初雪の恋 ヴァージン・スノー

2007/05/27  TOHOシネマズ錦糸町-7 ★

■京都名所巡り絵葉書

陶芸家である父の仕事(客員講師として来日)の都合で韓国から京都にやってきた高校生のキム・ミン(イ・ジュンギ)は、自転車で京都巡りをしていて巫女姿の佐々木七重(宮﨑あおい)に出会って一目惚れする。そして彼女は、ミンの留学先の生徒だった。

都合はいいにしてもこの設定に文句はない。が、この後の展開をみていくと、おかしくないはずの設定が、やはり浮ついたものにみえてくる。これから書き並べるつもりだが、いくつもある挿話がどれも説得力のないものばかりで、伴一彦(この人の『殴者』という映画もよくわからなかったっけ)にはどういうつもりで脚本を書いたのか訊いてみたくなった。それに、ほとんどミンの視点で話を進めてるのだから、脚本こそ韓国人にすべきではなかったか。

ミンは留学生という甘えがあるのか、お気楽でフラフラしたイメージだ。七重の気を引こうとして彼女の画の道具を誤って川に落としてしまう。ま、それはともかく、チンドン屋のバイトで稼いで新しい画材を買ってしまうあたりが、フラフライメージの修正は出来ても、どうにも嘘っぽい。バイトは友達になった小島康二(塩谷瞬)の口添えで出来たというんだけどね。

他にも、平気で七重を授業から抜け出させたりもするし(出ていった七重もミンのことがすでに好きになっているのね)、七重が陶器店で焼き物に興味を示すと、見向きもしなかった陶芸をやり出す始末(ミンが焼いた皿に七重が絵をつける約束をするのだ)。いや、こういうのは微笑ましいと言わなくてはいけないのでしょうね。

七重が何故巫女をしていたのかもわからないが、それより彼女の家は母子家庭で、飲んだくれの母(余貴美子)がヘンな男につけ回され、あげくに大騒動になったりする。妹の百合(柳生みゆ)もいるから相当生活は大変そうなのに、金のかかりそうな私立に通っているし、しかも七重は暢気に絵なんか描いているのだな。

結局、母の問題で、七重はミンの前から姿を消してしまうのだが、いやなに、そのくらい言えばいいじゃん、って。ま、あらゆる連絡を絶つ必要があったのかもしれないのでそこは譲るが、その事情を書いたお守りをあとで見てと言われたからと飛行機では見ずに(十分あとでしょうに)、韓国で祖母に私のお土産かい、と取られてしまう、ってあんまりではないか。メッセージが入っているのは知っていてだから、これは罪が重い。

2年後に七重の絵が日韓交流文化会で入選し、2人は偶然韓国で再会するのだが、少なくてもミンがあのあと日本にいても意味がないと2学期には帰ってしまったことを友達の香織(これも偶然の再会だ)からきいた時点で、ミンに連絡することは考えなかったのか(学校にきくとか方法はありそうだよね)。ミンがすぐ韓国に帰ってしまったのもちょっとねー。それに七重が消えたことで、よけいお守りのことが気になるはずなのに。

再会したものの以前のようにはしっくりできない2人。なにしろ言葉が不自由だからよけいなんだろうね。ミンは荒れて七重の描いた絵は破るし、七重に絵を描いてもらうつもりで作っていた大皿も割ってしまう。お守りの中の紙を見た祖母が(この時を待ってたのかや)、これはお前のものみたいだと言って持ってくる(簡単だが「いつか会える日までさようなら」と七重の気持ちがわかる内容だ)。

ミンは展覧会場に急ぐが、七重の姿はなく、彼女の絵(2人で回った京都のあちこちの風景が描かれたもの)にはミンの姿が描き加えられていた。しかし、これもどうかしらね。夜中の美術館に入って入選作に加筆したら、それは入選作じゃあなくなってしまうでしょ。まったく。自分たちの都合で世界を書き換えるな、と言いたくなってしまうのだな。

