僕は妹に恋をする

新宿武蔵野館1 ★★

■2人は禁断の恋に生きることを選ぶ

同じ高校に通う双子の兄妹の頼(松本潤)と郁(榮倉奈々)。小さい時から結婚を約束するほどの仲良しだったが、最近の2人は「頼に冷たくされるのに慣れた」という郁の独白があるように、どこかギクシャクしていた。同級生の矢野(平岡祐太)に告白されたものの、頼のことが好きでたまらない郁は、返事を先延ばしする(ひどい話だ)。

実は頼も郁がどうしようもなく好きで、そのことはとっくに矢野に見透かされていた。矢野に郁のことはあきらめないと言われたからかどうか、頼は郁に自分に嘘はつけないと迫り、関係を持ってしまう。

禁断の愛だけにそこに至るまでが難関と思っていたら、それはあっさりクリア。話は想いを確かめ合ってからのことに移る。もっとも内容は結ばれる前に予習済みであるはずの罪悪感といったものだ。母親(浅野ゆう子)も何かを察知するが、なんのことはない、彼女はもう1度だけ顔を出すがそれで終わりだ。

兄妹が恋愛感情になることが理解できないからかもしれないが(でも、双子となると? 生まれる前からずっと一緒、というセリフがあったけど、なるほどそこまでは考えなかったな。何か違うものでもあるのだろうか)、主役の2人よりは、郁に恋する矢野と頼に恋するこれまた同級生の楠友華(小松彩夏)の立場の方が私には興味深かった。

郁に好かれたいと想いながら、それは叶わないと諦念しているのか、お前がゆれたらお終いだと頼に説教する矢野って一体なんなのだ。あとの方でも妹だろうが誰だろうが、好きなんだったら自分の気持ちをごまかしてはダメだというようなことを言う。そんなカッコつけてる場合じゃないのに。

楠も頼と郁のことをわかってての恋(キスシーンまで覗いている)だから、矢野と似ている。どころか、郁に「兄妹でなんておかしい」と説教するだけでなく、頼には「郁の代わりでいいから」と、まるで近親相姦阻止が楠の使命かのような行動に出る。頼にしつこくつきまとい、彼から「好きでなくてもいいなら付き合う」という言葉を引き出し、関係を持つ(ラブホテルに誘ったのは頼だけどね)と、郁の前で頼と付き合っていることをバラしてしまう。去った郁を追いかけようとする頼に言うセリフがすごい。「殴っていいよ。嫌われているうちは、頼は私のものなんだから」

もっとも矢野と楠がいくら頑張っても、頼と郁の2人の世界には入っていけない。2人は仲直りをし、幼い時に「郁は僕のお嫁さんだよ」と頼が結婚宣言をした草原へと向かう。が、トンネルの先にあるはずのその場所は、造成地に変わっていた。

結末の付け方は誤解を招きそうだ。造成地を見て、2人はもう昔には戻れないことを知る。おんぶが罰のジャンケンゲームを繰り返したあと、「俺嘘ついちゃったな、郁をお嫁さんなんか出来ないのに」という頼。キスして、好きだと言い合って、手をつないで歩いて行くのだが……。

登場人物も少なければ、話も入り組んでいない。それが全体に長まわしを多用し、じっくりと人物を追うといった演出を可能にしている。でも、ここは他と違って性急だ。そう思ってしまったのは、2人は関係を清算するのだと解釈してしまったからなのだが、しかしよくよく思い返してみると、昔に戻れないことと、お嫁さんにはできないということは言っているが、2人の関係までをまるごと否定しているのではない。これはやっぱり自分たちの気持ちに嘘はつかないという決意表明としか思えない。

わからないといえば、もっとはじめの方で「私たちはどうして離ればなれになったのか」という郁に、頼が「俺は離ればなれになれてよかった、そのおかげで郁が生まれてきてくれたんだから」と答えている場面がある。2人は離ればなれになったことがあったのか。それとも2人にとっては、生まれてくることが離ればなれになることとでも。

