エレクション

2007/01/28 テアトル新宿 ★★☆

■静かな男が豹変する時……

5万人もの構成員を擁する和連勝会という香港最大の裏組織では、2年に1度行われる幹部会議での次期会長選挙が近づいていた。候補者は、年長者からの人望が厚いロク(サイモン・ヤム)に、強引に勢力を広げてきたディー(レオン・カーファイ)。選挙とはいえ裏工作はすさまじく、単なる穏健派と武闘派という枠を超えた闘いになっていた。

過半数を抑えていたはずのディーだったが、なりふり構わぬ賄賂などを長老幹部のタン(ウォン・ティンラム)に指摘され、ロクに破れてしまう。納得できないディーは、自分の意に添わない者を報復し、前会長のチョイガイには会長職の象徴である竜頭棍をロクに渡さないよう脅す。

ここからはこの竜頭棍をめぐっての争奪戦が始まるのだが、冷静に考えれば、じゃあ一体選挙はなんだったのだ、と思ってしまう。一連の不穏な動きに警察が口をくわえているはずもなく、ディーやロクを含めた和連勝会の幹部たちは次々に逮捕されてしまうが、すでに竜頭棍の争奪戦は部下たちによる争いになっていた。映画のかなりの時間を占める広州(チョイガイの命で竜頭棍は本土に渡っていた)から香港に至るこの争いは、登場人物が入り乱れて少しわかりにくいのだが、下部組織ではお互いに敵か味方かの区別さえ定かでないという馬鹿らしい状況は演出できていた。

これだけの争いを繰り広げながら、結局は手打ちのようなことになって、何とも重々しい儀式が執り行われるのだが、竜頭棍といい、この儀式といい、まったく理解不能。常に組織のまとめ役を意識しているロクや、最終的に竜頭棍を手に入れた頭脳的なジミー(ルイス・クー)が幹部への道を約束されたことで儀式を利用するのはまだしも、「新和連勝会」を立ち上げて宣戦布告までしたディーが神妙な顔つきをしてその場にいるのである。

ロクから次の会長選での支持を約束されたディーは、ロクと肩を並べるようにしてしばらくは我が世を謳歌していたが、調子に乗って「俺たちも会長を2人にしねえか」とロクにもちかけたことで、ロクの本性が剥きだしとなる恐ろしい結末を迎えることになる。

ロクの豹変ぶりは、いままでの彼の性格からは想像しにくいだけに恐怖度が高い。しかも殺しの手口は銃などではなく、一緒に釣りに行った先にころがっていた何ということもない大きな石で、しかしその行為の執拗さは狂気を思わせるものだ。ディーに必要以上にハイテンションな演技をさせていたのはこのラストシーンのためだったか。あれだけ暴れまくっていた(しかしそうはいってもやはり幼稚でしかない)男のあまりにあっけない最期。ロクはディーの妻も同じように殺して埋めてしまうのだが、その一部始終を彼の子供が見ているという、なんとも居心地の悪い場面まで用意されている。

ラストに限らずヒリヒリするような痛みを伴う映画ではあるが、意味のない竜頭棍の争奪戦や儀式が、それをぶち壊していないか。意味のないことを繰り返していることに批判の矛先があるのかもしれないが、私には興味のない世界でしかなかった。

【メモ】

中国黒社会の源流が少林寺にあるというようなことがいわれていたが、その真偽はわからない。ただ「漢民族の名の下に……」という部分は本当らしい。HPには「組織の歴史は17世紀にさかのぼる。満州族の清王朝支配を打倒し、漢民族王朝を復活するために、血の誓いを交わして結ばれた秘密結社として発足」とある。

原題:黒社會 英題:Election

2005年 101分 シネスコサイズ 香港 R-15 日本語版字幕:■

監督:ジョニー・トー[杜(王其)峰] 製作:デニス・ロー[羅守耀]、チャールズ・ヒョン[向華強]、ジョニー・トー 脚本:ヤウ・ナイホイ[游乃海]、イップ・ティンシン[葉天成] 撮影監督:チェン・チュウキョン[鄭兆強] 音楽:ルオ・ダーヨウ[羅大佑] 編集:パトリック・タム[譚家明] 衣装:スタンレー・チョン[張世傑] 美術監督:トニー・ユー[余興華] スチール:岡崎裕武

出演:サイモン・ヤム[任達華](ロク)、レオン・カーフェイ[梁家輝](ディー)、ルイス・クー[古天樂](ジミー)、ニック・チョン[張家輝](フェイ)、チョン・シウファイ[張兆輝](ソー)、ラム・シュー[林雪](ダイタウ)、ラム・カートン[林家棟](トンクン)、ウォン・ティンラム[王天林](タン)、タム・ビンマン[譚(火丙)文](チュン)、マギー・シュー[邵美(王其)](ディー夫人)、デヴィッド・チャン[姜大衛](ホイ警視)

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