マルタのやさしい刺繍

シネセゾン渋谷 ★★☆

■年寄りにも生き甲斐を!(ほのぼの系ながら痛烈)

ネットで刺繍の下着を売り出して大評判に、というのは最近ありがちな話なのだけど、主役に80歳の老女を持ってきたのは新味(だから話は主にネット通販以前のことになる)。なにより老女たちの笑顔が素敵で、元気が出る。スイス(映画なのだ。他にどんなスイス映画があったのかなかったのか、何も出てこないぞ)で大ヒットとしたというのも頷ける。

マルタにランジェリーショップを開くことをすすめた、アメリカかぶれだけど底抜けに明るかったリージの死(自殺でなくてホッとした)という悲しい出来事や、無理解の妨害やら挫折もあるが、思い通りに生きなきゃ人生の意味がないという当たり前のことを、マルタ(たち)は次第に自覚(思い出したのだともいえる)していく。

ここらへんは予想通りの展開なのだが、夫の死で生きる意味を失いかけていたマルタが、夫の禁止した刺繍で生き生きしてしまうというのが、皮肉というよりは痛烈だ。映画はそのことにそんなにこだわってはいないのだが……。

牧師である息子ヴァルターとの対立も深刻で、ヴァルターはリージの娘と浮気進行中なのだが、浮気云々より、ヴァルターが自分の都合を優先してマルタの開業したばかりのランジェリーショップを勝手に片づけてしまうことの方が、私には気になった。もっとも、その店をしれっとまた元に戻してしてしまうマルタたち、という図は喝采ものなのだが。

ハンニの息子も、党活動には熱心だが病院の送り迎えに嫌気がさして父親を施設に入れようとするし、出てくる男どもはどうかと思うようなやつばかり。そもそもスイスの田舎(お伽噺に出てくるような美しい所なのだ)がこんなに保守的だとはね(脚色ならいいのだけど)。ま、保守的なのは男どもで、彼らには妙な救いの手がさし出されることもなく、容赦がないとしか言いようがないのだが、でもだからか、かえってよけいな後を引かずにすんだのかもしれない。

マルタ役のシュテファニー・グラーザーが、役の設定では80なのに実年齢88とあって(ロビーに展示してあった雑誌の切り抜きによる。映画撮影時はもう少し若いのかも)、歩き方が若すぎないかと懸念していたものだから、びっくりしてしまった。

原題:Die Herbstzeitlosen 英題:Late Bloomers

2006年 89分 ビスタサイズ スイス 配給、宣伝:アルシネテラン 日本語字幕:(株)フェルヴァント

監督:ベティナ・オベルリ 原案:ベティナ・オベルリ 脚本:ザビーヌ・ポッホハンマー 撮影:ステファン・クティ 美術:モニカ・ロットマイヤー 衣装:グレタ・ロデラー 音楽:リュク・ツィマーマン

出演:シュテファニー・グラーザー(マルタ・ヨースト)、ハイジ・マリア・グレスナー
(リージ・ビーグラー)、アンネマリー・デューリンガー(フリーダ・エッゲンシュワイラー)、モニカ・グブザー(ハンニ・ビエリ)、ハンスペーター・ミュラー=ドロサート(ヴァルター・ヨースト)

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