フラガール

シネマスクエアとうきゅう ★★★

■「常磐ハワイアンセンター」誕生秘話

常磐ハワイアンセンターは今でもスパリゾートハワイアンズとして健在なのだと。私の世代だと常磐ハワイアンセンターは超有名だ。行ったことはないが、東北にハワイを作るという奇抜さに加え、その垢抜けなさを話題にしていた記憶がある。

その日本のテーマパーク(もちろんこんな言葉などなかったし、規模としてはどうなんだろう)の草分け的存在(初となると明治村だろうか)であるリゾート施設がオープンしたのが、昭和41(1966)年1月で、そこでの呼び物がフラダンスだったというのだから、なんとも驚きだ。そして、これが石炭産業の斜陽化からの脱却という苦肉の策で、温泉としてはもともとあったものの、坑内から湧出しているものを利用してのものだということもはじめて知った。

炭鉱の娘の紀美子(蒼井優)は、「ここから抜け出すチャンス」という早苗(徳永えり)に誘われてフラダンサーに応募する。父を落盤事故で失い、母(富司純子)と兄(豊川悦司)も炭坑で働いている紀美子の将来は決まっていたようなものだったが……。

ど素人の踊り子候補者たちに、訳ありのダンス教師の平山まどか(松雪泰子)。不況産業なのはわかっていても炭坑にしがみ付くしかない者と、ハワイアンセンターに就職した元炭鉱夫たちを配して、しかし映画は、すべてが予定調和に向かって進む。早苗が志半ばにして夕張に越して行かなければならなくなるのは例外で、幸せなことにハワイアンセンターをきっかけにした全員の再生物語になっているというわけだ。

もちろんリストラや落盤事故の悲哀も背景に描かれているし、紀美子の兄のことなどは、こと仕事に関していえば、まあテキトーに忘れ去られているのではあるが、なにしろ炭坑そのものがとっくの昔になくなってしまっていて、だからうやむやになっていてもいたしかたない面はある。それに痛みは当然だったにせよ、ハワイアンセンターは成功し、リストラの受け皿としてもそれなりに機能したのだから。

紀美子だったりまどかだったりと、多少視点が定まらないうらみはあるが、ひとつひとつの話はうまくまとまっていて、オープン日のフラダンスシーンに結実している。「オレの人生オレのもんだ」と家族に啖呵を切った紀美子が、正座の痺れで立ち去れなくなったりするような笑いは心得たものだし、早苗に暴力をふるう父親に怒ってまどかが男湯に乗り込んでいくというびっくり場面も上出来だ。

ただし、別れの場面や泣きの演出になるとこれが毎回のように冗長で、昔のこの地方の国鉄なら電車の発車を待っていてくれたのかもしれないが、こちらとしては、そうは付き合っていれない気分になる。

ほとんど知らなかった松雪泰子が根性のあるところを見せてくれた。センターの吉本部長役の岸部一徳もいい。「(ヤマの男たちは)野獣です。山の獣(けだもの)です。実は私も半年前までは獣でした」というセリフからしておいしいのだが、最後の方でもはや「よそものの先生」ではなくなったまどかに「先生、いい女になったな」というあたり、ちゃんと見る目があることをうかがわせる。富司純子はセリフに力がありすぎだ。

画面に再現された炭坑町(炭坑長屋?)やボタ山の遠景にも見とれたし、昨今あまり聞くことがなかった福島弁が新鮮だった。

   

【メモ】

フラにはダンスという意味も含まれているので、フラダンスという言い方をやめて「フラ」に統一しようとしているらしいが、フラダンスと日本語で発音しているもの(つまりは日本語なのだ)を無理矢理変える意味があるのだろうか。

画面上のタイトルは『HURA GIRL』。

この時点(映画の説明)で、全体の4割、2000人の人員削減が目標。社運を賭けたハワイアンセンターは、18億円を投じても雇用は500人。

ダンサー募集に人は集まったものの、フラダンスの映像を見て「オラ、ケツ振れねぇ」「ヘソ丸見えでねえか」とストリップと混同して逃げ出してしまい、最初に残ったのは3人(早苗と紀美子に子持ちの初子)のみ。それと会社の役に立って欲しいと男親が連れてきた小百合が「厳しい予選を勝ち残った者」(吉本部長がまどかにした説明)となる。

東京からきた平山まどかは、フラダンスはハワイ仕込みでSKD(松竹歌劇団)で踊っていたというふれこみだが、それは本当らしく、「SKDではエイトピーセス(何これ?)だったの」というセリフも。「自分は特別だと思っていたのに、笑っちゃうよね」というのがそのあとに続く。

宣伝キャラバンツアーではまだまだ半人前。ドサ回り(ドサからドサへ、だが)までやっていたのね。

紀美子の母は婦人会の会長で、最初は紀美子のフラダンスに猛反対していたが、娘の練習風景を見て「あんなふうに踊って人様に喜んでもらってもええんじゃないかって」と思うようになり、寒さで椰子の木が枯れそうだと聞くと「ストーブ貸してくんちゃい」とリヤカーを引いて家々をまわって歩く。

まどかはしつこくヤクザに付きまとわれるが、紀美子の兄が借用書を破ってしまう。

2006年 120分 (ビスタ)

監督:李相日(リ・サンイル) 脚本:李相日、羽原大介 撮影:山本英夫 美術:種田陽平 編集:今井剛 音楽:ジェイク・シマブクロ

出演:松雪泰子(平山まどか)、蒼井優(谷川紀美子)、豊川悦司(谷川洋二朗)、富司純子(谷川千代)、岸部一徳(吉本紀夫)、徳永えり(早苗)、山崎静代(熊野小百合)、池津祥子(初子)、三宅弘城、寺島進、志賀勝、高橋克実

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