リーピング

新宿ミラノ1 ★☆

■映画でなくチラシに脱帽

映画でなく、映画のチラシの話をしたら笑われちゃいそうなんだが、「イナゴ少女、現る。」のコピーはともかく、「虫とか出しちゃうよ」というのにはまいりました。うはぁ、これはすごい。作った人を褒めたくなっちゃうな。

って、どうでもいい話から入ったのは、そう、特に新鮮味のない映画だったってことなんだけど。でもまあ、今は映像的なチャチさがそうは目立たないから(よくできているのだ)、画面を見ている分には退屈はしないのだな。

ルイジアナ州立大学教授のキャサリン(ヒラリー・スワンク)は、かつてはキリスト教の宣教師としてスーダンで布教活動をしていたこともあるが、布教中に夫と娘を亡くしたことから信仰から遠ざかり、今では無神論者として世界中で起きている「奇跡」を科学的な調査で解き明かすことで有名になっていた。

そんな彼女に、ヘイブンというルイジアナの小さな町で起きている不可解な事件の調査依頼が、ダグ(デヴィッド・モリッシー)という地元の数学と物理の教師から舞い込む。キャサリンはベン(イドリス・エルバ)とまず流れが血に変わってしまったという川を調べはじめるのだが、そこに大量の蛙が降ってくる……。

このあとも出エジプト記にある10の災厄が次々に起こる。ぶよ、あぶ、疫病、腫れ物、雹、イナゴ、闇、初子の死、というのは聖書の写しだが、映画でもほとんど同じような展開となる。映像的には、血の川というのが、何ということはないのだが意外なインパクトがある。逆に1000,000,000匹(これもチラシだけど、よく勘定したもんだ)のイナゴや最後の火の玉が落ちてくる天変地異はどうでもよくって、でもBSEで刷り込まれてしまっているのかもしれないが、へたれこむ牛や、牛の死体を燃やしている場面などは単純に怖い。

出エジプト記では10の災厄はエジプト王に神の存在を知らしめ、イスラエルの民をエジプトから去らせるためのものだったと思うが、ここではキャサリンに信仰心を取り戻させようとしているのか。一定の条件で有毒になる微生物などで超常現象を証明しようとしたり、聖書を持ち出すのはやめて、と言っていたキャサリンだが、分析の結果、川の血は本物で、20~30万人分の血が必要だという事実の前にはあっさりそれを認めるしかなかったのか。兄のブロディ(マーク・リンチ)を殺害した(このことがあって川の水が血になったらしい)というローレン(アンナソフィア・ロブ)に触れたとたん、いろいろなイメージをキャサリンが感じとったからなのか。また、ブロディのミイラ化がどうしても証明できなかったからか。

超常現象の原因と町の人々から決めつけられたローレンは、母親のマディ(アンドレア・フランクル)からも見放されているのだが(キャサリンは娘を殺してと言われるのだ。でもこの母親は何故か自殺してしまう)、娘を救えなかったことがトラウマとなっていたキャサリンは、ローレンに死んだ娘のイメージを重ね、結局このことがローレンを救う契機になるのだが、ってつまりローレンは災いの元ではなくて、町の人たちの方が悪魔崇拝者だったのね。

だとすれば超常現象はやはり神が起こしたものとなる。では何故? 悪魔崇拝者たちの目を覚まさせるためなのか。イナゴはローラを守るためとも思えなくはないが、火の玉は、ベンを殺した悪魔のダグの仕業のようでもあって何が何だかわからない(聖書には火の玉などないからこれは悪魔の反撃なのか)。

そして、キャサリンとローレンは生き残り、家族として生きる決意をするのだが、キャサリンのお腹には男の子が宿っていて、第2子はサタンになるという……。何だ、これだと『ローズマリーの赤ちゃん』ではないか(それとも続篇でも作る気か)。ダグが悪魔とすると、事件の究明のためにキャサリンを呼び寄せた意味がよくわからないのだが、このためもあったとか(もしくはスーダンのコスティガン牧師の死に繋がる因縁でもあるのだろうか)。

