ユメ十夜

シネマスクエアとうきゅう ★★★

■松尾スズキのひとり勝ち

漱石の『夢十夜』を10組11人の監督で映像化。映画にはプロローグとエピローグもあるが、これだけテンでバラバラなものを無理にくくる必要があったとは思えない(とやかくいうほどのことではないのだが)。

原作は400字詰で50枚程度のもので、映画も1話にして10分少々の計算になる。尺も短いし、なにしろ夢なのだからと割り切れるからか、料理方法は自在という感じで実に楽しめた。

ただ、しばらくするとその印象は驚くほどあせてしまう。1度に10話ということもあるし、いくら凝った画面を創り出しても所詮断片だからか。ま、そういう意味では記憶に残らない方が私には夢らしくみえる(そうでない人もいるかもしれないが)。

原作で面白かったものが映画でも面白かったのは、自在に料理しつつ、とはいえやはり原作に囚われてしまったからなんだろうか。

[第一夜] 妻のツグミは「100年可愛がってくれたんだから、もう100年、待っててくれますか?」と言って死んでしまう。何度も時間が逆行しているイメージが入る。なのに作家の百聞は、100年はもう来ていたんだな、と言う。実相寺昭雄(遺作となった)の歪んだり傾いた映像もこのくらいの時間だとうるさくなく、時間の歪みと相対しているようで効果的だ。外に見えるメンソレータムの広告のある観覧車が安っぽいのだけど、あんなものなのかも。松尾スズキが百閒……イメチェンだ。

[第二夜] モノクロ(短刀の鞘は赤になっている)、サイレント映画仕立て(音はある)。侍なら悟れるはずと和尚に挑発された男が受けて立つが、無とは何かがわからぬまま時間が来てしまう。切腹も出来ずにいると、それでいいのだと言われる。字幕説明ということもあり原作に近い感じがする。が、原作がひとり相撲的なのに、こちらは対決ムードが強い。「それでいいのだ」という救いはあるが、それでいいのかとも。

[第三夜] 子供を背負っていると、その子の目が潰れる。「お父さん、重くない。そのうち重くなるよ」と言われるが、逃げ場などない。そうして言われるがままに着いた先で、自分は人殺しで、子供だった自分を殺したのだと知る。殺した対象が100年前の1人の盲から28年前の自分になっていてよりホラー度が強くなっているが、映像は怖さでは文字にかなわない。6人目の子を身籠もっている鏡子に、子をあやして背負う漱石の部分は、付け足しながらうまい脚本なのだが。最後に「書いちゃおー」とおどけさせなくってもさ。

[第四夜] バスで講演にやってきた漱石だが、そこは何故か面影橋4丁目だった。「見てて、蛇になるから」と言う老人に子供たちが歌いながらついていく。漱石も後を追いながら、昔転地療養をしていた所と思い出す。飛行機が超低空でやってきて爆発する。イメージはバラバラながら、くっきりしたものだ。最近行ったばかりの佐原市の馬場酒造がロケ地として出てくるせいもある。私も子供の頃、蛇になるところ(むろん別のことだが)がどうしても見たくてしかたがなかった記憶がある。この感覚がひどく懐かしい。映画は神隠しをブーメランの笛吹に結びつけているようだ。「夢って忘れちゃうんですよね」(と言って正の字を書いていた)。ですね。

[第五夜] 原作もだが、映画はさらにわからない。「夜が明けて、鶏が鳴くまで待つ」という夫からの電話を受けた側の妻の話にしている(森の中で事故を起こした車に乗っていた夫婦が見た夢)。もうひとりの自分の醜い姿を認めろといっているのが、どうも。あ、でも夫もいいねと言ってました。勝手にしろ。馬に乗る市川実日子に包帯女のイメージははっきり残っているのだが。

[第六夜] ダントツの面白さ。原作でもこれが1番好きだ。仁王を彫る運慶を見た男が、自分にも出来るような気がして挑戦するが、出てきたのは木彫りの熊だった。TOZAWAが披露するアニメーションダンスがとにかく素晴らしいのだが、このオチがいい。何も出てこないどころか、木彫りの熊!とは。うへへ。でも「結局彫る人間にあったサイズのものしか埋まっていない」という解説は(石原良純も)必要かどうかは。

