アタゴオルは猫の森

新宿武蔵野館3 ★★

■「秩序」対「紅鮪」? 

ますむらひろしの原作を知らない者にはタイトルからしてよくわからない。猫の森といいながら人間もいて、でも猫だって擬人化されたもので、その関係や違いがわからないのだ。まあ単純に、アタゴオルという所は動物も人間も対等でいられる楽園とでも解釈しておけばいいのだろうか。

で、そこの年に1度の祭りの日に、ヒデヨシというおさがわせデブ猫が、好き勝手に暴れ回る幕開きとなる。ここはそれなりのインパクトがある。がヒデヨシが、欲望(食欲)に忠実であるという部分を強調するあまり、自分だけ楽しければいいただのわがまま猫にしか見えず、次第に乗れなくなってくる(少し長いこともある)。

祭りを荒らし回ったヒデヨシは棺桶のようなものを見つけ、開けるなと言われるのもかまわずその蓋を開けてしまう(なにしろ言うことを聞かないヤツなのだ)。封印を解かれて現れた植物の女王というピレアが言うには、何でもかつては知性ある植物が世界を支配していたのだと。そして、やおら「あなたがたへ贈り物があります」と言うのだが……。

ピレアは、アタゴオルを秩序ある安らぎの世界に変えるのだと説く。ピレアのもとにいると、世界は歌に満ちて、気持ちよくなって、歌わずにはいられなくなる。生き物たちは片っ端から花(植物)に変えられていくのだが、抗う理由が見つからない。ふうむ、アタゴオルは楽園ではなかったか(人間+猫は欲が深いからねー。それともヒデヨシのような迷惑なヤツがいるからとか)。

しかし、これには当然裏があって、植物に変えることでピレアは自分の言いなりにしたいわけだ。つまりは自分のすることを邪魔されたくないらしい(あれ、ヒデヨシじゃん)。若さを得るために生き玉?を食べる目的もあるらしいのだ。そして、「この星が私そのものになって、私の種子がこの星を被い、無数の私が芽吹く」ようにするというのだ。ただ描写としては手抜きで「根っこがからみついてジャングルが息苦しそう」と言われるくらいでは、何が悪いのかが判然としない。蝉男やギルバルス(何なんだ、こいつらは)がテキトーに解釈してるだけで。

とにかくピレアは悪いヤツなのだ。そして彼女を封印できるのは、植物の王であるヒデコだけなのだと。そのヒデコだが、ピレアが封印を解かれたとき同時に現れていて、何故かヒデコは父親にヒデヨシを選んでいたのだった。しかしこの説明はくだならい。植物女王ピレアは最初から魔力を使い放題なのに、植物王ヒデコは力強く成長するためには父親が必要って、もっとうまいでっち上げを考えてくれないと。紅鮪一筋で好き勝手し放題のヒデヨシだが、何故かヒデコには愛を感じて、ちゃーんと父親たらんとする。これも何だかなー。

ということで対決です(ムリヤリだ)。

「父親ってうまいのか」と馬鹿なことを言っていたヒデヨシなのに、急に人格が変わったように「俺たちはとことん生きるために生まれてきたのよ」とか「この父上にまかせなさい」と、ピレアに立ち向かっていく。大地と直結したヒデヨシの途方もない生命力は、負けはしないがやっつけることもかなわず、ピレアを封印すると自身も消えてしまうヒデコに頼るしかなかった(つまりどこまでもピレアとヒデコは一体なわけだ)。

最後はまた蝉男の解説があるし、「完全じゃないから面白い。完全じゃないから素敵」とかやたら説教じみているのが気になる。完全……の部分は、秩序ある安らぎの世界への当てつけなんだろうけど、でもだったら最後のダンスは全員同じではなく、バラバラにしないとまずいんじゃ。はずしてる爺さん猫はいたけどね。って、そうか、ちゃんと異質な(完全でない)部分にも焦点を当てているってか。

構図や色使いは素晴らしいのだが表情はいまひとつ。これは全員に言えることだが、ヒデヨシに至っては最初から最後まで細目で通してしまっている。猫の擬人化は、マンガならごまかせることがアニメだとむずかしいわけで(バイオリンの弦に指がかかっていなかったりする)、しかもこれは3DCG。ま、これについては何も知らないに等しいからうかつには語れないのだが、でもとにかく猫である必然性はないよね。

筋もひどいが、やっぱり基本からきちんと考えるべきだろう。キャラクターだけの魅力で作っちゃいかんのだな。

 

【メモ】

びしょびしょ君(ヒデヨシはピレアをこう呼ぶ)

音楽で最高の幸せ。満腹の幸せ。みんなの幸せを壊すヒデヨシ

「オッサン、あんたが父上か」「その父親ってのはうまいのか」

すべての生命力はこの星と繋がっている

カガヤキヒコノミヤ(ヒデコ)

「こんなに心がやすらぐのなら花になるのも」「花になったら腹一杯食べられない」

2006年 81分 スコープサイズ アニメ

監督:西久保瑞穂 原作:ますむらひろし『アタゴオル外伝 ギルドマ』 脚本:小林弘利 音楽:高橋哲也 音楽プロデューサー:安井輝 音楽監督:石井竜也 CGディレクター:毛利陽一 CGプロデューサー:豊嶋勇作 キャラクターデザイン原案:福島敦子 音響監督:鶴岡陽太 色彩設計:遊佐久美子 制作:デジタル・フロンティア 美術デザイン:黒田聡
 
声の出演:山寺宏一(ヒデヨシ)、夏木マリ(ピレア)、小桜エツ子(ヒデコ/輝彦宮)、平山あや(ツミキ姫)、内田朝陽(テンプラ)、田辺誠一(ギルバルス)、谷啓(蝉男)、石井竜也(MCタツヤ)、谷山浩子(テマリ)、佐野史郎(竜駒)、牟田悌三

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