リトル・ミス・サンシャイン

新宿武蔵野館3 ★★★☆

■たまたま家族というバスに乗り合わせた人たち(って家族なんだけど)

父のリチャード・フーヴァー(グレッグ・キニア)は大学か何かの講師なのだろうか。小さな教室で、人数もまばらながら、怪しげな成功理論(負け犬にならないためのプログラム)を説いていた。もっともそれを出版しようという奇特?な話も進んでいるようだ。

母のシェリル(トニ・コレット)は手抜き料理主婦ながら、一応は家族のまとめ役になっている。夫とは意見の合わないことが多いようだが、でも出版話にはその気になっている。病院からフランクを自分の家に連れてくる兄思い。

祖父(アラン・アーキン)はヘロイン常用者で、老人ホームを追放されてしまうような不良老人だ。15歳の童貞の孫ドウェーンに「1人じゃなく大勢と寝ろ」と大真面目に助言する。言いたい放題に生きているが、オリーヴとは仲良しだし、後には父を励ます場面もある。

叔父(母の兄)のフランク(スティーヴ・カレル)はゲイで、これは本人の弁だが、アメリカ有数のプルースト学者らしい。もっとも失恋、自殺未遂、入院、失職と不幸続き。あまりにまとまりのないフーヴァー一家を目の当たりにしたのは怪我の功名で、抗鬱剤よりそれが効いたのではないか。自殺どころではなくなったようだ。

兄のドウェーン(ポール・ダノ)は、日課のトレーニングを欠かさない。空軍士官学校に入学するまではと無言の誓いを立てていて、もう9ヶ月もだんまりを続けているが、真相は家族を嫌っていることにあるようだ。ニーチェに心酔している。

妹のオリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)は7歳。なによりミスコンで優勝するのが夢。ビデオでの研究に余念がない。アイスクリームには脂肪がたっぷりと言われて食べるのを悩むのは、ちょっと肉付きがいいことを本人も気にしているのだろう。

この6人がレンタルしたフォルクス・ワーゲンのミニバスで、アリゾナからカリフォルニアを目指すことになる。地方予選優勝者の失格があってオリーヴが繰り上げ優勝し、レドンド・ビーチで行われる美少女コンテスト(リトル・ミス・サンシャイン)の決勝出場資格を得たのだ。

何故全員で、といういきさつの説明が少しばかりうまくないが、まあ日常というのは何事もすべてが理路整然としているわけではないので、よしとしよう。つまり全員がオリーヴの応援という熱い思いがあるわけではなく、あくまで成り行きという流れである。

で、旅の過程で各人は、それぞれ人生の岐路に直面することになる。出版話が消えたリチャードは、それに期待していたシェリルとモーテルで大喧嘩。フランクは元恋人に普通の趣味のエロ雑誌(祖父のリクエストだった)を見とがめられるし、ライバルの本がベストセラーになるという屈辱を味わう。祖父はヤク中があっけない死をもたらし、ドウェーンは2.0の視力ながら色弱だということが判明し、パイロットになる夢を断念せざるをえない。

成り行きが少しずつ変わってはくるものの、ここにあるのは家族の絆というような確固たるものではなく、てんでバラバラの個がかろうじて家族という名のバスに乗り合わせている姿である。自分を主張して叫んではいるが、なんのことはない、個としても全員が落ちこぼれの烙印を押されてしまうというわけである。

最後に待ち受けるオリーヴが出場する美少女コンテストは、普通なら奇跡の優勝とでもしそうなところだが、はじまってすぐリチャードに他の出場者とレベルが違いすぎると言わせてるくらいで(ドウェーンは大会そのものが恥ずかしいとやはり反対するが、シェリルは本人が頑張っているのだからやらせたいと言う)、実際その通りの展開となる。何しろオリーヴの踊りは祖父の教えたストリップダンスときているから、コンテストの主催者からは顰蹙を買い中断を迫られる。が、やけくそになった家族が舞台にあがって、収拾のつかないものになる。

余談だが、この美少女コンテストでの他の挑戦者たちの気色の悪さには驚く。厚化粧で媚びを売る姿は大人の縮図なだけで、子供らしさなどまるでない。少ないながらオリーヴの下手くそなダンスに拍手が湧いたのもうなずける(けど、ストリップダンスだとこれも媚びを売っていることになるのだが、この場合はオリーヴにそんな気などないのだと、好意的に解釈しておこう)。

誰に共感できるというのでもなく、どころかその落ちこぼれ加減さにはため息をつくしかないのだが、そんな人間の寄せ集めであっても、そうたとえクラッチが故障したバスであっても(クラクションが断続的に鳴るのはうるさくてかなわないが)、工夫してみんなで押せば発進できるということを映画は教えてくれるのである。「さあ、帰るとするか」と帰っていく姿もそのままだから、みじめなんだけどね。

バスのアイディアは少々図式的ながら素晴らしいもので、そこにまぶされた挿話には無駄がない。ただ最後のコンテストがやや長いのと、オリーヴのダンスが下手くそすぎて、これでどうして繰り上げとはいえ決勝の出場権がえられたのかと思ってしまうのが難点だ。ビデオで研究しているにしては情報収集不足だし(ごめん、7歳でしたね)。

【メモ】

人間には2種類いて、勝ち馬と負け犬というのがリチャードの持論。こんなのを毎日きかされていたらドウェーンでなくてもたまらない。

ドウェーンの愛読書?は『ツァラトゥストラはかく語りき』で壁には大きなニーチェの絵が描かれていた。

祖父のリチャードへの励ましは「お前はよくやった。本当の負け犬は、負けることを恐れて何も挑戦しないヤツ」というもの。

荒れるドウェーンをなだめたのはオリーヴ。そばに行き、だまって抱きしめるだけなのだが。ドウェーンはそれまでの筆談をあっさり放棄。普通に喋るようになる。

オリーヴのダンスに好意的だったのは、ミスのお姉さん、ミキシングの人。あと、美少女コンテストは常連らしい無愛想な男の観客が大声でいいぞーと言っていた。

バスは早々にクラッチが故障。部品も休日で取り寄せることができず、下りの坂道か押せば走らせられるとアドバイスされて……。さらにドアは取れるし、クラクションは鳴りやまず、警官にも目をつけられてしまう。この時バスには移動許可の下りていない祖父の死体があったのだが、これは祖父のエロ雑誌で難をまぬがれる。

原題:Little Miss Sunshine

2006年 100分 サイズ■ アメリカ PG-12 日本語字幕:古田由紀子

監督:ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス 製作:アルバート・バーガー、デヴィッド・T・フレンドリー、ピーター・サラフ、マーク・タートルトーブ、ロン・イェルザ 脚本:マイケル・アーント 撮影:ティム・サーステッド 衣装デザイン:ナンシー・スタイナー 編集:パメラ・マーティン 音楽:マイケル・ダナ
 
出演:グレッグ・キニア(リチャード・フーヴァー)、トニ・コレット(シェリル・フーヴァー)、スティーヴ・カレル(フランク)、アラン・アーキン(祖父)、ポール・ダノ(ドウェーン・フーヴァー)、アビゲイル・ブレスリン(オリーヴ・フーヴァー)、ブライアン・クランストン、マーク・タートルトーブ、ベス・グラント、ゴードン・トムソン、メアリー・リン・ライスカブ、マット・ウィンストン、ジェフ・ミード、ジュリオ・オスカー・メチョソ