。

次は、アナの母エレノア(ローレン・バコール)の誕生日パーティが開かれているアパート(パーティ続きだが、なにしろ金持ちだからね)。そこに突然見知らぬ少年が現れ、アナとふたりだけで話したいと申し出、「僕はショーン、君の夫だ」と告げる。あきれて最初こそ相手にしないアナだったが、何度か接していくうちに本当に夫の生まれ変わりかもしれないと思い始め、次第にそれは確信へと変わっていった。

カメラが巻頭から素晴らしいが、アナの動揺を捕らえた劇場の場面は特筆ものだ。少年への説得がうまくいかず、劇場の開演に遅れてしまうジョセフとアナだが、少年の倒れた所を目にしてしまったアナの気持ちの揺れは大きくなるばかりだ。引いたカメラが整然とオペラを鑑賞している客席を映しているところにふたりが現れる。指定席にたどり着くには、まるで波紋が広がるように何人もの客を立たせることになる。狭い客席の前を進む時にはカメラはかなりふたりに近づき、着席した時にはアナのアップになっている。そして、ここからが長いのだ。ジョセフが2度ほどアナに耳打ちするが、アナには多分何も聞こえていない。アナにも見えていなかったようにオペラの舞台は最後まで映ることなく、場面は観客がその長さに耐えられなくなったのを見計らったように突然切り替わる。

こんな調子で書いていくとキリがないのではしょるが、少年がふたりしか知らないことまで答えるに及んでアナの心は乱れに乱れ、夫への愛が再燃し、少年をアパートに泊めたりもする。無視されたジョセフが大人げない怒りを爆発させる(きっかけは少年が椅子を蹴るという子供っぽいいたずら)が、すでにこの時にはアナには少年しか見えなくなっていた。

ところが、死んだショーンが実は浮気をしていて、少年の知っていた秘密の謎が、クララが埋めたプレゼントの手紙を掘り出して仕入れたものによることがわかる。クララによると、この手紙はアナがショーンに送ったもので、それをショーンは封も切らずにクララに渡していたのだという。「ショーンが本当に愛していたのは私。だからもしあなたが生まれ変わりなら、真っ先に私の元に来るはず。だからあなたはショーンではない」というクララに、少年の心は簡単に崩れてしまう。

そしてアナは、何と、今回のことは私のせいではないとジョセフに復縁を懇願する。少年からは2度と迷惑はかけないし、たまに精神科の医師に診てもらっているのだという手紙が届く(この場面は学校の個人写真の撮影風景。このカットがまた素晴らしい)。ラストはアナとジョセフの結婚式だが、海岸にはウエディングドレスを着たままのアナが取り乱している姿がある。ジョセフがアナに近づき、なだめるようにアナを連れて行く……。

1番はじめにショーンの講義のセリフで転生は否定されるのだが、すぐその当人の死を見せ、そのまま出産の場面に繋いでいるのは、転生をイメージさせていることになるのではないか。原題もBirthだし。こうやって周到に主題を提示しての逆転劇はあんまりという気もするが、しかしだからといってあっさり転生でした、というのはさすがにためらわれたということか。

表面的にせよ転生を否定する結論を取っているので、その可能性を考えてみたが、これだと少年が何故そんなことを言い出したのかがまるでわからなくなる。いくらアナに好意を感じたといっても、家族との決別も含めて10歳の少年がそこまで手の込んだことをやるだろうか。

逆に生まれ変わりだという根拠ならいくつか見つけることが出来る。婚約パーティに現れたクララの後を追った(つまりクララを知っていた。これは偶然ということもあるかも)。クリフォードのことも知っていた。ショーンの死亡場所を知っていた。そしてなにより手紙からの知識では(アナのことは同じアパートだから知っていたにしても)ショーンが死んだということまではわからないはずなのだ。

確かにクララの言い分は気になるが、ショーンがジョセフに妻を取られることに嫉妬した(あるいは許せない)というのはどうだろう。これはエレノアが彼を嫌っていたということからの、ショーンの性格が悪かったという私の勝手な推論だが。また、転生はしたものの全部の記憶が残ったというわけではないという説明もちょっとずるいが成り立たなくはない。これなら純粋にアナを愛している少年がクララの暴露発言にショックを受けて(自分が将来するべき裏切りを予想するというのは無理だとしても、単純に混乱はするだろう)、結末にあるような学校生活をするしかないという説明にはなる。

あとはクララの発言が全部嘘だということも考えられる。もっともこれだと手紙の入手方法や、暴露する意味がまったくわからなくなる(嘘でない場合でもショーンが死んで10年もしてこの発言は?)し、もしそうだというのなら映画としてもなんらかのヒントを用意しておく必要があるだろう。

こんなふうにどこまでも疑問が残ってしまうようでは、映画としては上出来とはいえないのだが、といって簡単に却下する気にはなれない映画なのだ。

手紙の封も切らずそれを愛人に渡すショーンも不遜でいやなヤツだが、封を切らなくてもわかるような手紙しか書けなかったアナという部分はなかったか。ショーンの不倫を見抜けなかったというのもね。少年の出現であれだけ心が動かされたというのに、復縁の許しを請うだろうか。それも私が悪いのではない、って最低でしょ。その時、なかなか返事をしないジョセフもものすごくいやなのだけど、それよりラストシーンをみると、もうアナは狂気の1歩手前なのかもと思ってしまう。

つい沢山書いてしまったが、実は転生かどうかということよりも、アナと少年は本当に惹かれあったのか、ということが問題にされるべきなのだ。そしてアナと少年はやはりちゃんと愛し合った、のだと思う。夫だと言われても、秘密を知っていても、それだけでは愛せるはずなどないということぐらい、誰だって知っていることではないか。

  

【メモ】

「もし妻のアナが亡くなり、その翌日窓辺に小鳥が飛んできて僕を見つめ、こう言ったら?『ショーン、アナよ。戻って来たの』僕はどうするか? きっとその鳥を信じ一緒に暮らすだろう」(巻頭のショーンの講演でのセリフ)

少年はアナに結婚は間違っているという手紙を渡す。

アナがそのことをジョセフに言わなかったのはたまたま、それとも……。

アナと同じアパートの202号室(コンテ家)が少年の家。ジョゼフは事情を話し、少年にアナに近づかないと約束させようとするが、少年は言うことをきかない。このあとオペラに出かけ、少年が倒れる。

電話でアナに「公園のあの場所で君を待っている」と告げる少年。あの場所とはショーンが息を引き取った場所だった。

少年はアナの義兄のボブに会うことを希望し、彼のテストを受ける。

原題:Birth

2004年 100分 サイズ:■ アメリカ 日本語字幕:■

監督:ジョナサン・グレイザー 脚本:ジョナサン・グレイザー、ジャン=クロード・カリエール、マイロ・アディカ 撮影:ハリス・サヴィデス 編集:サム・スニード、クラウス・ウェーリッシュ 音楽:アレクサンドル・デプラ

出演:ニコール・キッドマン(アナ)、キャメロン・ブライト(ショーン少年)、ダニー・ヒューストン(ジョゼフ/婚約者)、ローレン・バコール(エレノア/母)、アリソン・エリオット(ローラ/姉)、アーリス・ハワード(ボブ/姉の夫)、アン・ヘッシュ(クララ クリフォードの妻)、ピーター・ストーメア(クリフォード/ショーンの親友)、テッド・レヴィン(コンテ/少年の父)、カーラ・セイモア(少年の母)、マイロ・アディカ(ジミー/ドアマン)

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