待合室-Notebook of Life-

銀座テアトルシネマ ★☆

■生きていればいいことがある?

朝日新聞に載った記事を元にして作った映画らしいが、記事の記憶はまったくない。興味のあるものでもどんどん忘れていくから、この手の話はまず覚えていない。いわゆるいい話というやつである。新聞にも多分そういう趣旨で載ったと思われる。

東北の小繋(こつなぎ)という無人駅の待合室に置かれたノートに、旅人や近所の人が雑感や悩みなど書き残こしていて、こういうノートはよく見かけるが記事になったのは、駅前にある売店の女主人が、それに丁寧に返事を書いていたということにあるようだ。そのノートには「命のノート」という名前が付けられていて、もうそれだけで私には重苦しいのだが、これはそのノートを始めに置いていった人の命名らしい。

女主人の「おばちゃん」役が富司純子で、彼女が40年前に遠野から小繋に嫁いできた若い時を寺島しのぶが演じている。娘時代をもってきたのは映画としての骨格が足らなかったかったのと、母娘初共演という話題性狙いだろう。もっとも実の親子ながらふたりは、顔立ちも演技の質もあまり似ていないから、別に同じ人物でなくてもよかったような気がする。タイムマシンものではないのだから、母と娘は正確には共演しないのだし。

おばちゃんの現在(老いた母親の話も)と過去に混じるように、ノートに死をほのめかして去る妻と娘を失った男、おばちゃんを取材に来たフリーの女性ライター、同じ町の「鞍馬天狗」と名乗る女房を大切にしてやれなかったという男の挿話などが語られる。どれも心温まる話なのだろうが、全体として突き抜けるようなものはひとつもない。まあ、そういう映画ではないのだが。

唯一批判的なのが若い晶子(あきこ)で、彼女の「生きていればいいことがあるってホントなの」という問いかけはあまりに当然で、ひねくれ者としては少女のこの批判に肩入れしたくなる。もちろんこれはあとに用意されている、晶子と死をほのめかしていた旅人の会話で打ち消されるのだが、説明調ではあるし、こういう問題には答えなど無いから歯切れは悪い。

おばちゃんにしても昔幼い娘を失い、実直な旦那には先立たれるという悲しい過去の出来事に、現在は年老いた遠野にいる母が気がかりで、自身は不自由な足を庇いながら仕事をする毎日、と書き並べれば暗い部分ばかりが目につく。映画が浮ついていないからだろうが、観ていてもっと単純に暖かくなるような話にしてほしくなってしまったのである。

 

【メモ】

ホームページには、「フランスのトムソン社製のフィルムストリームカメラ『VIPER』によってHD非圧縮フルデジタルシネマとして完成。最先端のデジタルシネマ技術は驚くべき映像美を可能にしている」とある。言われてみないとわかならないのね。そんなに目の覚めるような美しさだったかしらん。

いわて銀河鉄道 

昭和39年春 夫は元教師、おばちゃんは看護婦だった

2005年 107分 サイズ■

監督・脚本:板倉真琴 撮影:丸池納 美術:鈴木昭男 音楽:荻野清子 主題歌:綾戸智絵『Notebook of Life』  照明:赤津淳一  録音:長島慎介
 
出演:富司純子(夏井和代)、寺島しのぶ(夏井和代)、ダンカン(夏井志郎)、あき竹城(山本澄江)、斉藤洋介(山本康夫)、市川実和子(堀江由香)、利重剛(塚本浩一)、楯真由子(木本晶子)、桜井センリ(小堀善一郎)、風見章子(浅沼ノブ)、仁科貴(梶野謙造)