恋とスフレと娘とわたし

新宿武蔵野館2 ★☆

■子離れ出来ない過干渉母親と末娘の××話

いくら末娘のミリー(マンディ・ムーア)に男運がないからってネットで娘にかわって恋人を募集し自ら面接って、もうそれだけでげんなりしてしまう話なのだが、母親のダフネ(ダイアン・キートン)はそんなことをするくらいだから、一事が万事で、すべてに過干渉。ダイアン・キートンはよくこんな役を引き受けたものだ。

もっとも親娘4人はすこぶる仲良しで、揃って買い物やエステに出かけているから、ネットでの恋人募集まではダフネもそうはひどい母親ではなかったのか。コメディだから大げさにせざるを得ない弊害かもしれないが、「私の言葉は絶対」という神経にはついていけない。

ネット効果?でミリーの男運は急転。今までの相手といえばゲイか既婚者か異常者ばかりだったのに、数撃ちゃ当たる(とんでもない男達を次々に見せていくあたりは芸がない)でダフネのメガネにもかなう建築家のジェイソン(トム・エヴェレット・スコット)は現れるし、面接現場に居合わせたミュージシャンのジョニー(ガブリエル・マクト)までがダフネのやっていることに興味を持って、結果、2人共ミリーに好意を寄せてくることになる。

ジョニーは子持ちで右手の甲に刺青があって、だからかダフネには「浮気なギタリスト」と最初から嫌われてしまうのだが、「偏見あるコメントをありがとう」とジョニーの方は余裕の受け答え。この優しさと安心感がミリーを二股へと進ませるのだけど、二股はないでしょ。

当然それはバレて、でもミリーも本当の愛に気付いてという流れなのだけど、そしてミリーにもそれなりのお仕置きはあるのだけれど、バレてからの右往左往だから後味は悪い。

救いはジェイソンをイヤなヤツにしていなかったことだろうか。曾祖父のキャンドルをミリーが壊してしまって不機嫌になってしまうのだが、次には別の形見をミリーへのプレゼントとして持ってきて、ちゃんと謝っていた。なかなか見上げたものなのだ。ま、とはいえ相性が合わないのでは仕方ないんだが、でも「あなたといると自分じゃない」というミリーの断り方は、ひどいなんてもんじゃない。

ダフネは一時的に声が出なくなって大人しくなるのかと思ったら大間違いで、それでも最後にはミリーへのおせっかいは「あなたを私にしたくなかった」からで、もう二度とミリーの人生には干渉しないと言ってはいた。でもあなたを私にしたくないというセリフも、とどのつまりは娘を自分と同じと考えているようで、私には感心できないのだけど。

だから、改善されるかどうか疑わしいよね、ダフネのそれ。ただ彼女もこの騒動でジョニーの父といい仲になってしまったので、当分は自分のことに忙しいだろうから、観ている方はげんなりでも、この親娘にとってはこれでハッピーエンドなんでしょう。

スフレが何なのか知らなかった私。くだらない映画でも勉強になります。

原題:Because I Said So

2007年 102分 ビスタサイズ アメリカ 配給:東北新社 日本語字幕:佐藤恵子 字幕演出:川又勝利

監督:マイケル・レーマン 製作:ポール・ブルックス、ジェシー・ネルソン 製作総指揮:マイケル・フリン、スコット・ニーマイヤー、ノーム・ウェイト 脚本:カレン・リー・ホプキンス、ジェシー・ネルソン 撮影:ジュリオ・マカット プロダクションデザイン:シャロン・シーモア 衣装デザイン:シェイ・カンリフ 編集:ポール・セイダー、トロイ・タカキ 音楽:デヴィッド・キティ

出演:ダイアン・キートン(ダフネ)、マンディ・ムーア(ミリー)、ガブリエル・マクト(ジョニー)、パイパー・ペラーボ(メイ/次女)、トム・エヴェレット・スコット(ジェイソン)、ローレン・グレアム(マギー/長女)、スティーヴン・コリンズ(ジョー/ジョニーの父)、タイ・パニッツ、マット・シャンパーニュ、コリン・ファーガソン、トニー・ヘイル

ベクシル 2077日本鎖国

新宿ジョイシネマ2 ★★★

■鎖国という壮大な話が最後は同窓会レベルに

ロボット産業で市場を独占していた日本はアンドロイドを開発。脅威を感じた国連は規制をかけようとするが、日本はなんと鎖国をしてしまった、というぶったまげたSFアニメ。荒唐無稽部分以外もアラの目立つ設定なんだけど、例えば『ルネッサンス』のような発想のつまらない作品に比べたらずっと評価したくなる。

舞台はハイテク技術が可能にした完全鎖国(妨害電波で衛星写真にも何も映らないようになっている)から10年後の2077年で、鎖国の間1人の外国人も入国したことのない日本が、いったいどう変貌しているのかという興味で引っ張っていく。

もっとも部分的には貿易は行われているらしく、大和重鋼のDAIWAブランドがアメリカにも入っているような描写がある。日本が市場を独占というのは、もうすでに現時点でも危うそうなのに、そして鎖国などしていたら余計取り残されてしまいそうなのに、引き合いがあるというのは大甘な設定としか思えないが、ま、これは日本人にとっての夢的発想として見逃しとこう。