そういえばキャサリンがダグと打ちとけてお互いの家族のことを話す場面で、キャサリンは夫と娘がスーダンで生贄になり、神を恨んだらはじめて眠れたと語っていた。そして、そのあとキャサリンはダグとセックスするのだが、なるほど、あのセックスはあの時、キャサリンは神を捨て悪魔と結託したという意味があったのだろうか。

ローレンは第2子(だから初子のブロディは死んだのだ。ってそれもひどいが)で、無事に思春期を過ぎた子はサタンに生まれ変わるというような説明もあったのはそういうことだったのね。そして、キャサリンによって悪魔でなくなった、と(とはいえ、これだと町の人から嫌われるのがわからなくなる)。あと、ダグはもちろん悪魔だったのだろうが、初子としても死ぬ運命だったということなのか。もう1度観たら少しはすっきりしそうなんだが、そんな気にはならないんでした。はは。

【メモ】

チラシでは、Reapingを1.刈り取り 2.善悪の報いをうけること 3.世界の終末における最後の審判、と説明されている。

原題:The Reaping

2007年 100分 シネスコサイズ アメリカ 配給:ワーナーブラザース 日本語字幕:瀧の瀬ルナ

監督:スティーヴン・ホプキンス 製作:ジョエル・シルヴァー、ロバート・ゼメキス、スーザン・ダウニー、ハーバート・W・ゲインズ 製作総指揮:ブルース・バーマン、エリック・オルセン、スティーヴ・リチャーズ 原案:ブライアン・ルーソ 脚本:ケイリー・W・ヘイズ、チャド・ヘイズ 撮影:ピーター・レヴィ プロダクションデザイン:グレアム・“グレイス”・ウォーカー 編集:コルビー・パーカー・Jr. 音楽:ジョン・フリッゼル
 
出演:ヒラリー・スワンク(キャサリン・ウィンター)、デヴィッド・モリッシー(ダグ)、 イドリス・エルバ(ベン)、アンナソフィア・ロブ(ローレン・マッコネル)、ウィリアム・ラグズデール(シェリフ・ケイド)、スティーヴン・レイ(コスティガン神父)、アンドレア・フランクル(マディ・マッコネル)、マーク・リンチ(ブロディ・マッコネル)、ジョン・マコネル(ブルックス/町長)

歌謡曲だよ、人生は

シネマスクエアとうきゅう ★★

■オムニバスとしては発想そのものが安直

[オープニング ダンシング・セブンティーン(歌:オックス)] 阿波踊りの映像で幕が開く。

[第一話 僕は泣いちっち(歌:守屋浩)] 東京が「とんでもなく遠く」しかも「青春は東京にしかな」かった昭和30年代の北の漁村から沙恵(伴杏里)を追うようにして真一(青木崇高)も東京に出るが、歌劇部養成所にいる沙恵は彼に冷たかった。ボクシングに賭ける真一。が、2人には挫折が待っていた。設定も小道具も昔の映画を観ているような内容で、作り手もそこにこだわったのだろうが、それだけの印象。

[第二話 これが青春だ(歌:布施明)] エアギターに目覚めた大工見習いの青年(松尾諭)が、一目惚れした施工主の娘(加藤理恵)を、出場することになったエアギター選手権に招待する。しかし、掃除のおばさんのモップが偶然にも扉を押さえたことで、青年は会場のトイレから出られなくなり、娘にいい格好を見せることが出来ずに終わる(公園でも閉じこめられてしまうという伏線がある)。選手権の終わった誰もいない舞台で1人演じ、掃除のおばさんに拍手してもらって、これが青春だ、となる。エアギター場面で『これが青春だ』の元歌がかかるわけではないから、題名オチの意味合いの方が強い。これも皮肉か。

[第三話 小指の想い出(歌:伊東ゆかり)] 中年男(大杉漣)が若い娘(高松いく)とアパートで暮らしているというどっきり話だが、実はその娘はロボットだった。うーん、それにこれはとんでもなく前に読んだ江口寿のマンガにあったアイディアと同じだし、イメージでも負けているんではないかと。

