宮本武蔵 双剣に馳せる夢

2009/6/28 テアトル新宿 ★★★

■押井守流宮本武蔵論

アニメを使った宮本武蔵に関する文化映画みたいなものか。予告篇では「押井流“歴史ドキュメンタリー”登場」と紹介されていた。

アニメをベースにしたのは、作り手にとってそれが手慣れた手法ということもあるのだろうが、こういう文化映画でのアニメは、観るとわかるのだが、解説との調和が抜群で、映画を非常にわかりやすいものにしている。だからアニメがベースなのは、そういう利点を取り入れた結果でもあるのだろう。

事実、この作品にはアニメの他、実写もあれば、単純に写真も使い、ギャグキャラ押井守似宮本武蔵研究家(+役に立たない助手)の研究成果=蘊蓄(これが実にわかりやすくて面白かった)でほとんどを語っているものの、関ヶ原の合戦などでは浪曲を取り入れたりと、形にとらわれずに解説しまくっていた。まあ、こうすれば理解しやすくなるのはわかったが、構成や美的な趣味を考えると、私なら躊躇ってしまいそうだ。

内容も、いきなり有名な巌流島の決闘から始め、これについて武蔵が終生語ろうとしなかったのは何故か、という疑問で引っぱり、飽きさせない。知っているようで知らない宮本武蔵像に迫っていく。私も吉川英治の小説と、多分それを元にした映画くらいしか知らなかったからねぇ。「武蔵を巡る虚構を排し、その背後に存在するであろう真実の姿を描きだすこと、それこそが、私の研究テーマであり、そしてこの映画の主題です」と、武蔵研究家がズバリ言っていたが、ここでの論に自信があるのだろう。

武蔵の剣法が合戦をイメージしたものと結論づけるのだが、そこに至るまでの道筋を武士の成り立ちから考えるなど、奥の深い整然としたものだ。西洋、東洋、日本の武士の違いから、西洋の騎士はエリート特科部隊としての騎兵であって、彼らが付けていた紋章は身代金を払うためのサインだったという、びっくり論にまで及んでいて、これを聞いただけでも観る価値があった。

他にも、明治まで武士道など存在しなかったなどという、これまた言われてみると、なるほどと思うような話があったが、だけど、何で今、武蔵なんだろね?

2009年 72分 シネスコサイズ 配給:ポニーキャニオン

監督:西久保瑞穂 原作:Production I.G 原案・脚本:押井守 撮影:江面久美術監督:平田秀一 編集:植松淳一 主題歌:泉谷しげる『生まれ落ちた者へ』 CGIアニメーション:遠藤誠 キャラクターデザイン:中澤一登 音響:鶴岡陽太 作画監督:黄瀬和哉 美術監督:平田秀一 色彩設計:遊佐久美子 制作:Production I.G 浪曲:国本武春

ミーアキャット 日本語版

新宿武蔵野館1 ★★

■貧血か居眠りか?

ミーアキャットのことはほとんど知らなかったし、動物ものなら見ていてあきないのだけれど、そしてコンパクトにまとまった予告篇はよくできていたのだけれど、そうはいっても物語映画にするようなフィルムだったか、という疑問は残る。テレビのドキュメンタリー番組として、解説もふんだんに入れてくれた方がタメになったように思うからだ(この内容なら時間も半分以下ですむだろう)。

家族愛(大家族)があって、ワシやコブラという天敵もいれば、同じミーアキャット同士の縄張り争いもあり、これを物語にしない手はないと踏んだのだろうが(後述の見せ場が撮れてしまったからかも)、でも生まれたばかりの1匹をコロと名付けて擬人化したことで、結局はありきたりの成長物語にするしかなくなってしまったともいえる。

教育係の兄(親ではないのね)からサソリの捕獲を教わったり、その兄の死(見分けがつかないのだな)や、コロが群れから離れてしまい、なんとか帰還する話も挿入してはいるが、ちょっと苦しい。

もちろん見せ場がないわけではない。巣にまでもぐり込んできて画面に大写しになるコブラは迫力で、しかも巣の道が二股に分かれた前で、コブラがどちらに行ったらよいか迷う(!?)というコブラの視点に切り替わる場面もある。コブラが尻尾を攻撃され、体を折り返すようにして狭い巣穴を戻っていくまでの編集は、アクション映画顔負けである。しかもこの場面は、後で起こるゴマバラワシの襲撃の伏線になっていて、結局悪役コブラは、ミーアキャットの代わりに、もう一方の悪役ゴマバラワシの餌食になってしまうというオチまでつく。

この話を可能にしたのは、巣穴でも写る赤外線カメラや至近距離での映像なのは言うまでもないだろう。体長30センチというミーアキャットの視線から見ると、世界も一変する。カラハリの、過酷な地だという説明がつく割には、意外と狭い範囲に多くの生き物がいる事実にも驚かされる。

その撮影だが、オフィシャル・サイトに行ったら、本当に手の届くような至近距離で撮影している写真があってびっくりした。ミーアキャットに、人間は安全な生き物と認識させてしまったのだろうか。30センチの視線は、単純に穴を掘ってカメラの位置を下げたようだ。

ミーアキャットが日光浴のために後ろ足と尾で直立する姿が可愛らしいため、これが盛んに宣伝に使われている。利用しない手はないと私も思うが、予告篇は「日光浴を時々やりすぎて貧血をおこす」なのに、オフィシャル・サイトの説明文だと「陽だまりの心地よさに立ったまま居眠りを始める」なの?

原題:The Meerkats

2008年 83分 シネスコサイズ イギリス 配給:ギャガ・コミュニケーションズ

監督:ジェームズ・ハニーボーン 製作:トレヴァー・イングマン、ジョー・オッペンハイマー 構成:ジェームズ・ハニーボーン ナレーション脚本:アレキサンダー・マッコール・スミス 撮影:バリー・ブリットン 編集:ジャスティン・クリシュ 音楽:サラ・クラス ナレーション:ポール・ニューマン 日本語版ナレーション:三谷幸喜