恋しくて

テアトル新宿 ★★

■どこが「恋しくて」なんだろう

幼なじみだった比嘉栄順(東里翔斗)と宮良加那子(山入端佳美)は高校に入って再会、加那子の兄清良(石田法嗣)の発言で、島袋マコト(宣保秀明)も一緒になってみんなでバンドを組むことになる。思いつきのように始まったバンドだが、同級生の浩も加わって自分たちの企画したバンド大会で優勝し、プロデビューの話が持ち上がる。

よくある話ながら、東京に行ってからのことはほとんど付け足しで、あくまでも主役は沖縄(石垣島)と言いたげな構成だ。「これが沖縄」という風景の中で、高校生たちがバンドに熱中していく様子がなんとも楽しい。沖縄だったら山羊も牛も喋りそうな気にもなるし(喋る演出が入るのだ)、恋も底抜けに明るくて、だから困ったことに恋という感じがしないのである。普通に生活しているうちに、自然に相手といることが多くなって、みたいな流れなのだ。

そのことは当人たちも感じたらしく、栄順は加那子に2人が付き合っているかどうかを確認する場面があるのだが、これがとてもいい。高校生にもなって清良と屁こき合戦までやってのけてしまう加那子のキャラが伸びやかで、でも堂々としているとまではいかなくて、仰天場面を見ても栄順にとっては恋の対象であり続けたのだと思わせるものを持っているのである。

ただバンドが東京に出ていくことになってやってくる2人の別れになると、それが加那子からの一方的な手紙ということもあって、まったくの説明口調になってしまっている。普通の恋物語にある出会いのときめき度が薄かったからという理由がここにもあてはまるのかもしれないが、でもそれだと何のためにずーっと2人(とバンド活動)を描いてきたのかがわからなくなってしまう。別れても「恋しくて」しかたがないのは、はっきりそう言っているのだからそうなのだろうが、やはり言葉ではなく映画的なものでみせてほしいのだ。

結局、BEGINのデビュー曲の「恋しくて」をタイトルに使ってしまったのがよくなかったのではないか。どうしてもそういう目でみてしまうもの。最後に主人公たちのライブ場面は、BEGINの新曲「ミーファイユー」の演奏場面にとってかわる。ようするに、そういう映画なのだろう。しかし私としては、イベントに登場してきた80年代のヒット曲や山本リンダにピンキラを歌う個性溢れる高校生バンドの熱演(しかしなんで古い曲ばかりなんだ)の方が楽しかったのだ。

加那子の家族についての挿話がどれもバラバラなのも気になった。清良が父探しの旅で、父の残した楽譜を見つけて帰るのだが、加那子が4歳の時に父が家出して(清良によって旅先の山で崖から落ちたことがわかる)以来、歌が歌えなくなっていたということにはあまり繋がってこない。

また、母のやってきたバーの仕事(経営者で歌手でもある)や、祖母の美容院の実体のなさは何なのだろう。清良がピアニスト代わりったって、それは最近だろうし、その清良がいなくなったからってバーを閉じるというのもとってつけた話のようで、このバーは与世山澄子に歌を歌わせたかっただけの装置にしかなっていないのだ。石垣島の大らかさといってしまえばそれまでなのだろうが、客を無視した美容院というのもねー。母と祖母の接点がないことも印象をバラバラなものにしてしまったのではないか。

 

2007年 99分 ビスタサイズ

監督・脚本:中江裕司 製作:松本洋一、松崎澄夫、渡辺純一、廣瀬敏雄、松下晴彦 プロデューサー:姫田伸也、新井真理子、町田純 エグゼクティブプロデューサー:大村正一郎、相馬信之 原案:BEGIN 撮影:具志堅剛 美術:金田克美 衣装デザイン:小川久美子 編集:宮島竜治 音楽監督:磯田健一郎 主題歌:BEGIN『ミーファイユー』 ラインプロデューサー:増田悟司 照明:松村志郎 整音:白取貢 録音:白取貢 助監督:瀬戸慎吾
 
出演:東里翔斗(比嘉栄順)、山入端佳美(宮良加那子)、石田法嗣(宮良清良)、宜保秀明(島袋マコト)、大嶺健一(上地浩)、与世山澄子(宮良澄子)、吉田妙子、國吉源次、武下和平、平良とみ(おばぁ)、三宅裕司、BEGIN

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