[第四話 ラブユー東京(歌:黒沢明とロス・プリモス)] 原始時代から現代の渋谷に飛ぶ、わけわからん映画。石を彫っている男に惚れた女。渋谷にいたのもその太古の昔に噴火で別れた2人なのか。つまらなくはないが、もう少し親切に説明してくれないと頭の悪い私にはゴマカシとしか受け取れない。

[第五話 女のみち(歌:宮史郎)] 銭湯のサウナ室に入ってきたヤクザ(宮史郎)が『女のみち』を歌っていて歌詞が出てこなくなり、学生(久野雅弘)を無理強いして一緒に歌詞を思い出させようとする。ヤクザには好きな女がいて、刑務所にいた6年間、週2回も来てくれたので彼女の誕生日に歌ってやりたいのだという。いやがっていた学生もその気になって……。最後は思い出した歌詞を銭湯にいる全員で歌う。さっぱりとした気分になって外に出ると、そこには和服姿の女がいて、「待たせたな」と声をかけたヤクザと一緒に去っていく。当の歌手に、歌詞が思い出せなくなるというギャグをやらせているのも面白いが、とにかく必死で歌詞を思い出そうと、いや、コメディを作ろうとしているのには好感が持てた。

[第六話 ざんげの値打ちもない(歌:北原ミレイ)] 不動産屋の女(余貴美子)がアパートに若い男を案内してくる。それをバイクに乗った若い女が遠くから見ている。女は2人に自分の過去を重ね合わせているのだろうか。そこへ昔の男が訪ねてきて、海岸の小屋で乱暴されたことで、男を刺してしまう。アパートに戻ると、若い女が自分と同じような行動をとろうとしていて、女はそれを押しとどめる。雰囲気は出ているんだけど、やはり省略された部分が知りたくなる。

[第七話 いとしのマックス/マックス・ア・ゴーゴー(歌:荒木一郎)] デザイン会社に勤める沢口良子(久保麻衣子)は、今日も3人の同僚の女に地味だとか存在が無意味と因縁をつけられていた。いじめはエスカレートし、屋上で服を剥ぎ取られてしまう。それを見ていた一郎(武田真治)の思いが爆発する。真っ赤な服を持って下着姿の女の所に駆けつけ、好きなんだと言ったあと、公園(なんで公園なんだ)で制作中のポスター(だっせー)を検討をしている同僚たちに「君たち、沢口さんに失礼なんだよ」と言いながら殴り(ついでに上司の男も)、全員を血祭りに上げてしまう。蛭子能収監督のマンガ(も画面に入る)そのものといった作品。映画も自分のマンガと同じ作風にしているのはえらい(だからマンガのカットはいらないでしょ。ちょっとだが、この分だけ遠慮してたか)。

[第八話 乙女のワルツ(歌:伊藤咲子)] 喫茶店のマスター(マモル・マヌー)が1人で麻雀ゲームをしていると、常連が女性とやって来て彼女だと紹介する。女性に昔の彼女の面影をみ、バンドを組んでいた遠い昔の「つらいだけだった初恋」を思い出す。彼が心惹かれていたリカは若くして死んでしまったのだ。昔の想いにひたっていたマスターだったが、女房の声に現実に引き戻される。凡作。というかこのひねりのなさが現在のマスターそのものなんだろう。

[第九話 逢いたくて逢いたくて(歌:園まり)] これはちゃんとした映画になっていた。カラオケ用映像ではないのだから、他もこのくらいのレベルで勝負してほしいところだ。アパートに越してきたばかりの鈴木高志(妻夫木聡)は、ゴミ置き場から文机を拾ってくるが、これは前の住人五郎丸(ベンガル)が粗大ゴミとして出したものだった。妻の恵美(伊藤歩)に止められながらも、高志は引っ越しの手伝いにきた仲間と、机の中にあった大量の手紙を読んでしまう。手紙は梅田さち子という女性に五郎丸が出したもので、宛先不明で戻ってきてしまったものだった。みんなで、こいつはストーカーだと決めつけたところにその五郎丸が挨拶をしておきたいとやってきて、机をあわてて隠す高志たち……。前の住人と引っ越してきた人間は普通顔を会わせることはないだろうと思うのだが、でもこの場面はおっかしい。ウーロン茶をごちそーになったお礼を言って、思い出が多すぎてつらいという場所から、五郎丸はやってきたトラックで去って行くのだが、入れ違いで梅田さち子からの葉書が舞い込み、全員で五郎丸を追いかけるという感動のラストシーンになる。この追っかけが気持ち長いのだけど、尺がないながらうまくまとめている。