双子の気持ちはわからんぞ。というのが1番の感想だから、矢野と楠が消えてしまうと、私にはとたんに冗長なものでしかなくなってしまう。仕方ないのだけど。

  

【メモ】

頼と郁は同じ部屋の2段ベッド(上が頼)で寝起きしている。母親の疑惑は頼と郁が学校に出かけたあとのベッドメイクから。同室なのは、母親が仕事を始めたのが遅いらしく(父親の不在についての言及はない)、本採用でないから(収入が少ないから)と本人が言っていた。

2006年 122分 ビスタサイズ PG-12 

監督:安藤尋 製作:亀井修、奥田誠治、藤島ジュリーK. プロデューサー:尾西要一郎 エグゼクティブプロデューサー:鈴木良宜 企画:泉英次 原作:青木琴美『僕は妹に恋をする』 脚本:袮寝彩木、安藤尋 撮影:鈴木一博 美術:松本知恵 編集:冨田伸子 音楽:大友良英 エンディングテーマ:Crystal Kay『きっと永遠に』 照明:上妻敏厚 録音:横溝正俊 助監督:久保朝洋
 
出演:松本潤(結城頼)、榮倉奈々(結城郁)、平岡祐太(矢野立芳)、小松彩夏(楠友華)、岡本奈月、工藤あさぎ、渡辺真起子、諏訪太朗、浅野ゆう子(結城咲)

あなたを忘れない

新宿ミラノ3 ★★

■本気で日韓友好を描きたいのなら……

2001年1月26日、JR新大久保駅で酒に酔った男性がホームに転落。助けようとして線路に飛び降りた韓国人留学生イ・スヒョン(26歳)さんと日本人のカメラマン関根史郎(47歳)さんが、ちょうど進入してきた電車にひかれ3人とも死亡するという事件があった。その亡くなった韓国人留学生を主人公にして製作されたのが、この日韓合作映画だ。

兵役を終え留学生として日本にやって来たイ・スヒョン(イ・テソン)は日課のようにマウンテンバイクで東京めぐりをしていた。ある日、路上ライブをしていた星野ユリ(マーキー)の歌声に惹かれていると、トラブルに巻き込まれてマウンテンバイクを壊されてしまい、ユリのバンド仲間でリーダーの風間(金子貴俊)たちにユリの父親の平田(竹中直人)が経営するライブハウスに連れて行かれる……。

スヒョンとユリとに芽生える恋物語を中心とした挿話の数々は決して悪くはないが、といって日韓友好というテーマをはずしてしまうと、そうほめられた内容でもない。

スヒョンは家族思いで、日本に対する偏見もない、とにかく立派な好青年。スヒョンは5歳まで祖父と父と一緒に大阪に住んでいたという設定だから(なのに)、親たちからも嫌な話は聞かされることなく育てられたのだろう(スヒョンに彼の父が「色眼鏡で見ないことだ」と諭す場面もある)。

それに比べると初対面時の平田は偏見の塊。ユリとは喧嘩ばかりというのも、家族が大切なのは韓国では当たり前というスヒョンには理解できないようだ。平田はすでにユリの母親の星野史恵(原日出子)とは離婚していて、商売もうまくいかなくなっている。ユリをなんとか売り込もうとする(形としては風間のバンドとしてだが)が、その点ではユリを利用することでしか自分たちを売り出せない風間も似たようなものだ。果てはスヒョンのマウンテンバイクに車をぶつけながら逃げてしまうタクシー運転手などもでてきて、日本人はどうにもだらしのないヤツらばかりである。

日本のマンガに熱中して日本にやってきたということもあって、スヒョンの親友のヤン・ミンス(ソ・ジェギョン)も悪気のない人物に描かれている。日韓友好を全面に押し出そうとすると、かえってこの日韓の落差が槍玉に上がりそうである。