しかしその10年の間に、日本人はすべてアンドロイド化されてしまったというのだ。そればかりか、日本は陸地としての形は残っているものの山も川も街もなくなっていて、わずかに東京の23区ほどの場所に押し込められた人間(じゃないか)たちが、戦後の闇市のようなスラムで生活していた。そして日本を牛耳っているのは、国家ではなく東京湾の沖合の人口島にある大和重鋼という企業体だった。

鎖国に至った経緯(国際関係)も、一研究者のように見えたキサラギが大和重鋼の社長(途中でなったのか?)で、それも昔は彼だっていったんは逮捕されるような状況(この時は日本もまだ国家として機能していた)だったのに、大和重鋼がいつ日本のすべてを支配してしまったのかもよくわからない。国土の荒廃は金属を食い尽くすジャグによるものと推測されるが、しかしそれだったら何でジャグが入れないように外壁で囲まれている東京までが平坦なのか。

どんな状況を持って来ても私は大歓迎。想像を絶するくらいの設定の方が楽しいのだけど、それに類推可能な部分だってあるのだが、でもやっぱり詳しい説明はしてくれないと。2時間近くでまとめなくてはならない制約があるにしても、ここまで情報不足ではまずいだろう。日本人がアンドロイド化された(が人間としてのかけらが残っている)ことについては説明があったが、なにしろ状況が奇異すぎるから、説明しだすときりがなくなってしまうのかもしれない。

それと関係があるのかないのか、判明したベクシル、レオン(ベクシルの恋人で日本潜入部隊の生き残り)、マリア(レオンは昔の恋人)、キサラギ(マリアとは学生時代からの知り合い)の関係は、お友達繋がりの同窓会のようで、わかりやすいけれどあまりにこぢんまりしすぎだ。その他大勢はアンドロイドなのかもしれないが、悪役はキサラギとサイトウだけで、日本にしても東京の一角と人口島しか語るべき部分が残っていないのでは、どうにもこうにも薄っぺらでなものにしかみえない。

最初に『ルネッサンス』を引き合いに出してしまったが、キサラギも「私たちは進化の最終形態」「人間を母体にした体は選ばれたものだけが進化を遂げ、今や神とは私のことだ」などと『ルネッサンス』のイローナと似たようなことを口走る。ただそう言いながらキサラギ自身は、まだ出来損ないの技術を自分に使うことはためらっていたらしい。実験材料が日本にはいなくなってアメリカにアンドロイドを送り込んだりしていたのだが、逆に感づかれ特殊部隊のSWORDに日本潜入されてしまったというわけだ(これが物語の発端)。

キサラギの正体については、妨害電波を一時的に破って確認した生体反応が3つで、ベクシルとレオンを引くと……というあたりや、キサラギがペットのジャグの頭を撫でてやっている場面があって、こういうわかりやすい観客サービスはいいのだけど、最後にジャグの力を借りて人口島を壊滅させるあたりでは、また説明不足が徒となって乗れなくなってしまう。

ジャグはこの距離は飛べないという説明がぴんとこなかったし、そもそも通路には金属がまったく使われていないのか(ジャグ対策がされているのかもね)、キサラギに通じていたスラムの議長の行動(スラムの外壁を開ける)とか、疑問だらけなのだ。

そういえば、日本に侵入したベクシルはスラムの光景を見て「みんな生き生きしている」と驚いていたが、なに、鎖国をしていない日本以外の世界も決してユートピアにはなっていないってことなのね(ま、そうだろうけど)。ベクシルは「あなたたちが守ろうとしているのは、失って初めて大切だと気づいたもの」とも言っていたけど、そっちは失う前にすでになくしてるんじゃ……。それに、ここを強調してしまうとキサラギのしてきたことを断罪できなくなってしまいそうだ。

マリアがキサラギと運命を共にして、日本は滅亡。そこに特殊部隊のヘリがやってきてベクシルとレオンは助かるのだけど、これがなんだかハリウッド的で。だいたい何でアメリカ女性(に見えないんだけど)のベクシルを主人公にしたのかしらね。

絵の方は「3Dライブアニメ」とかいう方式で作られているらしいが、そちらの興味はあまりなく、よくわからない。でもなかなか迫力のある映像になっていた。ただ表情はもの足りない。出来ればCGにして欲しかったが、それだと予算的に無理なんだろうか。

 

2007年 109分 ビスタサイズ 配給:松竹

監督:曽利文彦 プロデューサー:中沢敏明、葭原弓子、高瀬一郎 エグゼクティブプロデューサー:濱名一哉 脚本:半田はるか、曽利文彦 音楽:ポール・オークンフォールド 主題歌:mink『Together again』
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声の出演:黒木メイサ(ベクシル)、谷原章介(レオン・フェイデン)、松雪泰子(マリア)、朴路美(タカシ)、大塚明夫(サイトウ)、櫻井孝宏(リョウ)、森川智之(キサラギ)、柿原徹也(タロウ)