ディファイアンス

シネマスクエアとうきゅう ★★★☆

■生きるが勝ち

ナチスによる狂気のようなユダヤ人狩りから逃れた人々の実話。ユダヤ人レジスタンスとして有名なビエルスキ兄弟の活躍を描く。有名と書いたが、彼らのことがよく知られるようになったのは15年ほど前らしい。

予備知識なしで観たこともあるが、実は最初の10分は予告篇から寝ていて、その部分は次の回に、つまり最後になって観るという馬鹿げたことをやってしまったため、トゥヴィア、ズシュ、アザエルが兄弟(アーロンもか)だということが、しばらくわからずにいた。だってさ、似てないんだものトゥヴィアとズシュって(寝ちゃったのが悪いんだけどさ)。

映画は、娯楽作として割り切っても十分楽しめるが、歴史の知識があればさらに興味深く観ることが出来たと思われる。対ナチス(+その協力者)だけでなく、ズシュが入隊(?協力なのか)するソ連赤軍も何度か出てきて、ベラルーシの地理的背景が浮かび上がってくるのだが、自分の知識の無さがもどかしくなった。この地にはユダヤ人が多数住んでいたようだ。そのことはなんとなくわかる程度にしか描かれていないが、映画で説明するには複雑すぎるのだろう。

迫害される状況にあって協力して生きていかなければならないのに、とりあえずの平穏が得られると、情けないことにすぐさま別な形で不満を持つ者が現れるのは、どこでも同じだろうか。共同体における基本的な問題は、特に危機と隣り合わせというような状況にあっては指導者の力量にかかってくるが、トゥヴィアもズシュも、ただの農夫と商店主だったわけで、ごく普通の人間にすぎなかった。兄弟げんかは度々だし、トゥヴィアは激情にかられて両親の復讐に走る。相手は警察署長。彼の多分初めての人殺しは、相手の家族団欒の場に乗り込んでのことになる。

復讐を果たしたトゥヴィアだが、ズシュが結局はドイツ軍と闘う道を選ぶのとは対照的に、女や子供、老人たちを引き連れ、森の中で何とか生き抜く道をさぐることになる。はじめのうちこそ農家から食料を奪ったり、ドイツ軍への攻撃もズシュと共に繰り返していたが、犠牲者を出してしまったことで「生き残ることが復讐だ」「生きようとして死ぬのなら、それは人間らしい生き方だ」と思うようになっていく。

観たばかりのチェ2部作(『チェ 28歳の革命』『チェ 39歳 別れの手紙』)が攻めのゲリラなら、こちらは守りのゲリラか。見かけも映画の質もかけ離れているが、直面する問題は変わらない。この作品の方が、親切でわかりやすいのは娯楽作を創ることを念頭に置いているからだろう。

わかりやすいということは具体的ということでもある。なにしろ大人数だから、森の中に村が出来上がっていくことになるのだが、そのあたりも物語の進行の中で、人物紹介を兼ねるように手際よく見せていく。未開の地を開拓したのだろうが、よくそんなことが可能だったと驚く(最初の地は逃げ出すことになるのだが)。女や老人にも役割分担が与えられる。みんなが働く必要があるのだ。木を伐りだし小屋を作ることから始めなければならないのだから。

が、まだ1941年のことで(解放までにはまだ3年以上もあるのだが、でももしかしたら彼らの誰もが、そんなに早く自由の身を取り戻せるとは思っていなかったかもしれない)、最初に迎える凍りつく冬に食料は底をつき、食料調達班の造反やトゥヴィア自身が病気になるなど、最大の危機がやってくる……。愛馬を殺して食料にし、造反したリーダーは有無を言わせず射殺してしまう。あっけにとられるくらいの、このトゥヴィアの行動は、しかし、ではどうすればよかったのかと問われると、何も言えなくなる。

内容が盛り沢山すぎて書いているとキリがなくなるので、いくつかを覚え書き程度にメモしておく。ゲットーからの集団脱出の手助け。兄弟それぞれの恋。ドイツ軍の攻撃を知って、沼地のような大河(国土の20%を占めるという湿原か?)を全員で渡る場面。トゥヴィアもさすがに躊躇するが、アザエルが成長した姿をみせる(あの泣いていたアザエルがだよ。ま、奥さんもらっちゃったしね)。なんとか渡りきったところに戦車が登場するなど、派手さこそないが、次々と見せ場がやってくる。ドンピシャのタイミングでズシュが助けに現れては(帰って来たのだ)、真実の物語にしては脚色しすぎなんだけど、許しちゃおう。

