蟲師

新宿ミラノ2 ★★☆

■面白い映像のようには見えてこない蟲

大友克洋には2003年に『スチームボーイ』があったが、実写となると『ワールド・アパートメント・ホラー』以来で、実に15年ぶりになるという。自作ではなく、わざわざ漆原友紀の作品を借りてというあたりに、余計期待してしまったのだが、原作を知らない者にはついていくのがやっとの、ちょっとやっかいな作品だった。

物語はかなり変わったもので、説明が難しいのだが、公式サイトには次のように書かれている。

100年前、日本には「蟲」と呼ばれる妖しき生き物がいた。それは精霊でも幽霊でも物の怪でもない、生命そのものであり、時に人間にとりつき、不可解な自然現象を引き起こす。蟲の命の源をさぐりながら、謎を紐解き、人々を癒す能力を持つ者は「蟲師」と呼ばれた。

白髪で、左が義眼ギンコ(オダギリジョー)もその蟲師のひとり。何故旅をしているのかよくわからないのだが、旅先で耳を患っている3人を治してお代をもらっていたから、それで生計を立てているのだろうか。庄屋の夫人(りりい)にその腕をかわれ、彼女の孫で4本の角が生えてしまった真火(守山玲愛)を診るギンコ。

この一連の治療は導入部といったところで、蟲や蟲師の説明を兼ねているのだが、とはいえ説明はさっぱりだ。「阿」だか「吽」とかいう音を食う蟲は、普通は森に住んでいるが、雪は音を吸収するので村に降りてきたらしいと言われてもねー。巻き貝のような蟲が触手を伸ばす映像には不思議な感覚が詰まっていて、普通の人間には本来見えないものの具現化ではかなり成功しているのだが、架空の話であるし、だから映画の中の人間はその存在を認めているようなのだが、普通の人間としてはやはり納得のいく説明がほしいのだ。

庄屋をあとにしたギンコは、虹郎(大森南朋)と知り合う。彼は、幼い頃、父親と一緒に見た虹蛇という蟲を捕まえようとしていた。と言われてもはぁと言うしかないのだが、2人のところに、文字で蟲封じをしている淡幽(蒼井優)の身体に異変が起きているという知らせが入る。

ギンコが淡幽を助ける場面は、淡幽が巻物に封じた文字が滲みだす部分など、不可思議な雰囲気がよく出た素晴らしいものになっている。ただ何度も言うように、いくら説明されてもちっとも頭に入ってこないのだ。

淡幽の乳母のたま(李麗仙)によると、ぬいという蟲師(江角マキコ)の話を淡幽が記録していて急に体調を崩したという。その巻物を調べるギンコだが、ぬいの語ったヨキ(稲田英幸)という少年の部分を読んでいると、ギンコの体からもトコヤミという蟲があらわれる。理解出来ていないからうまく説明できないのだが、とにかくギンコはたまと虹郎の手を借りて淡幽をなんとか元に戻すのだが、自身が蟲に憑かれて倒れてしまう。そして今度は、救われた淡幽がギンコのために、彼に取り憑いた蟲(文字)を巻物に戻す作業をはじめる。

ギンコは意識を取り戻すが、まるで生気を失っていた。虹郎はギンコを連れ、身体に効くという命の源の光酒を求めて旅に出る。とはいうもののギンコは次第に快復していくし、「たまたま歩く方角が一緒なだけ」だからなのか、2人の関係が何かを明かすというようにはなっていない(多分)。虹郎は橋大工になる夢を語り、ギンコは淡幽に対する仄かな恋心を打ち明けるが、虹蛇らしきものを見たことで(捕まえて持って帰ると言ってたのに)、唐突な(観客にとっては)別れがやってくる。この時虹郎は、いつかギンコが淡幽を伴って自分の里を訪ねてくる、というようなことを叫ぶのだが。

ギンコはこのあとぬいに会い、自分の正体がヨキであることを知り(なんだよね?)、石のようになったぬいに薬をかけるのだが、これで彼女がどうなったのか。淡幽の病気もヨキの話からであるならトコヤミが原因で、それがギンコに取ってかわったようにみえた(代わるというよりはギンコの中のトコヤミが反応したのだろうか)のだが、この最後はさらにわからない。

魅力的な映像に比べ、話の方のこの不親切さあんまりだ。だから勝手に解釈しまうが、ぬいもギンコも片目が見えないのは銀蠱という池の底に棲む眼のない魚のような蠱のせいで、しかし淡幽が取り憑かれたのはトコヤミではなかったか(彼女もギンコのことを想っているからかも)と思うのだが、でもそうだとしても何だというのか。

ただ、蟲という存在を敵対するものとしてでなく、そこにもとからあるものとして位置づけているのは面白かった。だから蟲師の治療行為(というのかどうか)も、蟲を殺すのではなく、憑かれた者の体内から逃がすのである。

あと近代化によって我々が失ってしまったものという意味では、渡辺京二の『江戸という幻景』を読んだ時のことを、少しだが思い出したことを付け加えておく。

  

2006年 131分 ビスタサイズ

監督:大友克洋 プロデューサー:小椋悟 エグゼクティブプロデューサー:パーク・サンミン、二宮清隆、泉英次 原作:漆原友紀 脚本:大友克洋、村井さだゆき 撮影:柴主高秀 水中撮影:さのてつろう 特殊メイク:中田彰輝 美術:池谷仙克 造型:中田彰輝 衣裳:千代田圭介 編集:上野聡一 音楽:配島邦明 VFXスーパーバイザー:古賀信明 ヘアメイク:豊川京子 衣裳デザイン:おおさわ千春 音響効果:北田雅也 照明:長田達也 装飾:大坂和美 録音:小原善哉 助監督:佐藤英明
 
出演:オダギリジョー(ギンコ)、江角マキコ(ぬい)、大森南朋(虹郎)、蒼井優(淡幽)、
りりィ(庄屋夫人)、李麗仙(たま)、クノ真季子(真火の母)、守山玲愛(真火)、稲田英幸(ヨキ)、沼田爆