ミンは七重を追うように京都に行き、七重が1番好きな場所といっていたお寺に置いてあるノートのことを思い出す。そこには度々七重が来て、昔2人で話し合った初雪デート(をすると幸せになるという韓国の言い伝え)のことがハングルで書いてあり、ソウルの初雪にも触れていた。

そして、ソウルに初雪が降った日に2人は再会を果たす。

難病や死といううんざり設定は避けていても、こう嘘くさくて重みのない話を続けられると同じような気分になる。まあ、いいんだけどさ、どうせ2人を見るだけの映画なのだから。と割り切ってはみてもここまでボロボロだとねー。言葉の通じない恋愛のもどかしさはよく出ていたし、京都が綺麗に切り取られていたのだが。

【メモ】

初級韓国語講座。ジャージ=チャジ(男根)。雨=ピー。梅雨=チャンマ。約束=ヤクソク。

韓国式指切り(うまく説明できないのだが、あやとりをしているような感じにみえる)というのも初めて見た。

七重の好きな寺にいる坊さんとミンが自転車競争をしたのが、物語のはじまりだった。

2006年 101分 ビスタサイズ 日本、韓国 日本語版字幕:根本理恵 配給:角川ヘラルド映画

監督:ハン・サンヒ 製作:黒井和男、Kim Joo Sung、Kim H.Jonathan エグゼクティブ・プロデューサー:中川滋弘、Park Jong-Keun プロデューサー:椿宜和、杉崎隆行、水野純一郎 ラインプロデューサー:Kim Sung-soo 脚本:伴一彦 撮影:石原興 美術:犬塚進、カン・スン・ヨン 音楽:Chung Jai-hwan 編集:Lee Hyung-mi 主題歌:森山直太朗

出演:イ・ジュンギ(キム・ミン)、宮﨑あおい(佐々木七重)、塩谷瞬(小島康二)、森田彩華(厚佐香織)、柳生みゆ(佐々木百合)、乙葉(福山先生)、余貴美子(佐々木真由美)、松尾諭(お坊さん)

俺は、君のためにこそ死ににいく

楽天地シネマズ錦糸町-2 ★★

■靖国で会おう

戦争について語るのは気が重い。ましてや特攻となるとなおさらで、まったく気が進まないのだが……(実は映画もそんなには観たくなかった)。

この映画の最大の話題は、やはり製作総指揮と脚本に名前の出る石原慎太郎だろう。タカ派として知られる石原が戦争映画を作れば、戦争肯定映画になると考える人がまだいるようだが、それはあまりに短絡すぎる。新聞の読者欄にもそういう投書を見かけたが、的外れで自分の結論を押しつけたものでしかなく、かえって見苦しさを感じた。

私は石原嫌いだが、しかし石原であっても特攻を正面から描いたら、真反対の立場の人間が作ったものとそう違ったものは出来まいと思っていたが、この想像は外れてはいなかった。ちゃんとした反戦映画になっているのである。

といって映画として褒めらるものかどうかはまったく別の話で、まあ凡作だろう。

太平洋戦争末期に陸軍の特攻基地となった鹿児島県の知覧。基地のそばの富屋食堂の女将鳥濱トメは、若い特攻隊員たちから母と慕われていた。生前の彼女から話を聞く機会を得た石原が長年あたためてきた作品ということもあって、彼女を中心にした話が大部分を占める。が、何人もの挿話を配したそれは、やはりとりとめのないものになってしまっていた。

何度も出撃しながら整備不良や悪天候で帰還せざるを得ず、最後は本当に飛び立った直後に墜落してしまう田端(筒井道隆)、長男故に父親に特攻を志願したことを言えず、トメ(岸惠子)に父(寺田農)への伝言を頼みにくる板東(窪塚洋介)、朝鮮人という負い目を持ちながらトメの前ではアリランを歌って志願し出撃して行った金山(前川泰之)など、どれもおろそかに出来ない挿話ながら、逆に焦点が絞りきれていない。

