ディセント

シネセゾン渋谷 ★★★

■出てこなくても怖かったのに

渓流下りを仲間の女性たちと楽しんだサラ(シャウナ・マクドナルド)だが、帰路の交通事故で、夫と娘を1度になくしてしまう(これがかなりショッキングな映像なのだ)。

1年後、立ち直ったことを証明する意味も込めて(仲間からは励ましの気持ちで)、サラはジュノ(ナタリー・メンドーサ)が計画した洞窟探検に参加する。メンバーは、冒険仲間のレベッカ(サスキア・マルダー)とサム(マイアンナ・バリング)の姉妹にベス(アレックス・リード)、そしてジュノが連れてきたホリー(ノラ=ジェーン・ヌーン)。アパラチア山脈の奥深くに大きく口を開けて、その洞窟は6人の女たちを待っていた。

まず、素人には単純にケイビング映画として楽しめる。彼女たちの手慣れた動作が安心感を与えてくれるのだろう、いっときホラー映画であることを忘れ、洞窟の持つ神秘的な美しさに感嘆の声を上げていた。広告のコピーのようにとても地下3000メートルまでもぐったとは思えないのだが、それでも洞窟場面はどれもが、恐怖仕立てになってからも、臨場感のある素晴らしいものだ。

人ひとりがやっとくぐり抜けられる場所が長く続き、精神状態の安定していないサラが身動きできなくなり錯乱状態に。ベスの助けで窮地を脱するが、その時落盤が起き、帰り道を完全にふさがれてしまう。このことで、ここは未踏の洞窟であり、このケイビングが功名心と冒険心の固まりのジュノによって仕組まれたものだったことが判明する。役所への申請もしていないから、救助隊も望めないというわけだ。

奈落の底を真下に、装備が不十分(崩落で一部を失ってしまう)なままで天井を伝わって向こう側へ渡ったり、1番元気なホリーの骨折など、ますます出口からは遠ざかるような状況の中、映画はとんでもない展開をみせる。

本当に息が詰まりそうな閉塞感の中で女同士の確執が爆発、とはせず(むろんそういう要素もふんだんにある)、凶暴な肉食地底人を登場させたのことには文句は言うまい。いや、私的にはそういうのが好きだから、結構歓迎なのだ。が、地底人が出てこなくても今まで十分恐ろしかったことが、よけい不満をそれに持っていきたくなってしまうのだ。

地底人は人間が退化して目が見えなくなっているという設定のようだから、おのずと造型も決まってこよう。で、それはまあまあだ。が、その分嗅覚や聴覚が発達していなければ地底の中で素早く動き回ることもできないし、地上から獲物を捕ってくることもできないわけで(生息数からいって相当量の食物が必要になる)、となると息をひそめて横たわっている上を地底人が気付かずに通って行く場面などでは、怖さの演出が裏目になってしまっている。ここは確信的に獲物に気付き、確実に仕留める場面を用意してほしかった。その方が恐怖感は倍増したはずである。

そして、彼らは意外にも弱かった! 女性たちが冒険マニアで少しは鍛えているにしても、地の利もある地底人と互角以上に戦えてしまっては興醒めだ。ジュノが誤って仲間に重症を負わせてしまい、見捨ててしまうという場面も入れなくてはならないから、そう簡単に殺されてしまっては人数が足らなくなってしまうのかもしれないが、もう少し地底人についての考察を製作者は深めるべきではなかったか。

そうすることで、伏線として置いた壁画(これは地底人の目が退化する前に描いたものなのだろうか)や人間の残した矢印(残っていたハーケンは100年前のものという説明もあった)をもっと活かすことができたはずなのだ。

ともあれサラは、地底人だけでなくジュノとの確執にもケリを付け、ひとりだけになりながらも何とか地上にたどり着く。彼女のその凄惨な形相。無我夢中で車に乗り、がむしゃらに飛ばし、舗装道路に出る。木を積んだトラックが横切っていったあと、サラは嘔吐し、このあと何故か娘の5歳の誕生日の光景を見る。そして……。

絶望感だけが残るラストシーンだが、しかしここは、結局はジュノとふたりで出てくることになったという話にした方が、凄味があったのではないか。

【メモ】

行くはずだったのはボアム洞窟。前日には「手すりが付いているかもしれない」と笑って話していた。しかし計画はジュノに任せっきりだとしても、好きでこういうことをしているのだから他にひとりくらいは場所の確認や地図にあたっている人間がいそうなものなのだが。

洞窟は未踏にしては、入口がかなり大きなもので、現代のアメリカでは無理な設定なのでは。

ジュノに功名心があったにせよ、そして仲間は騙したにしても役所への申請はしておいてもおかしくないだろうし、未踏であるなら最初のあの狭い通路を行く決断をしたのは、リーダーとしてはやはり疑問。

医学生のサムは、ホリーの飛び出した骨を戻して治療。

ジュノはサラに「昔の友情を取り戻したくて……この洞窟にはあなたの名前を付けようと思って……」と言い訳をする。

原題:The Descent

2005年 99分 イギリス シネマスコープ R-15 日本語字幕:松浦美奈

監督・脚本:ニール・マーシャル 撮影:サム・マッカーディ 編集:ジョン・ハリス 音楽:デヴィッド・ジュリアン

出演:シャウナ・マクドナルド(サラ)、ナタリー・メンドーサ(ジュノ)、アレックス・リード(ベス)、サスキア・マルダー(レベッカ)、マイアンナ・バリング(サム)、ノラ=ジェーン・ヌーン(ホリー)、オリヴァー・ミルバーン(サラの夫ポール)、モリー・カイル(サラの娘ジェシー)、レスリー・シンプソン、クレイグ・コンウェイ