日本沈没

2006/7/30 TOHOシネマズ錦糸町-3 ★★☆

■日本半分沈没

なにしろ日本沈没である。日本が沈没するとなると1億2千万の全日本人(外人もいるけど、おおまかね)に、否が応でも劇的なドラマが訪れるわけである。つまりこの映画の登場人物は、選ばれし人物ということになる。

であるのに映画はいきなり、ハイパーレスキュー隊員である阿部玲子(柴咲コウ)によるアクロバチックな、少女(倉木美咲=福田麻由子)救出劇を用意する。女性隊員という設定もだが、あとの場面で彼女は長髪をなびかせたりするのだ。

のっけから細かいことに難癖を付けて申し訳ないが、なにしろ日本が沈没してしまうのだから、やはりここは相当マジで行きたいと思うのだ。

彼女と潜水艇のパイロットである小野寺俊夫(草彅剛)の恋愛話を、日本政府の対応に対極させる形にしたのは決して間違いではないし、「自分だけが幸せにはなれない」という彼女に突き動かされるように、最後は彼にも「俺にも守りたい人がいます」「奇跡を起こせます。起こしてみせます」とまで言わせるというのは悪くはない。

が、骨組みはよくても肉付け部分に難がある。神出鬼没の小野寺というご都合主義にはまだ目をつぶれるが、最初に書いた玲子の造型などが話を台無しにしている。ふたりのラブシーンでの妙な引き延ばしは『LIMIT OF LOVE 海猿』に比べれば、ずっと抑えてはあるのだが……。

次は、これはどうしてもはずせない田所博士(豊川悦司)だが、日本沈没の兆候発見者であるにもかかわらず、アメリカのすっぱ抜き?があってか、最初から迷走気味。これでは型破りな科学者というよりは、冷静さを欠いた行動ばかりが目立つただのマッドサイエンティストではないか。

政府の対応は、これまたあまりに心もとない。いい加減な連中を適当に配したのはわかるが、しかし山本首相(石坂浩二)は、髪型からしても小泉首相を意識しているのだろう。だからだね、中国訪問を前に、「どれだけ(日本人を)受け入れてもらえるか」と鷹森文部科学大臣(大地真央)に悩みをうち明けるのは。交渉難航は必然だものなー。

山本首相は続けて、未曾有の国難を前に「何もせず、愛する者と一緒に滅んだ方がいい」という特殊な意見が違う分野から出ていることについて、「こういう考え方が日本人なのかも」しれず、自分の考えもこれに近いと語る。しかし、この考え方のどこが日本人的なのだろう。本気でこのセリフを喋らせているなら問題ではないか。日本人は果たして特殊な民族だろうか。そう思い込みたいだけじゃないのか。

山本首相の死後(訪問に出かけた首相専用機が阿蘇山の噴火に巻き込まれるというお粗末な設定)、危機管理担当大臣にも任命されていた鷹森大臣が、元夫でもある田所博士の助言(これも訊くのが遅いんだよね)により、世界中の掘削船を導入して、プレート内部に爆薬を仕掛けるという最後の賭けに出るのだが、他の奴らは何をしているんだ! まあ、映画だから仕方ないのだけどね。

このあとの話の盛り上げ方も低レベル。各国の掘削船で何カ所にも爆薬を仕掛けながら、最終的には強力な爆薬を深海潜水艇から直接操らなければならないなんて。しかも最新の潜水艇は結城(及川光博)もろとも失われ、小野寺は博物館に展示されているすでにお払い箱となった旧式の潜水艇に乗り込むことになるのだ。掘削船だけじゃなく、潜水艇も借りろよ。

爆薬(N2爆弾の起爆装置?)すら予備がなくて、結城が落としてしまったものを拾うって! 日本が沈没しつつあるっていうのに、プレートのそばに落としたものが見つけられるわけがないでしょ! 小野寺の「特攻」を演出したかったのかもしれないが、あまりにひどい。そもそもアイディアは『アルマゲドン』だしね。

というわけで、日本はなんとか沈没をまぬがれるのでした。ずたずたに分断された島だらけの国となって残るのね。ありゃりゃ、ということは日本人がユダヤ人のような放浪の民族になったらどうなるか、という原作の壮大な意図はどこへ行ってしまったのだろう。

特撮はなかなかだし、なにしろ日本(半分)沈没なわけだから、どんな話をもってきても考えさせられることが多いわけで、それだけでも意味があると思うのだが、逆に自分に引きつけた物語を見つけようとすると、どうしても点は辛くなってしまうだろう。

こうなったら、毎年『日本沈没』の別バージョンを創り続けるか、もしくはマクロ的な、それこそ特撮に特化し個人の感情など徹底的に排除した、つまり蟻のような人間しか出てこない『日本沈没』というのは、いかがでしょう。観たいな、これ。いや、ホント。

 

【メモ】

旧作の『日本沈没』は東宝の製作と配給で、1973年12月29日に正月映画として公開された。小松左京の原作も1973年、光文社のカッパノベルスから上下2巻の同時刊行。

玲子が倉木美咲を救出する方法もどうかと思うが、美咲を引き取るのもおかしい。玲子は骨折で仕事を休むが?

「沈没することが明らかになった以上、唯一の救いは数10年後に起きることが今予測できたことだ」と、最初のうちはまだ余裕もあったのだが……。

「こうなってしまった以上何が大切ですか」「私は心だと思う」

デラミネーション。

鷹森大臣と田所博士は20年前に離婚。

仏像の運び出し場面。賄賂代わりに、国宝を手みやげ。

「命よりも大事な場合もあるの。人を好きだって気持ちは」小野寺俊夫に彼の母が言う。

「日本はアメリカに見捨てられた」というセリフは、アメリカを信用していない者にとっても唐突だ。これだけの大異変となると近隣諸国に及ぼす影響も大きいわけで、すべてのことが日本政府の決断と平行して国連がらみで進行していくのではないだろうか。

避難民が山の方へ向かうのはわかるが、富士山に向かって行く?

最新の潜水艇は「わだつみ6500」。展示品になっていたのは「わだつみ2000」。

最後の爆発時に、海上にはまだ船(掘削船だよね)が多数いたようだが?

2006年 135分 配給:東宝 

監督:樋口真嗣 脚本:加藤正人 原作:小松左京 撮影監督:河津太郎 編集:奥田浩史 音楽:岩代太郎 特技統括/監督補:尾上克郎 特技監督:神谷誠 撮影協力:防衛庁、東京消防庁、JAMSTEC(独立行政法人 海洋開発研究機構)

出演:草彅剛 (小野寺俊夫 潜水艇パイロット)、柴咲コウ(阿部玲子 ハイパーレスキュー隊員)、及川光博(結城慎司 潜水艇パイロット)、石坂浩二(山本尚之 内閣総理大臣)、豊川悦司(田所雄介 地球生命学博士)、大地真央(鷹森沙織 文部科学兼危機管理担当大臣)、福田麻由子(倉木美咲)、吉田日出子(田野倉珠江 玲子の叔母)、國村隼(野崎亨介 内閣官房長官)、長山藍子(小野寺俊夫の母)、和久井映見(小野寺俊夫の姉)、六平直政、ピエール瀧、柄本明、福井晴敏、庵野秀明

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。