そこに、この特攻作戦を立案した大西中将(伊武雅刀)などの特攻を作戦にしなければならなかった事情などもとりあえずは入れて、となっているからよけいそうなってしまう。また、先の挿話も、映画にすることで私などどうしても鬱陶しさを感じざるをえないし、だれてしまうのである。

そうはいっても私の観た映画館では館内の至るところで啜り泣きの声がもれていたから、多くの観客の心に訴えていたのだろうと思われる。

ただ、最後にある、先に特攻で死んでいった人たちが生き残って軍神から特攻くずれになった中西(徳重聡)を出迎える演出や、蛍になって帰ってくるといっていた河合(中村友也)の挿話などは、やはり古臭いとしか思えない。それがトメから聞いた話そのままだとしても、映画にするにはもう一工夫が必要ではないか。

この映画に石原らしさがあるとすれば「靖国で会おう」だろうか(「靖国で待ってる」というセリフもあった)。ある時期まで戦争映画では「天皇陛下万歳」と言いながら兵士は死んでいったらしい(そう言われるとそうだったような)。しかしそれは嘘で「お母さん」と言っていたのだと誰かが批判し(誰なんだろ)、そうだそうだとなったようだが、本当にそうなのか。というより、どちらにも真実があって、それをとやかくいってもはじまらない気がする。それに、死ぬ時に本心を言うかといえば、人間はそんなに単純なものでもないだろうから。

ではあるが、「靖国で会おう」となると話は少し違ってくる。もちろんこれだって否定はしないが、中国や韓国からいろいろ言われるのが石原としては癪なんだろう。ま、私などはそもそも無神論者であるし、靖国神社自体にどうこういう思い入れもないので、靖国参拝問題以前からあっさりしたものなのだが、とはいえ、これについては書き出すと長くなるのでやめておく。

やはりここはせっかく鳥濱トメに焦点を当てたのだから、彼女の目線だけで特攻を語ってほしかった。いままでにも何度か映画にも登場している大西中将などをもってきて概要を述べさせるよりは、庶民にとって特攻がどういうふうに認知されていたかだけを描くだけでも(そうすれば何を知らされなかったかもわかる)、十分映画になったと思うのだ。

でなければ、逆に戦後明らかになった統計データで、特攻の犬死度の高さ(成功率の低さ)をはっきりさせるか、富永恭次陸軍中将のような敵前逃亡将校による特攻作戦があったことなどを描くというのはどうだろうか。

ところで『俺は、君のためにこそ死ににいく』という題名もなんだかあやふやだ。ここにある「君」は何で、映画の中にあったのかどうか。

 

【メモ】

VFX場面は上出来。本物の設計図から作ったという隼も大活躍していた。

2007年 140分 ビスタサイズ 配給:東映

監督:新城卓 製作総指揮:石原慎太郎 企画:遠藤茂行、高橋勝 脚本:石原慎太郎 撮影:上田正治、北澤弘之 特撮監督:佛田洋 美術:小澤秀高 音楽:佐藤直紀 主題歌:B’z『永遠の翼』 監督補:中田信一郎
窶ソr
出演:岸惠子(鳥濱トメ)、徳重聡(中西正也少尉)、窪塚洋介(板東勝次少尉)、筒井道隆(田端絋一少尉)、多部未華子(鳥濱礼子/トメの娘)、前川泰之(金山少尉)、中村友也(河合惣一軍曹)、渡辺大(加藤伍長)、木村昇(安部少尉)、蓮ハルク(松本軍曹)、宮下裕治(石倉伍長)、田中伸一(荒木少尉)、古畑勝隆(大島茂夫)、中越典子(鶴田一枝)、桜井幸子(板東寿子)、戸田菜穂(田端良子)、宮崎美子(河合の母)、寺田農(板東真太次)、勝野雅奈恵(鳥濱美阿子)、中原丈雄(憲兵大尉)、遠藤憲一(川口少佐)、江守徹(田端由蔵)、長門裕之(大島の祖父)、石橋蓮司(鶴田正造)、勝野洋(東大佐)、的場浩司(関行男海軍大尉)、伊武雅刀(大西瀧治郎中将)