22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語

テアトル新宿 ★★

■「なんだか疲れちゃった」、演出に

久しぶりに大林作品を観たが、私とはセンスの合わないことを再確認(好きな映画もあるんだけどね)。どうにも疲れてしまう映画だった。

伊勢正三の歌をイメージしていたからか、冒頭の川野俊郎(筧利夫)が閉鎖性無精子症と診断を受ける場面から、びしょ濡れになってコンビニで買い物をしそこで田口花鈴(鈴木聖奈)と出会うあたりまでの、これが大林映画といえばそれまでなのかもしれないが、まるで怪奇映画のような演出にすでに違和感が。

そのあともいろいろなところでひっかかっていた。川野や藤田有美(清水美砂)に1人で延々と喋らせてみたり(むろん違う場面でだ。だから人物の性格というのではなく都合よく語らせているだけのようだ)、斜めに撮した映像など、別にこういう遊びだって嫌いではないのだが、意味がわからない(ようするに趣味が合わないのだな)。せわしない映像にうるさい音では、物語に身をまかせている気分ではなくなってしまう。

話もいじりすぎていて、川野と葉子(中村美玲)の22年前の1番大切なはずの別れがうまく説明できていないから全体に焦点ボケという感じだ。現代の視点からなら葉子が何故川野のもとを去ったのかは判然としなくても一向にかまわないのだが、ちゃんと映像をもってきているのだから、ここがしっかりしていないとつまらない。「なんだか疲れちゃった」とか「大きすぎるね東京」というセリフがナシとは言わないけれど(川野にとっても「あの頃の葉子はぼくには重たすぎた」んだって)、これはせいぜい1960年代まででしょ。

川野に葉子の娘である花鈴が援交を申し出て、37歳の有美があわてるという現代の話だけにした方がよほどすっきりしたのではないか。もちろん葉子とも花鈴ともプラトニックで、というところにこだわったのだろうけど、でも無精子症だから有美の願いはかなえてあげられないからとなると、そこまで考えるか、とも(どうせ私は自分勝手なんだけどさ)。

川野は上海への転勤話が持ち上がってはいたものの上司に目をかけられていたのに、著中で仕事も辞めてしまうし、ま、ある意味では中年(43歳)の理想となってもらいたかったのかもしれないが、ちょっとかっこつけすぎか。

「やらしいおやじにはなりたくない」とは言ってしまいそうだけど、早々に結婚という言葉まで出てきているのだから、ルームシェアしているだけという浅野浩之(窪塚俊介)と張り合ってもよかったんじゃないかと。現代っ子の花鈴と浩之にまでプラトニックを通させたのは、かえって不自然な気がしたが、とにかくそういう話なのだ。

葉子を追わなかったから花鈴が生まれた(君はぼくの娘なんだ)、というのが川野の結論で、浩之は川野の行きつけの焼鳥屋に就職口を見つけて、という収め方にも反発したくなった。いや、なかなか面白い話なんだけどね。なんか文句付けたくなっちゃうんだな。

サブタイトルのLycorisは彼岸花(曼珠沙華)で、映画の中でもそれについては、説明していたし、種なし(球根で増える)だから川野に結びつけているのだけど、そういうことすべてがうるさいく思えてきてしまっていた。

物語をはじめるにあたって川野に「戯れですが」と念を押されてはいたけれど、最後になったら「さていかがでしたこんな物語。ではご油断なく」だとぉ。まあいいやどうでも。

2006年 119分 ビスタサイズ 配給:角川映画

監督・編集:大林宣彦 製作:鈴木政徳 エグゼクティブプロデューサー:大林恭子、頼住宏 原案:伊勢正三『22才の別れ』より 脚本:南柱根、大林宣彦 撮影:加藤雄大 美術:竹内公一 音楽:山下康介、學草太郎、伊勢正三 音楽プロデューサー:加藤明代 VFXプロデューサー:大屋哲男 監督補佐:南柱根 記録:増田実子 照明:西表灯光 録音:内田誠 助監督:山内健嗣

出演:筧利夫(川野俊郎)、鈴木聖奈(田口花鈴)、中村美玲(北島葉子)、窪塚俊介(浅野浩之)、寺尾由布樹(若き日の川野俊郎)、細山田隆人(相生)、岸部一徳、山田辰夫、立川志らく、斉藤健一、小形雄二、河原さぶ、中原丈雄、蛭子能収、左時枝、根岸季衣、南田洋子(団地の主婦)、峰岸徹(松島専務)、村田雄浩(花鈴の父)、三浦友和(杉田部長)、長門裕之(やきとり屋甚平主人)、清水美砂(藤田有美)

