ダーウィンの悪夢

新宿武蔵野館3 ★★★

■「悪夢」として片付けられればいいのだが……

『ダーウィンの悪夢』というタイトルは、映画の舞台となったヴィクトリア湖が「ダーウィンの箱庭」と呼ばれていることからとられたようだ(これについては、ティス・ゴールドシュミット著、丸武志訳『ダーウィンの箱庭 ヴィクトリア湖』という恰好の本があるので詳しくはそれを参照されたい。読んだのは紹介文だけだが、なかなか興味深かそうな本である)。ここのナイルパーチは、日本のブラックバスと同じく、外来種の導入が既存の生態系を破壊した例として有名だが、そのナイルパーチを肴にタンザニアの現状を切り取って見せたドキュメンタリーである。

肉食のナイルパーチの放流(漁獲高をあげる目的で導入されたらしいが、正確なことはもはや不明という)で、在来種のシクリッド・フィッシュ(熱帯魚)は絶滅の危機に直面する一方、ナイルパーチによってその捕獲から加工、輸出までの一大産業が成立するに至る。

映画はムワンザ市のその周辺をくまなく描写していく。加工業者と工場、輸出に不向きな部分の行き先、EUに魚を空輸する旧ソ連地域のパイロットたち、その相手をする娼婦たち、蔓延するエイズ、ストリートチルドレンなど。目眩のするような内容なので、詳しく書く気分ではないのだが、そのうち印象的なものをいくつかあげておく。

一番の衝撃はナイルパーチのアラがトラックで運び込まれる集積場だ。アラを天日干しにしているのだが、蛆だらけだし、煙があちこちで充満している。残骸からはアンモニアガスも出るという。加工場の清潔さに比べるとなんともはなはだしい差である。

子供たちが食べ物を奪い合う場面がある。ただでさえ少ない量なのに、一部では取っ組み合いになって、それは地べたにまかれ、口にはほとんど入らない。

前任者が殺されたため職にありつけたという漁業研究所の夜警の男は、戦争を待ち望んでいる。夜警よりずっと稼げるからだと言う。

パイロットたちと酒場で興じる娼婦たち。その中のひとりは客に殺されてしまい、後では画面に姿を見せることがない。

飛行場のそばにいくつも散らばる飛行機の残骸。まるで飛行機の墓場のようだ。なるほどと思うほど頻繁に飛行機が飛び立っていく。事故は荷の積み過ぎが原因らしい(管制塔の描写もあって、それを見ているとそればかりとは思えないのだが)。

飛行機は空でやってきてナイルパーチを目一杯積み込んでいく。往路では武器が満載されていて途中のアンゴラなどで降ろされているのではないか。製作者はそれを証明したかったようで、ジャーナリストやパイロットの証言も出てくるが、限りなく怪しいというだけで決定打にまではなっていない。

映画ではこれらがまるでナイルパーチによってもたらされたかのような印象を与えるが(宣伝方法のせいもあるかも)、これだけで判断してしまうのはやはり一面的で手落ちだろう。タンザニアのことをあまりに知らなさすぎる私に言えることは何もない。ただたとえ一面的ではあっても、切り取られていた風景はどれも寒々しいものばかりで、当分脳裏から離れてくれそうにない。短絡的と言われてしまうかもしれないが、人類は滅亡するしかないという気持ちになってしまう映画だった。

【メモ】

2004年 ヴェネツィア国際映画祭 ヨーロッパ・シネマ・レーベル賞
2005年 山形国際映画祭 審査員特別賞 コミュニティシネマ賞
2006年 セザール賞 最優秀初監督作品賞、アカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞ノミネート

原題:Darwin’s Nightmare

2004年 112分 ビスタサイズ オーストリア、ベルギー、フランス

監督・脚本:フーベルト・ザウバー

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