チェ 39歳 別れの手紙

新宿ミラノ2 ★★★☆

■革命から遠く離れて

画面サイズがシネスコからビスタに替わったからというのではないはずだが(しかし、何で替えたんだろ)、続編にしては先の『チェ 28歳の革命』とは印象がずいぶん異なる映画だった。

「今世界の他の国々が私のささやかな助力を求めている。君はキューバの責任者だから出来ないが、私にはできる。別れの時が来たのだ。もし私が異国の空の下で死を迎えても、最後の想いはキューバ人民に向かうだろう、とりわけ君に。勝利に向かって常に前進せよ。祖国か死か。革命的情熱をもって君を抱擁する」というゲバラの手紙を、冒頭でカストロが紹介する。

それを流すテレビを左側から映した画面からは、Part Oneとそう違ったものには見えず、いやむしろそれに続くゲバラのボリビア潜入の変装があんまりで、安物スパイ映画を連想してしまった私など、逆に弛緩してしまったくらいだった。むろんゲバラにはそんな気持はさらさらなく、彼は相変わらずPart Oneの時と変わらぬ信念と革命的情熱を持って、ボリビアに潜入する。理想主義者のゲバラにとって、キューバでの成功に甘んじていることなど許されないのだろうが、実際に行動するのはたやすいことではないはずだ。成功者としての地位も安定した生活も捨て、家族とも別れて、なのだから。

それほどの決意で臨んだボリビアの地だが、どうしたことか、キューバではうまくいったことがここでは実を結んでくれない。親身になって少年の目を治療し、誠実に農民たちと向き合う姿勢は、あの輝かしいキューバ革命を成し遂げた過程と何ら変わっていないというのに。

最初は豊富にあったらしい資金もすぐに枯渇し、食料も満足に確保できず、体調を崩して自分までがお荷物になってしまう状況にもなる。組織が育っていかないから、ゲリラとして戦うというよりは、ただ逃げているだけのように見えてしまう。

実際、鉱夫がストに入ったというくらいしか、いいニュースは入ってこない。政府軍の方は捜索も念が入っていて、シャツからキューバ製のタグを見つけ出すし、アメリカの軍人らしき人物が「ボリビア兵を特殊部隊に変えてやろう」などと言う場面もある。キューバ革命に対する危機感が相当あったのだろう。「バティスタの最大の過ちはカストロを殺せる時に殺さなかったこと」というセリフもあった。ゲバラの捕獲に先立っては、ゲバラの別働隊を浅瀬で待ち伏せ、至近距離で狙い撃ち全滅させてしまう。この情報は、ラジオでゲバラも得るのだが「全滅などありえない」と信じようとしない。

居場所を知られるのを恐れ、ゲバラは己の存在を隠そうとし、バリエントス側はゲバラの影響力を恐れて、やはりその存在を隠そうとする。思惑は違うのに同じことを願っていて妙な気分になる。とはいえ観客という気楽な身分であっても、すでにそんなことを面白がってなどいられなくなっている。

結末はわかっていることなのに、ゲバラが追い詰められていく後半は胸が苦しくなった。農夫の密告というのがつらい。山一面の兵士に包囲されて、逃げなきゃ!と叫び声を上げそうになる。Part Oneでゲバラの姿がしっかり焼き付けられていたからだろう。Part Oneの最後にあった、陽気で明るい雰囲気まで思い返されるものだから、よけい切なさがつのってくる。雰囲気が違うというより、2部作が呼応しているからこそのやるせなさだろうか。

それにしても何故、キューバでできたことがボリビアではできなかったのか。そのことに映画はきちんと答えているわけではない。親ソ的なボリビア共産党と組めなかったことも大きな要因らしいが、ボリビアでは1952年にすでに革命があり1959年には農地解放も行われていた。革命は1964年に軍によるクーデターで終焉してしまうのだが、共産党とは対立が進みながらも、大統領になったレネ・バリエントスは民衆や農民にも一定の支持を得ていたようだ。が、そんな説明は一切ない。

足を撃たれたゲバラは捕虜になるが、射殺されてしまう。カメラはその時、ゲバラの目線に切り替わる。ゲバラに入り込まずにはいられなかったのかどうかはわかりようがないが、そう思いたくなった。ボリビア潜入後1年にも満たないうちに死体となったゲバラ。カメラはヘリが死体を運び出すまでを追う。村人が顔をそむけたのはヘリの巻き上げた砂埃であって、それ以外の理由などなかったろう。

無音のエンドロールには重苦しさが増幅される。といってこれ以外の終わり方も思い浮かばないのだが。

  


原題:Che Part Two Guerrila

2008年 133分 フランス/スペイン/アメリカ ビスタサイズ 配給:ギャガ・コミュニケーションズ、日活 日本語字幕:石田泰子 スペイン語監修:矢島千恵子

監督:スティーヴン・ソダーバーグ 製作:ローラ・ビックフォード、ベニチオ・デル・トロ  製作総指揮:フレデリック・W・ブロスト、アルバロ・アウグスティン、アルバロ・ロンゴリア、ベレン・アティエンサ、グレゴリー・ジェイコブズ 脚本:ピーター・バックマン 撮影:ピーター・アンドリュース プロダクションデザイン:アンチョン・ゴメス 衣装デザイン:サビーヌ・デグレ 編集:パブロ・スマラーガ 音楽:アルベルト・イグレシアス

出演:ベニチオ・デル・トロ(エルネスト・チェ・ゲバラ)、カルロス・バルデム(モイセス・ゲバラ)、デミアン・ビチル(フィデル・カストロ)、ヨアキム・デ・アルメイダ(バリエントス大統領)、エルビラ・ミンゲス(セリア・サンチェス)、フランカ・ポテンテ(タニア)、カタリーナ・サンディノ・モレノ(アレイダ・マルチ)、ロドリゴ・サントロ(ラウル・カストロ)、ルー・ダイアモンド・フィリップス(マリオ・モンヘ)、マット・デイモン、カリル・メンデス、ホルヘ・ペルゴリア、ルーベン・オチャンディアーノ、エドゥアルド・フェルナンデス、アントニオ・デ・ラ・トレ

2008年度カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞

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