消されたヘッドライン

2009年5月31日 日曜日

TOHOシネマズ錦糸町スクリーン6 ★★★

■テレビじゃないんだから、じゃなかったの

よくできたサスペンスドラマと感心していたら、英BBC製作のテレビミニシリーズ『ステート・オブ・プレイ 陰謀の構図』(NHK BS2で放映されたらしい)を、舞台をアメリカにリメイクしたものだという。なるほど、よく練り込まれた脚本だ。が、ミニとはいえテレビシリーズを映画にまとめた弊害も出てしまっている。

弊害は大げさにしても、贅沢に配したキャストがもったいないくらいに、それぞれの挿話が詰め込みすぎな(というか観ている方にとってはあっさりすぎな)感じがしてしまうのだ。映画の出来が悪いというのではなく(一番悪い部分は最後だろうか)、もっともっと人物の相関図の中に入っていきたくなるのである。

女性スタッフのソニア・ベーカーが死んだという知らせに、スティーヴン・コリンズ議員が大事な公聴会で涙を見せるという出だしには、あんまりな気がしてしまったが、これと別の殺人事件が繋がっていることに気づいたワシントン・グローブ紙の記者であるカル・マカフリーが、ベテランらしい記者魂で調査を進めていく流れは、見応えがある。

カルが長髪のむさくるしいデブ男で、ちっとも颯爽としていないのもいい。『グラディエータ-』の戦士が九年でこうも変わってしまうものなのか。これがラッセル・クロウの役作りであるのならいいんだが。

新聞社の内部事情が面白い。紙媒体の新聞はもう売上増は見込めず、ウェブ版の女性新進記者デラ・フライが重用されているような雰囲気だったりするのだが、このデラが新米ながらなかなかで、カルと仕事を通して信頼関係を築いていくサブストーリーも上出来。また女編集局長のキャメロン・リンは立場上、カルの記事にいろいろな意味での圧力をかけざるを得なくなるのだが、ここらへんの匙加減もうまいものだ。

コリンズ議員に話を戻すと、彼はカルとは大学時代からの親友で、あの涙はやはりスティーヴンの不倫の証なのだった。マスコミに追われたスティーヴンは、行き場を失ってカルの家にやってくるのだが、カルにしてみればスティーヴンは情報源でもあり、しかし、それ以上にスティーヴンの妻アンにカルが惚れていたことがあり、それはお互い単純に昔のこととは割り切れずにいるようなのだ。

スティーヴンに、アンに対する愛情がもうなくなっているからいいようなものの(って書くとまずいかしら。愛情がないにしては「友達なのに俺の妻と寝た」などとも言っていた。これは相当昔の話ではないかと思うのだが?)、でもカルが、スティーヴンを助け君(アン)を守りたい、と言った時などのアンの反応にはあまり惹かれるものがなかったので、私としては少々ほっとしたのも事実。そんなだから、カルはアンにも「私はただの情報源」などと言われてしまう。

事件を追うことで、カルは自分の生き方も問われることになるのだが、そこに深入りしている暇がないのは惜しい。最初に書いたように、映画の出来がいいので、もっとこういった部分を覗きたくなってしまうのだ。現実の世界だと、人間関係は曖昧なままであることが多いのだが、小説や映画では、読者や観客はそういう部分こそを知りたいのだから。

と考えると、最後に明らかにされるコリンズ議員の企みは、やはりひねりすぎだろうか。ソニアにはいろいろ事情があって、最初こそスパイとして送り込まれたものの、スティーヴンを愛して、そして妊娠もしていては、もうそれで十分じゃないかという気になってしまったのだったが。

軍事産業の陰謀という構図が浮かんできたところで、テレビじゃないんだから、と映画の中でも言わせていたが、この結末はエンタメ指向の何物でもなく、テレビじゃないんだから、とさらに派手にしてしまったのだろうか。テレビ版にすでにあったにしても削除すべきだし(映画の方はただでさえ尺が短いのだから)、なくて加えたのなら問題だろう。

ところで、『消されたヘッドライン』という邦題はインチキで、せいぜい「消されかかった」だった。

原題:State of Play

2009年 127分 アメリカ、イギリス シネスコサイズ 配給:東宝東和 日本語字幕:松浦美奈

監督:ケヴィン・マクドナルド 製作:アンドリュー・ハウプトマン、ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー 製作総指揮:ポール・アボット、ライザ・チェイシン、デブラ・ヘイワード、E・ベネット・ウォルシュ 脚本:マシュー・マイケル・カーナハン、トニー・ギルロイ、ビリー・レイ オリジナル脚本:ポール・アボット 撮影:ロドリゴ・プリエト プロダクションデザイン:マーク・フリードバーグ 衣装デザイン:ジャクリーン・ウェスト 編集:ジャスティン・ライト 音楽:アレックス・ヘッフェス

出演:ラッセル・クロウ(カル・マカフリー/新聞記者)、ベン・アフレック(スティーヴン・コリンズ/国会議員)、レイチェル・マクアダムス(デラ・フライ/ウェブ版記者)、ヘレン・ミレン(キャメロン・リン/編集局長)、ジェイソン・ベイトマン(ドミニク・フォイ)、ロビン・ライト・ペン(アン・コリンズ/コリンズの妻)、ジェフ・ダニエルズ(ジョージ・ファーガス)、マリア・セイヤー(ソニア・ベーカー)、ヴィオラ・デイヴィス、ハリー・J・レニックス、ジョシュ・モステル、マイケル・ウェストン、バリー・シャバカ・ヘンリー、デヴィッド・ハーバー、ウェンディ・マッケナ、セイラ・ロード、ラデル・プレストン

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