フロスト×ニクソン

新宿武蔵野館2 ★★★☆

■遠い映画

予告篇で「インタビューという名の決闘」と言っていただけのことはある。地味な題材をこんなに面白く見せてくれるんだから。大物といえどニクソンが登場するくらいじゃ、そのインタビューが娯楽映画(は言い過ぎか)になるとは思わないだろう。けれど、いつの間にか身を乗り出して、二人のやりとりを聞き逃すまいとしていた。それなのに、映画が終わってみると意外にも、そんなに感慨が残ることはなかった。

というわけで、映画に想いを巡らすまでにはなかなかならず、何故そんな気持ちになるのかという一歩手前を考えてしまうのだった。それでいてその考えに捕らわれるまでにもならなかったのは、要するに、面白くても私には遠い映画だったのだろう。

トークショーの司会者である英国人のフロストは、掛け持ちでオーストラリアの番組も持っている人気者だ。ニクソン辞任の中継を見ていたフロストは、その視聴率に興味を持ち、ニクソンとの単独テレビインタビューを企画する。が、ニクソン側は出演料をつり上げてくるし、三大ネットワークへの売り込みは失敗するしで、自主製作という身銭を切っての賭とならざるを得なくなる。

成功すれば名声と全米進出を手にすることができる(アメリカで成功することは意味が違うというようなことを言っていた)わけで、彼がそれにのめり込むのも無理はないのだが、負けず嫌いなのか、プレイボーイを気取っているのか、飛行機でものにした彼女には苦境にあることはそぶりも見せない。インタビュー対決はもちろんだが、こうしたそこに至る道筋がインタビュー以上にうまく描けている。

巨悪のイメージのあるニクソンだが、やはりすでに過去の人でしかないからか。フロストのインタビューやその前後の様子からは、老獪さよりは人間味が感じられてしまい、え、ということは、私もあっさり(映画の)ニクソンに籠絡されてしまったことになるのだろうか。だとしたらそのままでは終わらせなかったフロストは、やはり大した人物だったのかもしれない。

が、フロストとニクソンとの白熱(とは少し違う。三日目まではニクソンの完勝ペースだし)したやりとりも、結果としてニクソンの失言待ち(フロストが引き出したものだとしても)だった印象が強いのだ。うーん、これもあるよなぁ。

それにすでにニクソンは失脚しているわけで、このことで政界復帰の道は完全に閉ざされたにしても、日本にいる身としは、このインタビューがそれほどの意味があったとは思えなかったのだ(映画では政界復帰の野望を秘めていたことになっている。ついでながらこの話に乗ったのは金のこともあるが、フロストを与しやすい相手と判断したようだ)。それにしつこいけど、過去のことだし。

アメリカ人にとっては意味合いが全然違うのだろうな。そもそも大統領に対する人々の持つイメージや、メディアなどでの扱いが日本における首相とは比べものにならないと、これは常々感じていることだけど。だから、ま、仕方ないってことで。あ、でもフロストは英国人。いや、でも同じ英語圏だし、兄弟国みたいなもんだから、って映画からはずれちゃってますね。

書き漏らしてしまったが、ニクソンの失言は「大統領がやるのなら非合法ではない」というもの。フロストはこれを突破口にして「国民を失望させた」という謝罪に近い言葉をニクソンから引き出す。もっともこの展開は少し甘い。ニクソンならいくらでも弁解できたはずで、逆に言うとニクソンは告白したがっていたという映画(深夜の電話の場面を入れたのはそういうことなのだろう)なのが、私としては気に入らない

罪を認めたからって軽くはならないのだから、どうせならニクソンには沈黙したままの悪役でいてほしかった、のかなぁ私は。ニクソンのことよく知らないんで、どこまでもいい加減な感想なんだけど。

 

原題:Frost / Nixon

2008年 122分 アメリカ シネスコサイズ 配給:東宝東和 日本語字幕:松岡葉子

監督:ロン・ハワード 製作:ブライアン・グレイザー、ロン・ハワード、ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー 製作総指揮:ピーター・モーガン、マシュー・バイアム・ショウ、デブラ・ヘイワード、ライザ・チェイシン、カレン・ケーラ・シャーウッド、デヴィッド・ベルナルディ、トッド・ハロウェル 脚本・原作戯曲:ピーター・モーガン 撮影:サルヴァトーレ・トチノ プロダクションデザイン:マイケル・コレンブリス 衣装デザイン:ダニエル・オーランディ 編集:マイク・ヒル、ダン・ハンリー 音楽:ハンス・ジマー

出演:フランク・ランジェラ(リチャード・ニクソン)、マイケル・シーン(デビッド・フロスト)、ケヴィン・ベーコン(ジャック・ブレナン)、レベッカ・ホール(キャロライン・クッシング)、トビー・ジョーンズ(スイフティー・リザール)、マシュー・マクファディン(ジョン・バード)、オリヴァー・プラット(ボブ・ゼルニック)、サム・ロックウェル(ジェームズ・レストン)、ケイト・ジェニングス・グラント、アンディ・ミルダー、パティ・マコーマック