英国王給仕人に乾杯!

シャンテシネ1 ★★★☆

■人生はどんでん返し=元給仕人の語る昔話

かつてドイツ人の村があったというズデーデン地方の廃墟に、15年の刑期を終えたヤン・ジーチェがやってくる。この男の語る昔話が滅法面白く、加えて演出も、無声映画風であったり、画面を札束や切手で飾ったり、裸の美女を適度?に配したりの、あの手この手を使ったサービス精神旺盛なもので、ウイットに富んだ作品となった。

駅のソーセージ売りだったヤンは、ホテル王を夢見て給仕人になり、プラハの高級ホテルの給仕長に上り詰めていく。ヤンは言うなれば世渡り上手。スクシーヴァネク給仕長のように、客の欲しがるものを見抜く才能こそないが、要領はいいし、運も味方してくれる。とはいえヤンが言うように「人生はどんでん返し」の連続なのだが。

もっとも、裸女を札束や料理で飾り付ける変な性癖はあるし、小銭をばらまいてはそれを拾おうとする金持ちたちを見て人間観察の目を養う(たんに優越感に浸りたかっただけとか)っていうのだから、ヤンに感情移入とまではいかない。

欲望にとらわれた人間の生態を面白可笑しく語る流れのまま、話はいつのまにかヒトラーの魔の手が伸びたチェコという複雑な歴史の側面に及ぶ。が、深刻な話であっても語り口はあくまで軽妙で、息苦しさとは無縁だ。

ドイツ人娘リーザとの困難な結婚から、優生学研究所に勤めたことで仕入れた話など、どこまでが本当なのだろうと思うくらい興趣にあふれたもので、あきさせることがない。この優生学研究所は、富豪用のお忍び別荘だったチホタ荘が接収されて出来たのだが、戦争末期は傷病兵の療養所に変身している。裸女たちがプールで優雅に侍っていたのに、それが手足のない傷病兵に置き換わってしまう描写がやたらリアルなものに見える。

リーザが集めていた切手で手に入れた戦争後のホテル王の地位は、チェコスロバキアの共産化で、束の間の夢どころか牢獄行きとなってしまい(顔なじみの金持ちたちと一緒になれて、それもヤンには楽しかったようだが)、その刑期あけが、廃村で暮らすヤンというわけだ。

ただ、その割には昔を語る現在のヤンの立ち位置が曖昧というか、まあそこらへんは本人も自覚していないから、鏡を部屋にいくつも並べた自問自答場面となるのだろうか。

その現在の部分に割り込んできた、大学教授と一緒にやってきたという若い女の存在も、何かが起きそうな予感をいだかせただけで去って行ってしまうのは、昔のことならいくらでも面白可笑しく語れるが、さすがに進行形のものとなるとそうもいかないということか。あるいはこれも、全篇に共通するこだわりのなさのようなものか。

英国王給仕人だったのはスクシーヴァネク給仕長で、本人はそうではないから題名の『英国王給仕人に乾杯!』は違和感があるが、昔話なんて所詮脚色されたもの(英国王給仕人だったとは言っていないが)、という意味にとれば合点がいく。

 

原題:Obsluhoval Jsem Angkickeho Krale 英題:I served the King of England.

2006年 120分 ビスタサイズ チェコ/スロバキア 配給:フランス映画社 日本語字幕:松岡葉子 字幕協力:阿部賢一

監督・脚本:イジー・メンツェル 製作:ルドルフ・ビエルマン 原作:ボフミル・フラバル 撮影:ヤロミール・ショフル 音楽:アレシュ・ブジェジナ

出演:イヴァン・バルネフ(青年期のヤン・ジーチェ)、オルドジフ・カイゼル(老年期のヤン・ジーチェ)、ユリア・イェンチ(リーザ)、マルチン・フバ(スクシーヴァネク給仕長)、マリアン・ラブダ(ユダヤ人行商人ヴァルデン)、ヨゼフ・アブルハム(ブランデイス)、ルドルフ・フルシンスキー(チホタ荘所有者チホタ)、イシュトヴァン・サボー、トニア・グレーブス(エチオピア皇帝)

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