ドレスデン、運命の日

シャンテシネ3 ★★☆

ポスターに書かれた監督のサイン(シャンテシネ3)

■空爆と平行して描かれるドラマが稚拙

1945年2月の連合国によるドレスデン大空襲(映画に描かれる13日の2波の空爆は英空軍のもの)を背景に、ドイツの若い看護師のアンナ(フェリシタス・ヴォール)と、英空軍パイロット、ロバート(ジョン・ライト)との恋を描く。

が、この恋は少し強引か。父カール(ハイナー・ラウターバッハ)の病院で働くアンナには、外科部長のアレクサンダー(ベンヤミン・サドラー)という婚約者がいて、アンナがアレクサンダーを好きでたまらない、というシーンがいくつかあるし、アンナはアレクサンダーにプロポーズの儀式?までさせているのだ。

これはロバートとの間に芽生える恋を強調する意味があったのかもしれないが、あとの説明がうまくないから逆効果になっている。アンナと同様に逃亡兵をかくまった女性がゲシュタポによって銃殺される事件で、アレクサンダーへの見方が変わったり、上昇志向にならざるを得なかった彼の叫びもなくはないのだが。

出撃したロバートは墜落されてパラシュートで脱出するが、気付いた住民の銃弾で腹部に傷を負ってしまう。山中から出て病院に潜むが、アンナに発見され、彼女の手当を受けることになる。

ロバートの母はドイツ人で、アクセントはともかく言葉に不自由はないという設定。でないと話にならないわけだからそれはいいのだが、できれば流れの中で納得させてほしいものだ。また、空爆の後のアンナとロバートの再会をはじめとして、偶然の介在する部分が多すぎるのも話をちゃちなものにしている。

一方、ドレスデン大空襲の模様は、連合国(イギリスか)の作戦室の場面からソ連との駆け引きなどを織り込んで、かなりリアルなものになっている。単純に飛び立っていく爆撃機などの映像に、当時のニュースを被せるだけでなく、撮影班が映したものだと思わせるようにそれらしく編集した映像まで入れた凝りようなのだ。

市街地の映像も丹念だ。まだ被害を受けていない時期の市電が走っているような場面をさり気なく積み重ねておいて、クライマックスへともっていく。2波にわたる爆撃、そして瓦礫と化した街を、時間をふんだんに使って再現している。

そこで右往左往するしかない主人公や市井の人々が痛ましい。防空壕に入れてもらえないユダヤ人や、爆撃に絶えた防空壕の中で死を覚悟して祈り続ける人々。そして、一酸化炭素中毒で死んでいく人々などを克明に描いていて迫力のあるものにしている。

映画の最後は、空襲で廃墟のままになっていた聖母教会が2005年に再建されたセレモニーシーンである。フェリシタス・ヴォールがここに出てくることで、映画がこれに連動して企画されたのだとわかる(多分ね)。ドイツ人にとって聖母教会の再建は相当感慨深いものがあるのだろう。

無差別爆撃という連合国側の戦争犯罪(よくわからんが)も指摘される題材を選んだからではないだろうが、医療物資が不足する中、家族をスイスに逃がすためとはいえ父がモルヒネを隠し(この一部始終を潜んでいたロバートが見てしまいアンナにバレることになる)、ナチスの幹部と裏取引をしていることや、ナチスの高官の秘書をしているアンナの妹のふるまい、アンナの友人の夫をユダヤ人にして、ユダヤ人自身に仲間に収容所へ行く通知を配らせていることなどもあまさず描いて、ドイツとしての反省も忘れていない。

そういうのはあまりに自明のことで、描かないわけにはいかないのかもしれないが、でもだからよけい、アンナには英空軍パイロットを救わせて恋(くらいならまだしも子供まで)をさせるのではなく、普通のドイツ人女性として戦争に生きた苦悩こそを描くべきだったと思うのだが。

原題:Dresden2006年 150分 ビスタサイズ ドイツ 日本語字幕:■

監督:ローランド・ズゾ・リヒター 製作:ニコ・ホフマン、サーシャ・シュヴィンゲル、ニコラス・クラエマー 脚本:シュテファン・コルディッツ 撮影:ホリー・フィンク 音楽:ハラルド・クローサー、トーマス・ワンカー

出演:フェリシタス・ヴォール(アンナ)、ジョン・ライト(ロバート)、ベンヤミン・サドラー(アレクサンダー)、ハイナー・ラウターバッハ(カール)、カタリーナ・マイネッケ、マリー・ボイマー、カイ・ヴィージンガー、ユルゲン・ハインリッヒ、ズザーヌ・ボアマン、ヴォルフガング・シュトゥンフ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。