[第七夜] アニメ。特に絵柄が好きというのではないし、原作と同じくらい退屈。巨大な船で旅をしている青年が、自分の居場所を見つけられなくて海に飛び込むまでは同じだが、男が感じるものはまったく逆で、世界って広いんだなというもの。英語のセリフにした意味がわからない。

[第八夜] 床屋の鏡越しに見えた幻影を、子供が巨大なミミズのような生物を捕まえて育てる話に変えている。原稿用紙を前に悩む41歳の漱石。塀の向こうで、女の子たちに「鴎外せんせー」と言われてしまう。よくわからん度はこれまた原作に同じ。

[第九夜] 赤紙が来て戦争に行った夫のためにお百度参りをする妻。死んでいたことを知らずに続けているのが原作なら、こちらは浮気を受け入れられないという意思表示か。子がその扉を開ける。夢らしくない。

[第十夜] 女にたぶらかされて豚に鼻を舐められる話を、ブスは死んで当然と思っている色男が美女に化けたブタの怪物に仕返しされる話に改変している。理屈は付いたが、わかったとはいいずらい。不思議なイメージが消えてしまったのは残念だが、私の見る夢も悪ノリしていることが多いからね(こんなに下品ではないよ)。女に案内された豚丼しかない食堂で、その豚丼のおいしさにはまるが、豚丼のだし汁は汗で、痰入りというおぞましいものだった(豚丼ではなくハルマゲ丼だそうな)。女が正体をあらわしリングで対決となる。ごめんなさい、もう人は殺しません、と言いながら豚をやっつけようとするのだからこの色男もくわせものだ。

 

【メモ】

以下、漱石の『夢十夜』テキトーダイジェスト。

[第一夜] 「100年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」と女は死んでいく。言われたとおりにして、日が昇り落ちるのを勘定し、勘定しつくせないほどになっても100年はやって来ない。女に騙されたかと思っていると、石の下から茎が伸び、見る間に真っ白い百合の花が咲き、骨にこたえるような匂いを放つ。花びらに接吻し、遠い空を見ると暁の星がたった1つ瞬いていて、100年はもう来ていたことに気づく。

[第二夜] 侍のくせに悟れぬのは人間の屑と和尚に言われた男が、悟って和尚の首を取ってやろうと考えるが、どうあがいても一向に無の心境になれぬ。次の刻を打つまでに悟らねば自刃するつもりでいた、その時計の音が響く。

[第三夜] 6つになる自分の子を背負っているのだが、目は潰れているし、青坊主である。言葉付きは大人だし、何でも解るので怖くなり、どこかへ打遣ゃってしまおうと考えると、見透かされたように、「重くない」と問われる。否定するが「今に重くなる」と言われてしまう。……森の中の杉の根の処で、ちょうど100年前にお前に殺されたと言われ、1人の盲を殺したことを思い出す。

[第四夜] 年は「いくつか忘れ」、家は「臍の奧」だという爺さんが、柳の下にいる3、4人の子供たちに、手ぬぐいをよったのを見せ「蛇になるから見ておろう」と言う。飴屋の笛を吹き手ぬぐいの周りを回るが一向に変わらない。今度は手ぬぐいを箱に入れ、「こうしておくと箱の中で蛇になる。今に見せてやる」と言いながら河原へ向かい、川に入っていった。向岸に上がって見せるのだろうと思っていつまでも待っていたが、とうとう上がって来なかった。

[第五夜] 神代に近い昔、軍(いくさ)で負け生けどりになるが、女に会いたいと敵の大将にたのむと、夜が明けて鶏が鳴くまでなら待つという。女は白い裸馬に乗ってやってくるが、鶏の鳴く真似をした天探女(あまのじゃく)に邪魔され岩の下の深い淵に落ちてしまう。蹄の痕の岩に刻みつけられている間、天探女は自分の敵である。

[第六夜] 護国寺で運慶が仁王を刻んでいるという評判をきき出かけると、鎌倉時代とおぼしき背景に、運慶が鑿と槌を動かしていた。見物人に運慶は彫るのではなく、掘り出しているのだときかされ、それならと帰って自分でも試すが、明治の木には仁王など埋まっていないと悟る。それで、運慶が今日まで生きている理由もほぼ解った。

