フライ・ダディ

銀座シネパトス1 ★☆

■父よ、あなたは弱かった

娘のダミ(キム・ソウン)をカラオケボックスで同じ高校生のカン・テウク(イ・ジュ)に暴行されたチャン・ガピル(イ・ムンシク)は、「深く反省している」相手のあまりに不遜な態度に復讐を誓い、包丁を手にチョンソル高校に乗り込むが、居合わせたコ・スンソク(イ・ジュンギ)に簡単に気絶させられてしまう。が、このことでスンソクと彼の同級生チェ・スビン(キム・ジフン)とオ・セジュン(ナム・ヒョンジュン)は、ガピルに力を貸すことになる。

テウクは3年連続優勝を目指す高校ボクシングのチャンピオンで、取り巻きもいれば、高校の教頭も彼の味方。息子が不祥事を起こしても姿を見せない「国の仕事」で忙しい両親(事件すら知らないのかも)と憎まれ役に相応しい陣容だ。

対する39歳のガピルは平凡なサラリーマン。二流大学出ながら仕事ではまあまあ活躍しているようで営業部長にもなれそうだ。マンションのローンはあと7年。堅実なのね。でも禁煙がなかなか成功しないのは意志薄弱なのか。命をかけて妻と娘を守るつもりでいたが、気が付けば体はぶよぶよで、テウクとまともに戦えるとはとても思えない。

師匠に対する礼儀を守り一切質問はしないという条件の上で、スンソクの与えた指示は特訓の繰り返し。体はなまっているし非力すぎのガピルだから、まずは正攻法でいくしかないのだろう。それはわかるが、だったら余計、方法や見せ方に工夫がほしいところだ。が、特別なアイディアなどはない。荒唐無稽路線を取りたくなかったのかもしれないが、映画としては少しさびしい。

食事療法を取り入れて体重と体脂肪を減らすところは、イ・ムンシクが身をもって体を引き締めたのがわかるので(実際には体重を15キロ増やし、映画の撮影に会わせてまた減らしていったという)、本当に応援したくなる。が、あとは反射神経を養うくらいだし、ボクシング(何も相手の得意とするもので戦わなくてもね)での対策はラグビーみたいにタックルしろ、では何とも心許ない。

しかもこの対決を、日にちの制限があるわけではないのに、なぜか25日後(いくらなんでもね無理でしょ)に設定してしまうし、「明日の作戦を訊いて俺はあきれかえった」とガピルは言うのだが、体育館を占拠して生徒たちだけの前で行うだけの、ま、ホントにあきれかえっちゃうもので、実際の戦いになってもガピルは一方的に殴られるばかりでいいところがない。あれ、なのにガピルが勝ってたけど。なんでや。見せ場が結果として誤魔化しのようになってしまっては、盛り上がるはずもない。

これだったら前日のバスとの競争の方がまだ見せてくれたものね。そのバスの運転手(ペク・ソンギ)がいつの間にかローラーブレードができるようになっているのは、ちょっとした映像だからいいのであって、ガピルの特訓には乗り気でなかったスンソクが、娘のために戦うという姿勢に、小学生のとき離婚して出ていってままの父親を重ね合わせていたのだとか、ガピルにも「お前みたいな息子がいたら」などと言わせて妙な味付けをしてしまうと、急につまらないものになってしまう。

韓国でならば『フライ,ダディ,フライ』(未見)のリメイクは、それなりの興行価値があるのかもしれないが、元の作品が2005年に公開されたばかりの日本にもってくる意味があったとはとても思えない。現に、まあ、銀座シネパトスということもあるのかもしれないが、イ・ジュンギだけではとても売れそうもないくらいガラガラの初日だったのだけどね。かわいそ。

 

原題:嵓誤攵・エ ・€・煤@英題:Fly,Daddy,Fly

2006年 117分 ビスタサイズ 韓国 日本語字幕:根本理恵

監督・脚本:チェ・ジョンテ 原作:金城一紀『フライ、ダディ、フライ』 脚本:チェ・ジョンテ 撮影:チェ・ジュヨン 音楽:ソン・ギワン
 
出演:イ・ムンシク(チャン・ガピル)、イ・ジュンギ(コ・スンソク)、イ・ジュ(カン・ウテク)、キム・ジフン(チェ・スビン)、ナム・ヒョンジュン(オ・セジュン)、イ・ヨンス(ガピルの妻)、キム・ソウン (チャン・ダミ/娘)、イ・ジェヨン(イ・ドックン/教頭)、ペク・ソンギ(バスの運転手)

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