ローズ・イン・タイドランド

新宿武蔵野館2 ★★☆

■R-15指定の子供映画

10歳の少女ジェライザ=ローズ(ジョデル・フェルランド)が見て感じた世界をそのまま映像化したような作品。

もっともそのままかどうかはすこぶる怪しい。彼女が生きている世界がそもそも現実味に乏しいのだ。それに彼女が画面に映し出されるということは、厳密には位置関係なども違うことになる。だから、その時は現実と解釈した方がわかりやすいのだが、そこらへんは曖昧だ。

両親共ヤク中で、母親(ジェニファー・ティリー)がクスリの過剰摂取で死んでしまうと、父(ジェフ・ブリッジス)はテキサスにあるすでに亡くなった祖母の家へローズを連れて行く。そこは草原の中の廃屋寸前の一軒家で、父もクスリの力で「バケーション」に行くと言ってそれっきりになってしまう。なんとこのあとのジェフ・ブリッジスは、死体役を続けることになる。

ローズは父の死を認識するでもなく、家の中や黄金色に輝く草原で独り遊びを続ける。焼け焦げてひっくり返ったスクールバスを見つけ、たまに通る列車に狂喜する。学校にも行っていないローズの友達はバービー人形の頭4つだけで、別段それを苦とも思っていないようなのだが(リスとも話が出来ちゃうから?)、やがて近所に住むデル(ジャネット・マクティア)とディケンズ(ブレンダン・フレッチャー)の姉弟に出会う。

デルは黒ずくめで蜂に片目さされたという薄気味悪い女性で、ローズは最初幽霊女と思い込む。弟のディケンズは知的障害者で、この隣人たちとの交流もかなりきわどいものだ(子供が主役なのにR15指定だものね)。デルは性的行為と引き換えに食料品を男から手に入れているし、ローズはディケンズとキス遊びに興じ「結婚」する。

悪意としか思えない設定、そしてそこは死と腐臭に満ちているというのに、ローズには本当にそれらが見えていないのだろうか。だとしたらあまりに幼い。いくら社会性の乏しい環境で育ったにしても、これでは精神年齢からしたら5歳程度ではないか。いくら彼女の想像力が、大好きな『不思議の国のアリス』の影響を受けているにしてもだ。

最後は、死の集大成のような列車の脱線事故が起きる。列車はディケンズのモンスターシャーク退治(あのスクールバスはモンスターシャークにやられたらしい)にあえなく脱線してしまったのだ。この炎に包まれた光景は大がかりなもので、これがまた不思議な雰囲気を醸し出している。ローズはその事故現場を歩いていて1人の女性に乗客と間違えられ、拾われるような形となる。

この列車事故が本当であれば、ローズにとっては不幸中の幸いか。この大惨事すらも幻想というのなら、彼女の願望でもあるだろうから、いくら幻想の世界に遊んでいてもローズはやはりちっとも救われてなどいなかったということになる。

少女の想像世界の映像化は、草原に海を出現させるなど、たしかに良く出来てはいるが、それにしても長い。半分程度で十分と思ったのは私の趣味に合わなかったこともある。きっちり解読したなら何か見えてくるのかもしれないが、くたびれてしまったというのが正直なところだ。

【メモ】

tideland 【名】 干潟、低い海岸地帯  この干潟という言葉に、陸地と海(現実と夢)の境界線というような意味をもたせているのだろうか。

父親は元ロックスター。彼は昔を懐かしんで、母親のことを「グンヒルド王妃」と呼んでいるが、美貌は過去のもので下腹もたるんでいる。ローズは足をもんであげている。母親はメタドンによるショック死。

当然のように父親にクスリを持ってきて注射の手伝いをするローズ。死んだ父親の膝の上でローズが目覚めるシーンも。父親にお祖母ちゃんのかつらをつける。次の日?には死体は悪臭を放ち、ローズはおならをしたと言う。

うさぎの穴に落ちるローズは、ほぼアリスのイメージ)。草原の海の中を行くローズ。ウェットスーツ姿のディケンズ。

水平線の傾いた絵(映像)。これは何度も出てくる。

原題:Tideland

2005年 117分 スコープサイズ イギリス/カナダ R15 日本語字幕:■

監督:テリー・ギリアム、脚本:テリー・ギリアム、トニー・グリゾーニ、原作:ミッチ・カリン、撮影:ニコラ・ペッコリーニ、音楽:マイケル・ダナ、ジェフ・ダナ

出演:ジョデル・フェルランド(ジェライザ=ローズ)、ジェフ・ブリッジス(父親ノア)、ジェニファー・ティリー(母親グンヒルド王妃)、ジャネット・マクティア(デル)、ブレンダン・フレッチャー(ディケンズ)