[第七夜] 大きな船に乗っている男が自殺する。海めがけて飛び降りた途端、乗っていた方がよかったと後悔する。

[第八夜] 床屋で髪を切ってもらいながら、鏡に映る女を連れた庄太郎や豆腐屋、芸者、人力車の梶棒を見るが、粟餅屋は餅を引く音だけだ。女が10円札を勘定しているが、いつまでも100枚と言っている。髪を洗いましょうと言われて立ち上がって振り返るが、女の姿はない。代を払って外に出ると金魚屋がいて、金魚を眺めたまま動かない。

[第九夜] 帰ってこない侍の夫を案じて若い妻は3つの子を欄干に縛り、幾夜もお百度を踏むが、夫はとうの昔もう殺されていた。夢の中で母から聞いた悲しい話。

[第十夜] 女にさらわれた庄太郎が7日目の晩に帰ってくるが、熱も出たと健さんが知らせに来た。庄太郎は女と電車に乗って遠くの原へ行き、絶壁(きりぎし)に出たところで、女に飛び込めと言われる。辞退すると嫌いな豚が襲ってくる。豚の鼻頭を洋杖で打てば絶壁の下に落ちていくが、豚は無尽蔵にやってきて7日6晩で力尽き、豚に鼻を舐められ倒れてしまったという。「庄太郎は助かるまい。パナマ帽は健さん(が狙っていた)のものだろう」。

2006年 110分 ビスタサイズ 

原作:夏目漱石
[プロローグ&エピローグ]監督・脚本:清水厚
[第一夜]監督:実相寺昭雄 脚本:久世光彦
[第二夜]監督:市川崑 脚本:柳谷治
[第三夜]監督・脚本:清水崇
[第四夜]監督:清水厚 脚本:猪爪慎一
[第五夜]監督・脚本:豊島圭介
[第六夜]監督・脚本:松尾スズキ
[第七夜]監督:天野喜孝、河原真明
[第八夜]監督:山下敦弘 脚本:長尾謙一郎、山下敦弘
[第九夜]監督・脚本:西川美和
[第十夜]監督:山口雄大 脚本:山口雄大、加藤淳也 脚色:漫☆画太郎

出演:
[プロローグ&エピローグ]戸田恵梨香(女学生)、藤田宗久
[第一夜]小泉今日子(ツグミ)、松尾スズキ(百閒)、浅山花衣、小川はるみ、堀内正美、寺田農
[第二夜]うじきつよし(侍)、中村梅之助(和尚)
[第三夜]堀部圭亮(夏目漱石)、香椎由宇(鏡子)、佐藤涼平、辻玲花、飯田美月、青山七未、櫻井詩月、野辺平歩
[第四夜]山本耕史(漱石)、菅野莉央(日向はるか)、品川徹、小関裕太、浅見千代子、市川夏江、児玉貴志、高木均、柳田幸重、五十嵐真人、渡辺悠、谷口亜連、原朔太郎、佐藤蘭、宇田川幸乃、鶴屋紅子、佐久間なつみ、日笠山亜美、樹又ひろこ
[第五夜]市川実日子(真砂子)、大倉孝二(庄太郎)、三浦誠己、牟禮朋樹、辻修、鴨下佳昌、新井友香
[第六夜]阿部サダヲ(わたし)、TOZAWA(運慶)、石原良純
[第七夜]声の出演:sascha(ソウセキ)、秀島史香(ウツロ)
[第八夜]藤岡弘(正造/漱石)、山本浩司、大家由祐子、柿澤司、土屋匠、櫻井勇人、梅澤悠斗、森康子、千歳美香子、森島緑、小川真凛、水嶋奈津希、広瀬茉李愛
[第九夜]緒川たまき(母)、ピエール瀧(父)、渡邉奏人、猫田直、菊池大智
[第十夜]松山ケンイチ(庄太郎)、本上まなみ(よし乃)、石坂浩二(平賀源内)、安田大サーカス、井上佳子

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