そんなことは気にしすぎなのかもしれないが、検証はしておくべきだろう。「初対面のベトナム人にベトナム戦争で敵だったと言われた」ことや韓国の兵役が自由のない場所(「日本は何も考えなくていいほど平和で自由」というセリフも。これは皮肉なのだろうけど)であることも語られていたし、すくなくとも映画は公平であることに気を配っていたといってよい。平田にも最後になって見せ場が用意されているし。

なのにいつまでもこだわってしまうのは、「事実に基づいて作られたフィクション」という映画のはじめにある言葉の解釈に惑わされてしまうせいだ。新大久保駅で起きた事件との事実の差についてはいろいろ言われているが、ここまでフィクションに重きを置くのならば、やはりあの事件とは関係なく描いた方がよかったのではないだろうか。

フィクションが取り入れられるのはこの手の映画では当然のことながら、事件から6年しか経っていない生々しさの中で、主人公が実名で出てきては、映画の内容よりそちらの方に興味が向くのはいたしかたないところだ。

例えばスヒョンには韓国に恋人がいたという。それでこんな物語では、恋人は悲しむだろう。韓国に配慮したつもりでいても、こんな大事な部分を改変して韓国で公開出来るはずがないと思うのだが(公開も出来ずに、日韓合作というのもねー)。

ラストシーンもやはり疑問だ。たとえスヒョンが手を広げて電車に立ち向かっていったのが事実(違うと言っている人もいる)だとしても、これについてはどんな形でもいいから捕捉しておかないと、とんでもなくウソ臭いものにしかみえない。

最後の字幕は「この映画を李秀賢さんと関根史郎さんに捧ぐ」で、こうやって締めくくられると、やはり事実の部分が重くのしかかってくる。であれば、なぜ関根史郎さんをあんな扱いにしたのかとか、ホームに人が大勢いたように描いたのかという疑問に行き着くと思うのだが、製作者は何も考えなかったのか。日韓友好を描こうとして、日韓非友好に油を注いでしまっては何にもならないではないか。残念だ。

  

【メモ】

映画のタイトルは、スピッツのチェリーの歌詞から。

2006年 130分 ビスタサイズ 日本、韓国 

監督:花堂純次 プロデューサー:三村順一、山川敦子、杉原晃史 エグゼクティブプロデューサー:吉田尚剛、藤井健、山中三津絵、成澤章 原作:康煕奉『あなたを忘れない』、辛潤賛『息子よ!韓日に架ける命のかけ橋』、佐桑徹『李秀賢さんあなたの勇気を忘れない』(日新報道刊) 脚本:花堂純次、J・J・三村 撮影:瀬川龍 美術:山崎輝 編集:坂東直哉、阿部亙英 主題歌:槇原敬之『光~あなたを忘れない~』、HIGH and MIGHTY COLOR 『辿り着いた場所』 記録:田中小鈴 照明:岩崎豊 録音:西岡正己
 
出演:イ・テソン[李太成](イ・スヒョン[李秀賢])、マーキー(星野ユリ)、竹中直人(平田一真/ユリの父)、金子貴俊(風間龍次)、浜口順子(岡本留美子)、原日出子(星野史恵/ユリの母)、大谷直子(高木五月)、ルー大柴(佐藤)、吉岡美穂(小島朝子)、高田宏太郎(ケンジ)、二月末(テツ)、矢吹蓮(タカシ)、岩戸秀年(ゴロー)、ジョン・ドンファン[鄭棟煥](イ・ソンデ/スヒョンの父)、イ・ギョンジン[李鏡珍](シン・ユンチャン)、ソ・ジェギョン[徐宰京](ヤン・ミンス)、 イ・ソルア[李雪雅](イ・スジン/スヒョンの妹)、ジョン・ヨンジョ[鄭玲朝](ヨンソク)、ホン・ギョンミン(ユ・チジン)