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

2007/09/02 新宿ミラノ1 ★★☆

■ヱヴァンゲリヲンて何なのさ

ヱヴァンゲリヲンが何なのかをまったく知らずに観たものだから、狐につままれたような状態のまま幕となった。何しろ「しと」が「使徒」だということがうまく頭に入らずにいたくらいなのだ(わかっても理解できていないのだが)。

セカンドインパクトとか第3新東京市って言われてもねー。昔のテレビ版の観客を対象にしていると言われてしまえばそれまでだけど、「新劇場版」と銘打って4部作として作り直したそうだから(これも見終わってから知ったのだ)、新しい観客のためにもう少しは説明してくれてもいいのではないか。それとも4部作を通せばすべてがわかるのだろうか。

ただ、内容的には嫌いではないので、わからないながらも楽しんで観てしまったのだけど。物語の流れは単純だから理解しやすいのだが、こういう作品は細部がどうしても知りたくなるのだな。

だから地下から超高層ビルのあらわれる第3新東京市というのがあまりに非現実的で、ちょっと引いてしまう。怪獣?(使徒)対怪物?(ヱヴァンゲリヲン)が東宝怪獣映画やウルトラマン路線の、巨大でかつ同スケール対決なのにも笑ってしまって、どういうわけか対戦場面では『大日本人』を思い出してしまったものだから困ってしまったのだ。シンジが何者かということを同級生までが知っているという部分も同じなんだもん。あと個人的には第3新東京市の上に陣取って地下攻撃を仕掛けるキューブのような物体に、手も足も出ないという設定もどうもね。

ヱヴァンゲリヲンを操縦できるのは特殊な能力が必要らしく(これもちゃんと説明してくれー)、でもそれが碇シンジというまだ14歳の少年で、実はヱヴァンゲリヲンの開発者が彼の父ゲンドウで、なんでもパイロットとして引っ張り出された時、その父とは3年ぶりの対面だったという、ずいぶんな話。

ヱヴァンゲリヲン初号機のパイロットがシンジと同級生の綾波レイという少女で、シンジのまわりには他にも女性ばかりが目に付くのは目をつぶるけど、こういうのもテレビ版と同じなのか。なのにシンジは「なんでぼくなんだ」「乗ればいいんでしょ」「怖い」ってずーっと言いまくっていた。彼が綾波の言動や同級生の励ましなどで変わっていくという成長物語なのはわかるが、この作品だけでは、ちょっとはしっかりしてくれよ、という気分になってしまう。

敵が不意に襲ってくる状況下なのに、普通に学校生活を送っているというのも妙だし(第3新東京市はそのために防災都市になっているようだが)、綾波に渡しそこねたIDカードをシンジが届けるというのもヘタクソすぎる挿話だ。

何にしても、人類補完計画、ヤシマ作戦、すべてはゼーレのシナリオ通りに、あと8体(そんなことがわかるのか)の使徒を倒さねば、などの言葉全部がわからないのだから、これ以上書いても笑われるだけのような気がしてきたので、ヤメ(でも次も観るぞ)。

  

2007年 98分 ビスタサイズ 配給:クロックワークス、カラー

監督:摩砂雪、鶴巻和哉 総監督・原作・脚本:庵野秀明 演出:原口浩 撮影監督:福士享 美術監督:加藤浩、串田達也 編集:奥田浩史 音楽:鷺巣詩郎 CGI監督:鬼塚大輔、小林浩康 キャラクターデザイン:貞本義行 テーマソング:宇多田ヒカル『Beautiful World』 メカニックデザイン:山下いくと メカニック作画監督:本田雄 効果:野口透 作画監督:松原秀典、黄瀬和哉、奥田淳、もりやまゆうじ 色彩設定:菊地和子 制作:スタジオカラー 総作画監督:鈴木俊二 特技監督:増尾昭一 新作画コンテ:樋口真嗣、京田知己

声の出演:緒方恵美(碇シンジ)、三石琴乃(葛城ミサト)、山口由里子(赤木リツコ)、林原めぐみ(綾波レイ)、立木文彦(碇ゲンドウ)、清川元夢(冬月コウゾウ)、結城比呂(日向マコト)、長沢美樹(伊吹マヤ)、子安武人(青葉シゲル)、麦人(キール・ローレンツ)、関智一(鈴原トウジ)、岩永哲哉(相田ケンスケ)、岩男潤子(洞木ヒカリ)、石田彰(渚カヲル)