美しき運命の傷痕

銀座テアトルシネマ ★★★★

■愛に見放された三姉妹とその母

長女のソフィ(エマニュエル・ベアール)は夫(ジャック・ガンブラン)の浮気に見境のない行動にでてしまうが、離婚を決意する。恋をすることもなく療養所に通って母(キャロル・ブーケ)の世話をしている次女のセリーヌ(カリン・ヴィアール)だが、謎の男につきまとわれる。三女のアンヌ(マリー・ジラン)は不倫相手の大学教授(ジャック・ペラン)に別れを告げられ激しく動揺するが、相手は死んでしまう。

愛に見放されたこの三姉妹の苦悩を、映画は幼い時に父親を失ったトラウマに結びつける。ソフィの行動は夫=父親を失うことへの恐れ、セリーヌは事件の目撃者であるが故の男性不信、アンヌは父親への思慕だろうか。

謎の男の告白で、父親が自殺に至った事件の真相が判明する。疎遠になっていた三姉妹が集まり、母親に誤解だったことを告げるのだが、彼女は「自分は後悔していない」と言う。

ここでやっと巻頭のタイトルバックが、カッコウの託卵の様子を克明に写した映像だった理由がわかる。つまり三姉妹は母の不倫の子だったのだ。

そういえば、先に孵化したカッコウは、残りの卵を巣の外に落とすのだが、自分も転落してしまう。そこにちょうど刑務所から出てきた父親が通りかかり、転落した雛を巣に戻すのが映画のはじまりだった。彼は託卵が成就する手助けをする運命にあったということになる。この場合、自殺こそが手助けだったとしたらずいぶんな話だ。

少なくとも三姉妹にとっては霧が晴れ、再生の道が開けたと思うのだが、母親の後悔していないという一言をどう受け止めるかという問題は残る。観客には不倫の子だということはわかっても、彼女たちは知らないのだし。そう考えていくと、だんだん怖くなってくる。

クシシュトフ・キエシロフスキの遺稿をダニス・タノヴィッチ監督が映画化したというこの作品は、映像も意味深で仕掛けが多い。思わせぶりな展開もどうかと思う。そのぶん間の悪い車掌などを登場させてバランスをとってはいるが、話の基調がこんなだからとても好きにはなれない。

それはたとえば、アンヌが、教授の娘(親友なのだ)に恋の相手を悟らせようとするのだが、そして彼女の父親を独占したいという気持ちがそうさせたのだと理解できても、彼女の行為を弁護する気になれないのと同じだ。

アンヌが受ける口頭試問のテーマが、たまたま夫の愛した子を殺す「王女メディア」だったのにはドキリとするが、教授は試験場に姿を現さずアンヌの妊娠も確定ではないようだから、これはソフィを連想させようとしているのか。いずれにしても、少しばかりうっとうしい。

でも、それはそうなんだが、十分面白い映画であることは間違いない。しっかり筋を頭にたたき込んだら、もう一度今度はあら探しをするつもりで観てみたい作品だ。

原題:L’ Enffr

2005年 102分 サイズ■ フランス、イタリア、ベルギー、日本 日本語字幕:■

監督:ダニス・タノヴィッチ 製作:マルク・バシェ、マリオン・ヘンセル、セドミール・コラール、定井勇二、ロザンナ・セレーニ 原案:クシシュトフ・キエシロフスキー、クシシュトフ・ピエシェヴィッチ 脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ 脚色:ダニス・タノヴィッチ 撮影:ローラン・ダイヤン プロダクションデザイン:アリーヌ・ボネット 編集:フランチェスカ・カルヴェリ 音楽:ダスコ・セグヴィッチ
 
出演:エマニュエル・ベアール(ソフィ)、カリン・ヴィアール(セリーヌ)、マリー・ジラン(アンヌ)、キャロル・ブーケ(母)、ジャック・ペラン(フレデリック)、ジャック・ガンブラン(ピエール)、ジャン・ロシュフォール(ルイ)、ミキ・マノイロヴィッチ(父)、ギョーム・カネ(セバスチャン)、マリアム・ダボ(ジュリー)、ガエル・ボナ(ジョセフィーヌ)、ドミニク・レイモン(ミシェル)

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