教師ハレッツとイザックの知的?コンビの会話もいいアクセントになっていた。このハレッツは「信仰を失いかけた」というようなことを度々口にしていた。「もう選民という光栄はお返しします」とも。そういうことにはならないのだけど、とりあえずそれだけは返してしまった方がよかったと私は思うんだが。

 

原題:Defiance

2008年 136分 アメリカ ビスタサイズ 配給:東宝東和 日本語字幕:戸田奈津子

監督:エドワード・ズウィック 製作:エドワード・ズウィック、ピーター・ジャン・ブルージ 製作総指揮:マーシャル・ハースコヴィッツ 原作:ネハマ・テク 脚本:クレイトン・フローマン、エドワード・ズウィック 撮影:エドゥアルド・セラ プロダクションデザイン:ダン・ヴェイル 衣装デザイン:ジェニー・ビーヴァン 編集:スティーヴン・ローゼンブラム 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード

出演:ダニエル・クレイグ(トゥヴィア・ビエルスキ)、リーヴ・シュレイバー(ズシュ・ビエルスキ)、ジェイミー・ベル(アザエル・ビエルスキ)、アレクサ・ダヴァロス(リルカ)、アラン・コーデュナー(ハレッツ/老教師)、マーク・フォイアスタイン(イザック)、トマス・アラナ(ベン・ジオン)、ジョディ・メイ(タマラ)、ケイト・フェイ(ロヴァ)、イド・ゴールドバーグ(イザック・シュルマン)、イーベン・ヤイレ(ベラ)、マーティン・ハンコック(ペレツ)、ラヴィル・イシアノフ(ヴィクトル・パンチェンコ/ソ連赤軍指揮官)、ジャセック・コーマン(コスチュク)、ジョージ・マッケイ(アーロン・ビエルスキ)、ジョンジョ・オニール(ラザール)、サム・スプルエル(アルカディ)、ミア・ワシコウスカ(ハイア)

チェ 39歳 別れの手紙

新宿ミラノ2 ★★★☆

■革命から遠く離れて

画面サイズがシネスコからビスタに替わったからというのではないはずだが(しかし、何で替えたんだろ)、続編にしては先の『チェ 28歳の革命』とは印象がずいぶん異なる映画だった。

「今世界の他の国々が私のささやかな助力を求めている。君はキューバの責任者だから出来ないが、私にはできる。別れの時が来たのだ。もし私が異国の空の下で死を迎えても、最後の想いはキューバ人民に向かうだろう、とりわけ君に。勝利に向かって常に前進せよ。祖国か死か。革命的情熱をもって君を抱擁する」というゲバラの手紙を、冒頭でカストロが紹介する。

それを流すテレビを左側から映した画面からは、Part Oneとそう違ったものには見えず、いやむしろそれに続くゲバラのボリビア潜入の変装があんまりで、安物スパイ映画を連想してしまった私など、逆に弛緩してしまったくらいだった。むろんゲバラにはそんな気持はさらさらなく、彼は相変わらずPart Oneの時と変わらぬ信念と革命的情熱を持って、ボリビアに潜入する。理想主義者のゲバラにとって、キューバでの成功に甘んじていることなど許されないのだろうが、実際に行動するのはたやすいことではないはずだ。成功者としての地位も安定した生活も捨て、家族とも別れて、なのだから。

それほどの決意で臨んだボリビアの地だが、どうしたことか、キューバではうまくいったことがここでは実を結んでくれない。親身になって少年の目を治療し、誠実に農民たちと向き合う姿勢は、あの輝かしいキューバ革命を成し遂げた過程と何ら変わっていないというのに。

最初は豊富にあったらしい資金もすぐに枯渇し、食料も満足に確保できず、体調を崩して自分までがお荷物になってしまう状況にもなる。組織が育っていかないから、ゲリラとして戦うというよりは、ただ逃げているだけのように見えてしまう。