[第十話 みんな夢の中(歌:高田恭子)] 同窓会に集まった人たちが小学校の校庭で40年前のタイムカプセルを掘り出す。思い出の品に混じって8ミリフィルムも入っていた。遅れてやって来た美津江(高橋惠子)も一緒になって、さっそく上映会が開かれる。案内役のピエロから演出まで、すべてにうんざりしてしまう内容と構成だった。

[エンディング 東京ラプソディ(歌:渥美二郎)] 藤山一郎でないとしっくりこないと思うのは人間が古いのか。瀬戸朝香扮のバスガイドと一緒にはとバスで東京をまわる。歌詞付き画面だから完全にカラオケ映像だ。

 

2007年 130分 ビスタサイズ PG-12 配給:ザナドゥー

製作: 桝井省志 プロデューサー:佐々木芳野、堀川慎太郎、土本貴生 企画:沼田宏樹、迫田真司、山川雅彦 音楽プロデューサー:和田亨
[オープニング]撮影:小川真司、永森芳伸 編集:宮島竜治
[第一話]監督・脚本:磯村一路 撮影:斉藤幸一 美術:新田隆之 編集:菊池純一 音楽:林祐介 出演:青木崇高、伴杏里、六平直政、下元史朗
[第二話]監督・脚本:七字幸久 撮影:池内義浩 編集:森下博昭 音楽:マーティ・フリードマン、荒木将器 出演:松尾諭、加藤理恵、池田貴美子、徳井優、田中要次
[第三話]監督・脚本:タナカ・T 撮影:栢野直樹 編集:森下博昭 出演:大杉漣、高松いく、中山卓也
[第四話]監督・脚本:片岡英子 撮影:長田勇市 編集:宮島竜治 出演:正名僕蔵、本田大輔、千崎若菜
[第五話]監督・脚本:三原光尋 撮影:芦澤明子 編集:宮島竜治 音楽:林祐介 出演:宮史郎、久野雅弘、板谷由夏
[第六話]監督・脚本:水谷俊之 撮影:志賀葉一 美術:新田隆之 編集:菊池純一 出演:余貴美子、山路和弘、吉高由里子、山根和馬
[第七話]監督・脚本:蛭子能収 撮影:栢野直樹 編集:小林由加子 音楽:林祐介 出演:武田真治、 久保麻衣子、インリン・オブ・ジョイトイ、矢沢心、希和、長井秀和
[第八話]監督・脚本:宮島竜治 撮影:永森芳伸 美術:池谷仙克 編集:村上雅樹 音楽:林祐介 音楽:松田“ari”幸一 出演:マモル・マヌー、内田朝陽、高橋真唯、山下敦弘、エディ藩、鈴木ヒロミツ、梅沢昌代
[第九話]監督・脚本:矢口史靖 撮影:柴主高秀 編集:森下博昭 出演:妻夫木聡、伊藤歩、ベンガル、江口のりこ、堺沢隆史、寺部智英、小林トシ江
[第十話]監督・脚本:おさだたつや 撮影:柴主高秀 編集:菊池純一 音楽:林祐介 出演:高橋惠子、烏丸せつこ、松金よね子、キムラ緑子、本田博太郎、田山涼成、北見敏之、村松利史、鈴木ヒロミツ
[エンディング]監督・脚本:山口晃二 原案:赤松陽構造 撮影:釘宮慎治 編集:菊池純一 出演:瀬戸朝香、田口浩正