フェイク シティ ある男のルール

新宿武蔵野館3 ★★☆

■真実より、それぞれの正義

キアヌ・リーヴス演じるラドローは、飲んだくれの少々危険な刑事(またかよって感じ)。飲んだくれに関しては、過去を引きずってのことが多少あるにしても(注1)、冒頭の単独捜査はやり過ぎもいいとこで、刑事というよりはまるで射殺魔だ。双子の姉妹の救助で、かろうじて釈明が成立する程度。それは本人もわかっているから、正当防衛の偽装にも躊躇することがない。

そんな彼に何かと目をかけてくれるのが上司のワンダーで、今回のこともラドローを警察苦情相談所に移動させ、お前の尻ぬぐいをしてやったと恩を着せてくるのだが、何のことはない、自分が上り詰めるためにラドローを道具として使っていただけのことだった。

こうしたワンダーのふるまいは内務調査官のビッグスがすでに目を付けていて、ラドローの元同僚ワシントンがビッグスに協力したことから、コンビニ強盗を装った2人組の警官に、ワシントンはあろうことか、ラドローの目前で殺されてしまう(注2)(ラドローはワシントンの真意をこの時点では知らず、彼の行動を疑ってさえいいて、で、後を付けていたのだが、そんなだから事件の直前のコンビニでは2人の間には険悪な空気が漂って、つかみ合いになっていた)。

要するに、警察内部にはすでにワンダーによるネットワークができていて、すべてのことがデッチ上げで進行し、ワンダーの思いのままとなっていたのだった。

真相を書いてしまったが(隠しておくようなものでもないってこともある)、何も知らないラドローは、疑念や後悔の残る犯人捜しをしないではいられない。というわけで、映画はワシントン殺しの謎解きを軸に進んでいくが、この過程は時間はかかるものの、謎解きというほどのものではないから、場面場面は派手に作ってあっても、盛り上がらない。入り組んでいるだけで行き着く先の見えている、つまり遠回りしているだけの迷路だろうか。ラドローの飲んだくれ頭でも解けてしまうのだ。だからかもしれない、ラドローの捜査に付き合ってくれたディスカントは、話の飾り付けで、あえなく殉職となる。

悪玉のワンダーに魅力がないのも痛い。最後にラドローに問い詰められて、話をそらすように金を埋め込んだ壁を壊せと言うのだが、秘密を明かして状況が変わるとは思えない。もっともこれ以前に、あのワシントン襲撃の一部始終が映っているディスクをラドローに手渡してしまったことの方が問題かも。後で必死になって取り戻そうとしてたからね。ラドローを信用させるために渡したのなら危険すぎるし、ラドローが疑問を抱いて入手しようとした二人組の逮捕歴のデータなどはシュレッダーにかけさせてしまうなど、一貫性もない。

逮捕するよりは殺し(邦題の「ある男のルール」だよね)のラドローによって、結局ワンダーは殺されてしまうのだが、そこへビッグスが駆けつけてくる。しかし、ラドローの罪を問いもせず、ワンダーの共犯者が金目当てで殺した、とビッグスまでがデッチ上げで締めくくろうとする。君だけが頼りだったと言うのだ(注3)。なんだかなー。さらにはワンダーに弱みをにぎられていた署長にも感謝されるかもしれない、というようなことも言っていた(これは皮肉だろう。でなきゃ、こわい)。

正義が貫かれるのなら真実などどうでもいい、とでもいいたいのだろうか。まあその前に本当に正義なのか、って問題もあるが。だって「それぞれの正義」にすぎないんだもの。ふうむ。こんな微妙な結末で締めくくるとはね。この部分は掘り下げがいがあるはずなんだけどな。

注1:不倫をしていた妻が脳血栓を起こしたのに放っておいて死んでしまった、というようなことをラドローは、ワシントンの妻に話したと思うのだが、この話が出てくるのはここだけなので、ちょっと不確か。

注2:まったくいい加減にしか観ていないことがわかってしまうが、何故目前で殺されるというような状況になってしまったのか。また、ラドローが襲われなかったのは偶然なのかどうか、思い返してみるのだが、これまたよくわからない。

注3:確かにラドローも途中で、「法を越えた仕事は誰がやる、俺が必要だろ?」とビッグスに言ってはいたが。

原題:Street King

2008年 109分 シネスコサイズ 配給:20世紀フォックス映画 PG-12 日本語字幕:戸田奈津子

監督:デヴィッド・エアー 製作:ルーカス・フォスター、アレクサンドラ・ミルチャン、アーウィン・ストフ 製作総指揮:アーノン・ミルチャン、ミシェル・ワイズラー 原案:ジェームズ・エルロイ 脚本:ジェームズ・エルロイ、カート・ウィマー、ジェイミー・モス 撮影:ガブリエル・ベリスタイン プロダクションデザイン:アレック・ハモンド 編集:ジェフリー・フォード 音楽:グレーム・レヴェル

出演:キアヌ・リーヴス(トム・ラドロー)、フォレスト・ウィッテカー(ジャック・ワンダー)、ヒュー・ローリー(ジェームズ・ビッグス)、クリス・エヴァンス(ポール・ディスカント)、コモン(コーツ)、ザ・ゲーム(グリル)、マルタ・イガレータ(グレイス・ガルシア)、ナオミ・ハリス(リンダ・ワシントン)、ジェイ・モーア(マイク・クレイディ)、ジョン・コーベット(ダンテ・デミル)、アマウリー・ノラスコ(コズモ・サントス)、テリー・クルーズ(テレンス・ワシントン)、セドリック・ジ・エンターテイナー(スクリブル)、ノエル・グーリーエミー、マイケル・モンクス、クリー・スローン

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