実際、鉱夫がストに入ったというくらいしか、いいニュースは入ってこない。政府軍の方は捜索も念が入っていて、シャツからキューバ製のタグを見つけ出すし、アメリカの軍人らしき人物が「ボリビア兵を特殊部隊に変えてやろう」などと言う場面もある。キューバ革命に対する危機感が相当あったのだろう。「バティスタの最大の過ちはカストロを殺せる時に殺さなかったこと」というセリフもあった。ゲバラの捕獲に先立っては、ゲバラの別働隊を浅瀬で待ち伏せ、至近距離で狙い撃ち全滅させてしまう。この情報は、ラジオでゲバラも得るのだが「全滅などありえない」と信じようとしない。

居場所を知られるのを恐れ、ゲバラは己の存在を隠そうとし、バリエントス側はゲバラの影響力を恐れて、やはりその存在を隠そうとする。思惑は違うのに同じことを願っていて妙な気分になる。とはいえ観客という気楽な身分であっても、すでにそんなことを面白がってなどいられなくなっている。

結末はわかっていることなのに、ゲバラが追い詰められていく後半は胸が苦しくなった。農夫の密告というのがつらい。山一面の兵士に包囲されて、逃げなきゃ!と叫び声を上げそうになる。Part Oneでゲバラの姿がしっかり焼き付けられていたからだろう。Part Oneの最後にあった、陽気で明るい雰囲気まで思い返されるものだから、よけい切なさがつのってくる。雰囲気が違うというより、2部作が呼応しているからこそのやるせなさだろうか。

それにしても何故、キューバでできたことがボリビアではできなかったのか。そのことに映画はきちんと答えているわけではない。親ソ的なボリビア共産党と組めなかったことも大きな要因らしいが、ボリビアでは1952年にすでに革命があり1959年には農地解放も行われていた。革命は1964年に軍によるクーデターで終焉してしまうのだが、共産党とは対立が進みながらも、大統領になったレネ・バリエントスは民衆や農民にも一定の支持を得ていたようだ。が、そんな説明は一切ない。

足を撃たれたゲバラは捕虜になるが、射殺されてしまう。カメラはその時、ゲバラの目線に切り替わる。ゲバラに入り込まずにはいられなかったのかどうかはわかりようがないが、そう思いたくなった。ボリビア潜入後1年にも満たないうちに死体となったゲバラ。カメラはヘリが死体を運び出すまでを追う。村人が顔をそむけたのはヘリの巻き上げた砂埃であって、それ以外の理由などなかったろう。

無音のエンドロールには重苦しさが増幅される。といってこれ以外の終わり方も思い浮かばないのだが。

  


原題:Che Part Two Guerrila

2008年 133分 フランス/スペイン/アメリカ ビスタサイズ 配給:ギャガ・コミュニケーションズ、日活 日本語字幕:石田泰子 スペイン語監修:矢島千恵子

監督:スティーヴン・ソダーバーグ 製作:ローラ・ビックフォード、ベニチオ・デル・トロ  製作総指揮:フレデリック・W・ブロスト、アルバロ・アウグスティン、アルバロ・ロンゴリア、ベレン・アティエンサ、グレゴリー・ジェイコブズ 脚本:ピーター・バックマン 撮影:ピーター・アンドリュース プロダクションデザイン:アンチョン・ゴメス 衣装デザイン:サビーヌ・デグレ 編集:パブロ・スマラーガ 音楽:アルベルト・イグレシアス

出演:ベニチオ・デル・トロ(エルネスト・チェ・ゲバラ)、カルロス・バルデム(モイセス・ゲバラ)、デミアン・ビチル(フィデル・カストロ)、ヨアキム・デ・アルメイダ(バリエントス大統領)、エルビラ・ミンゲス(セリア・サンチェス)、フランカ・ポテンテ(タニア)、カタリーナ・サンディノ・モレノ(アレイダ・マルチ)、ロドリゴ・サントロ(ラウル・カストロ)、ルー・ダイアモンド・フィリップス(マリオ・モンヘ)、マット・デイモン、カリル・メンデス、ホルヘ・ペルゴリア、ルーベン・オチャンディアーノ、エドゥアルド・フェルナンデス、アントニオ・デ・ラ・トレ

2008年度カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