ゲゲゲの鬼太郎

新宿ミラノ1 ★★☆

■『ゲゲゲの鬼太郎』というより『水木しげるの妖怪図鑑』か

妖怪ポスト経由で鬼太郎(ウエンツ瑛士)に届いた手紙は小学生の三浦健太(内田流果)からのものだった。健太の住む団地に妖怪たちが出るようになって住民が困っているという。鬼太郎が調べると、近くで建設中のテーマパーク「あの世ランド」の反対派をおどかすために、ねずみ男がバイトで雇った妖怪たちをけしかけていたのだった。

しかしこれは反対派へのいやがらせにはなっていても、稲荷神社の取り壊しによるお稲荷さんの祟りと喧伝されてしまいそうだから、「あの世ランド」側としては逆効果だと思うのだが。ま、どっちみちこのテーマパークの話はどこかへすっ飛んでしまうから関係ないんだけどね。

鬼太郎に儲け話を潰されたねずみ男は、その稲荷神社でふて寝しようとして奥深い穴に吸い込まれてしまう。そして、そこに封印されていた不思議な光る石を見つける。実はこれは人間と妖怪の邪心が詰まっている妖怪石と呼ばれるもので、修行を積んだ妖怪が持てばとてつもない力を得られるが、心の弱い者には邪悪な心が宿ってしまうのだ。

そんなことを知らないねずみ男は、少しでも金になればと妖怪石を質入れしてしまうのだが、そこに偶然来ていた健太の父(利重剛)は、工場をリストラされて困っていたのと妖怪石の魔力とで、それを盗んでしまう。

父が健太に妖怪石を預けたことで健太に魔の手が伸び、彼の勇気が試される。また、妖怪界では、妖怪石の力を手に入れようとする妖怪空(橋本さとし)の暗躍と、妖怪石の盗難の嫌疑が鬼太郎にかかって大騒動になっていくのだが、話の展開はかなりいい加減なものだ。

ねずみ男に簡単に持ち出されてしまう妖怪石の設定からして安直なのだが、それが健太の父の手に渡ってと、妖怪界を揺るがす大事件にしては狭い狭い世界での話で、でも一応、少年を準ヒーローにしているあたりは(だから世界が小さいのだけど)子供向け映画の基本を押さえている。

ただ死んだ父まで助け出してしまうのはねー(そもそもこの死は唐突でよくわからない。病気で死んだ、って言われてもね)。「健太君の願いが乗り移った」という説明は意味がないし、子供映画にしてもずいぶん馬鹿にしたものではないか。他にも沢山いた死者の行列の中から健太の父だけというのはどうなんだろ。父の釈明も釈明になっていなくて、ここはどうにも釈然としないのだな。

鬼太郎は健太の姉の三浦実花(井上真央)にちょっと惚れてしまい、猫娘(田中麗奈)の気をもませることになるが、これは妖怪界の定め(人間は死んでしまうから惚れてはいけないと言っていた)で、事件が片づいたあと、実花からは鬼太郎の記憶が消えてしまう。

この話もだが、妖怪たちが善と悪とに分かれて戦いながらも、結末はどこまでもユルイ感じで、いかにも水木しげる的世界なのだ。まあ、水木しげるの妖怪たちを配置したのなら、そうならざるを得ないのだろうけど。

それに、1番の見所はその妖怪たちなのだ。大泉洋のねずみ男を筆頭に、そのキャスティングと造型は絶妙で、子供映画ながらこの部分では大人の方が楽しめるだろう。猫娘、子泣き爺、砂かけ婆、大天狗裁判長などのどれにも納得するはずだ。それはまったくのCGでも同じで、石原良純の見上げ入道ならまあ想像はつくが、石井一久のべとべとさんには感心してしまうばかりなのだ。水木しげるの妖怪画というのは、1ページに妖怪の絵と解説があって、図鑑のような趣があったけど、この映画もそれを踏襲した感じで観ることができるというのが面白い。

唯一まるで違うイメージなのがウエンツ瑛士の鬼太郎だが、演技はうまいとは言い難いものの、意外にも違和感はなかった。惜しげもなく髪の毛針を打ち尽くしてしまい、堂々の禿頭を披露しているのだが、あれ、でも片目ではないのね。さすがにそこまではダメか。だからほとんど目玉おやじとは別行動だったのかもね。

 

【メモ】

妖怪石には、滅ぼされた悪しき妖怪の幾千年もの怨念だけでなく、平将門、信長、天草四郎などの人間の邪心までも宿っているという。

父の釈明は「泥棒したっていう気はないんだ。これだけは信じてくれ、間が刺したんだ。
弱い心につけ込まれたんだ」というもの。もちろんこれではあんまりだから「でもやってしまったことはしょうがない」とは言わせているのだが。

映画の中で鬼太郎が何度か言っていたのは、「そんなにしっかりしなくてもいいんじゃない、泣きたい時は泣いちゃえば」とか「悪い人だけじゃないんだから思いっ切り甘えろ」というもの。

2007年 103分 ビスタサイズ 配給:松竹

監督:本木克英 製作:松本輝起・亀山千広 企画:北川淳一・清水賢治 エグゼクティブプロデューサー:榎望 プロデューサー:石塚慶生・上原寿一アソシエイトプロデューサー:伊藤仁吾 原作:水木しげる 脚本:羽原大介 撮影:佐々木原保志 特殊メイク:江川悦子 美術:稲垣尚夫 衣装デザイナー:ひびのこづえ 編集:川瀬功 音楽:中野雄太、TUCKER 音楽プロデューサー:安井輝 主題歌:ウエンツ瑛士『Awaking Emotion 8/5』VFXスーパーバイザー:長谷川靖 アクションコーディネーター:諸鍛冶裕太 照明:牛場賢二 録音:弦巻裕

出演:ウエンツ瑛士(ゲゲゲの鬼太郎)、内田流果(三浦健太)、井上真央(三浦実花/健太の姉)、田中麗奈(猫娘)、大泉洋(ねずみ男)、間寛平(子泣き爺)、利重剛(三浦晴彦/健太の父)、橋本さとし(空狐)、YOU(ろくろ首)、小雪(天狐)、神戸浩(百々爺)、中村獅童(大天狗裁判長)、谷啓(モノワスレ)、室井滋(砂かけ婆)、西田敏行(輪入道)
 
声の出演:田の中勇(目玉おやじ)、柳沢慎吾(一反木綿)、伊集院光(ぬり壁)、石原良純 (見上げ入道)、立川志の輔(化け草履)、デーブ・スペクター(傘化け)、きたろう(ぬっぺふほふ)、石井一久(べとべとさん)、安田顕(天狗ポリス)