マン・オン・ワイヤー

2009年7月5日 日曜日

テアトルタイムズスクエア ★★★

テアトルタイムズスクエア通路での作品に関する展示。写真1の中央下は、日本にやってきたフィリップ・プティが、5/19に渋谷区の桜丘公園で大道芸を披露したときのもの。

■人生を変えた伝説の綱渡り

昔のマンガ故(四十年以上前か)うろ覚えなので申し訳ないのだが、一峰大二の忍者マンガに次のような場面があった。殿様が忍者に術を見せてくれとせがむと、その忍者は襖の敷居の上をスタスタと歩いてみせるのだ。殿様が、そんなことなら儂にもできると言うと、忍者は敷居の左右が断崖絶壁でも同じように出来るでしょうか、と平然と答えるのである。

綱渡りは、敷居歩きとは違ってさらなる技もいりそうだが、でもたとえそれが五メートルや十メートルの高さで出来たからといって、地上四百十一メートルで同じことが可能かというと、やはり別問題のような気がしてしまう。で、マンガを思い出してしまったのだが、しかし達人にとってはやはり同じことのようなのだ。これは、私にそのことを証明してくれた映画なのでもあった。

やってしまったことがいくら大それたことであっても、そしてその行為が「四十五分間とどまり八回渡った」という予想外に長い時間におよんだにしても、でも、それだけでは映画にはなるはずがないと思っていたが(実際その場面は、四十五分よりずっとずっと短いものであった)、そんな心配は杞憂にすぎず、すこぶる面白いドキュメンタリーに仕上がっていた。

今となってはワールド・トレード・センターのツインタワーが9.11(二千一年)で姿を消してしまったことも、直接関係はなくてもこの綱渡り伝説の一部を彩っていそうである。が、むろんそれはたまたま付加された一挿話にすぎない。そのことより、フィリップ・プティがこの計画を閃いたのが、ツインタワーの完成予想図を見てのことだったのには、なるほどと思ってしまう。なにしろツインタワーという形状が、綱渡りを可能にしているのだから。ツインタワーの頂上を目指したのはキングコングだけじゃなかったのだ。

当時の関係者(恋人や友達など)がいまだに興奮状態で語っている様子をみても、その行為のとんでもなさがわかるのだが、偽の身分証を作ったり、まだ建築中(完成間近)の建物に忍び込んでも二つのタワーの間にワイヤーをかけなくてはならないなど、意外と綱渡りの前までにクリヤーしなければならない関門が多いのだった。

そしてこれがさながらサスペンス映画ばりの侵入映像(犯罪だからね)で語られていく。チームには雇われ要員?までいて何やら不穏な雰囲気にもなって、って、まるで銀行強盗映画ではないか。この再現が巧みで、一瞬とはいえ当時のフィルムかと思ってしまったくらいなのだが(でもまあ芸術的すぎたかしらね)、綱渡りの瞬間でさえ、至近からのものは写真しか残っていないのだから、そんなわけはないのだった。

今のようにムービーが身近なものではなく(その他の映像はいくつも残っていて、この映画でも使われているから、珍しいというのではないのだが)、そして千九百七十四年当時、世界はまだまだ遠くにあったのだ。日本にもこのニュースは流れたというが、私がぼんやり人生を送っていたからにしても、こんな快挙が伝わってなかったなんて今では考えられないことだからだ。

映画としてはこのハイライト部分で終わりのはずだが、この行為によって人気者(実体は犯罪者なのだが)になったプティの、犯罪としてではない過ち場面を、映画は再現フィルムにしてまで、あえて付け加えている。それは昂揚したプティが、彼の前に現れた女性ファンとどこかのベッドへ行った、というものだ。この場面を入れたということは、プティは今では過ちとは思っていないのだろうか。「アニー(恋人の名)への裏切り」と、はっきり言っていたが。そしてそのアニーも「二人の愛はそこが終点」と。

伝説になるようなことをしてしまったら、やはり何かが変わってしまうのだろう。そうに違いない。

が、またそれとは別に、あれから何年も経ってしまったという、ただ単に時間が経ってしまったということもあるだろう。プティはあのあとツインタワーの永久入場証をもらったらしいが、ツインタワーが丸ごと無くなってしまっては永久も何もないではないか。時の前では、不変であることの方が難しいようだから。

ところで、綱渡り場面のプティはパンタロン姿だった。そういや、あの頃、流行ってたよなぁパンタロン。パンタロンって風の影響を受けやすそうなんだけど(考えすぎ?)、若いプティは、それよりスタイルを気にしたんだろうね。

 

原題:Man on Wire

95分 イギリス ビスタサイズ 配給:エスパース・サロウ 日本語字幕:?

監督:ジェームズ・マーシュ 製作:サイモン・チン 製作総指揮:ジョナサン・ヒューズ 原作:フィリップ・プティ 撮影:イゴール・マルティノヴィッチ 編集:ジンクス・ゴッドフリー 音楽:マイケル・ナイマン

出演:フィリップ・プティ

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